いつしかそれは
投稿二作目となります。
始まりは、初恋。
好きな女の子ができた。
その子が動物を飼っていた。
だから彼は、同じ動物を飼って話しかける口実を作った。
好きな女の子が飼っていたのは、ネザーランドドワーフという種類の、雄の兎。
それを知った当時小学五年生の彼は、同じ毛色のネザーランドドワーフの雌を飼い始め、勇気を振り絞って声を掛けた。
「俺もウサギ飼ってるんだけど……妹が赤ちゃん産ませたいって言ってて」
ちなみに、今思うとこの台詞は相当無理があった。
彼が飼い始めたのは、ネザーランドドワーフの子供だったから。
だがそんなこととは無関係に、彼の勇気は霧散した。
「ごめんなさい。うちの子、取っちゃったから」
彼は疑問符を浮かべた。
『取っちゃった』の意味が理解できなかったのだ。
結果、聞いてしまった。
あろうことか、
「それってどういう意味?」
と。
その子は顔を赤くして、それ以降彼と話してくれることはなくなった。
動物を飼った経験がなかった彼は、後に兎の避妊手術をすることになってようやく去勢という言葉とその意味を知った。
決して恥ずかしい言葉を言わせよう、なんてセクハラ的意味合いはなかった。
彼にとって幸運だったのは、程なくして次の恋を見つけられたことだろう。
その子はオカメインコのルチノーという品種の雄を飼っていたため、初恋のときと同じように会話のきっかけを作ろうとした。
ところが、彼が話しかける前に彼女は転校してしまう。
残されたのは、雌のネザーランドドワーフと雌のオカメインコ。
これが彼の、小学生時代。
中学に入学した直後、彼に好きな女の子ができた。
とても清純そうな子で、本当に一目惚れだった。
あるとき、その子が柴犬を連れて散歩をしているところを偶然見かけた。
当たり前のように柴犬を飼おうとした彼だったが、中学生が簡単に払える額ではない。
しばらくして、母親の知り合いが飼っているチワワが子供を生んだことで、彼の意思とは無関係に家族が増えた。
けれど、彼にはもう必要なかった。
一目惚れした女の子が、学校で煙草を吸っているところを目撃してしまったから。
次に彼が恋をしたのは、行きつけのペットショップでアルバイトをしている女の子だった。
高校生の彼女は無類の爬虫類好きだった。
共通の話題が欲しかった彼は、トカゲやヘビ、カメレオンなんてものまで探した。
しかし、爬虫類は総じて昆虫を餌にすることが多く、大の虫嫌いだった彼はまたしても諦めざるを得なかった。
ところが、妹から『亀は野菜が主食』と教えられ、彼は別の答えを導き出してしまう。
丈夫で世話も簡単な、ヘルマンリクガメという種類の雌の亀だ。
アルバイト店員とは自然と仲良くなれたが、学校帰りにペットショップに寄った際、コオロギを鷲掴みにしてイグアナに上げている姿を見て、彼の恋は呆気なく散った。
以降、彼はそのペットショップに足を踏み入れていない。
その後も似たような出会いと別れを経験して、その度に家族が増えていった。
これが彼の、中学生時代。
勝手に恋して、勝手に散る。
そんな自分勝手な恋愛に彩られた日常を過ごしていた少年、移戯憂晴は、もうじき高校生になる。
移り気な恋心とは対照的に、飼っている動物達への愛着は日に日に増していき、今ではなくてはならない存在になっていた。
残念ながらその家族は、春から減ってしまうことになるのだが。