出会い①
オリンポスはテイターンの襲来防止及び汚染された地上からの離脱のために人類によって建造された3つの空中都市の1つで、他にパルテノンとエルサレムと言われる同型の都市が存在して、まとめてエデンと呼称されている。
このエデンと言われる都市は外から見ると、灰色の霧の海に浮かぶ、島の様に見える。実際は都市の下に何本もの塔があり、その上に都市が乗っているのだ。塔と都市の狭間は多層構造でキノコの傘のように反りながら水平に広がりその回りに植物の根のようにパイプが生えていた。ここにはメンテナンス用の足場はあるものの、誰もいないのが当たり前の場所だ。
そんな所のパイプの合間に身を潜めている男がいた。
まだ若い青年でとても美しい顔立ちだ。
しかし、その顔よりも特徴的なのは異形の左腕だ。簡単に説明するならば、巨大な銃身が付いている。左上半身から巨大化し、スマートな銃身とそれを覆う細かい穴のついたカバーのようなものが左腕として存在していた。
「遂に逃げ出したけれど、そろそろ追っ手が来る頃かな?」その青年は物憂げに呟く と同時に風が吹き、青年の姿を霧が隠してしまった。
孔践とサラはビルの地下でガイアの破片と呼ばれる物の前に立っていた。
このガイアの破片を自由に使いこなせるのはクセノリオンと呼ばれるサラや孔践の他に僅かしかいない。そして二人とも他のクセノリオンの存在をほとんど知らなかった。
「まあ、考え込んでも仕方ない。行くぞ」孔践が妙に元気な声を出した。
表情は冴えない。
「そんなに無理しなくていいのよ・・・・」サラが心配そうに言う。
彼女は孔践の不安を感じていた。
そしてその不安は彼女も共有していた。
だからこそ気遣ったのだ。
「心配いらない、問題ないさ」孔践は前を向いた、
先ほどの表情と余り変わらないが、目に闘志が宿った。
その目を見たサラも覚悟を決めて、目の前のガイアの破片に目をやった。
この力があれば、自分はどんなことでも出来る。
自分の可能性を広げてくれる力だ。
サラはこのガイアの力に名前を着けていた。
自分が大好きなウサギを模した、戦う女戦士・・・
「行くわよ・・・バニーヴァルキリー!!」
破片に身を沈めるとサラはあの巨人の姿をイメージする。
すると破片が蒸気を上げながら自然に変化し、1分もかからず緑白色の巨人、バニーヴァルキリーを出現させた。
蒸気を纏った体を軽く動かし、動きを確かめる。
この時既に、サラの肉体はバニーヴァルキリーと融合しているので、自分の体を動かすように操ることが出来るのだ。
「準備は出来たわ!さあ行きましょう!!」
サラは外へ出る扉を開けた。風と共に濃い灰色の霧が流れ込み、視界を遮る。
常人には見えないが、サラはバニーヴァルキリーの視力を持って着地地点を見つけた。
「俺のセフィロトも行ける」孔践もサラの横に立った。腕は緑色に変わり、巨大化している。
サラは孔践の腕を掴むと霧の海に飛び降りていった。
数秒間空中を落下し、二人はあるパイプの上にズンッと着地した。
「孔践、敵は見つけた?」サラは背中を預けた相棒に聞く。
孔践は両腕から細い植物の根のような触手を辺り一面に着地した瞬間に伸ばしていた。つまり、この触手が敵に触れば敵の位置を知ることが出来ると言うことだ。孔践は暫く押し黙っていたが、触手を引っ込めると「近くにはいないようだ。まるで反応がない」と首を振った。
「じゃあ先に相手を見つけた方がこの戦い、有利に進むわ。行きましょう」サラは孔践を促した。
「まあ、お前の視力があれば目視ならこっちに理があるが慎重に行こう。おそらく今回の敵は・・・同じクセノリオンだ」
「やっぱりね。私も同じ事考えていたわ。やな戦いよね」
二人は全感覚を集中して進んでいった。
「なに?なんか来たの?ライラプス?」
都市と塔のはざまに、サラと孔践のコンビの他にもう一組、少女と犬のコンビがいた。
少女の方はまだ小さく、子供の様だ。短い茶髪で目には幼さがある。Tシャツに、短パンと活発そうな格好だ。犬の方はというとかなり変わっていた。大きさは子牛ほど、体色は緑の巨犬でオオカミのような顔をしている。この緑色の巨犬は少女を包むように体を丸め、鼻をひくつかせ、耳を動かしている。
その後ある方向に小さく吠えた。
「やったー!ライラプスありがとう!あなたの鼻と耳から逃れられる奴なんていないんだから!」少女は巨犬の首にはしゃいで抱き付いた。巨犬はそのまま立ち上がり、長いふさふさの尻尾で少女を背中に押し上げると、パイプと床の間を軽やかに走り抜けて行った。
向かう先はサラ達のところだ。