MONSTER×HERO
さっき思いついたネタ。
ホラーは書くの苦手だが、ヒーローはやりたかったから満足。
「じゃー、今日のホームルーム終わりー、最近不審者がうろついてっから、気をつけろよー」
学校中に下校を知らせるチャイムが鳴り渡り、担任の、本当に生徒を心配してるのかわからないような気の抜けた声がクラスに響くと、各自、席を立って帰りの支度をし始める。
中には近くの者同士で明日の土曜日に遊ぶ約束などをする奴がいる。
そんな中、俺の席に近づく女子。
「ヤッホー! まーくん! あんたもたまには部活に顔出しなさいよ」
明るく声をかけてくる女子の名前は使神 天子。
幼馴染の俺、雄英 魔悪と同じ高校二年で、成績優秀、柔らかい印象を持たせるたれ目の可愛い少女は、『ある趣味』があっても、男子に人気のモテモテ女だ。
男子の中では天子の読みを『てんし』と読み、てんしちゃんなどと呼んでいる輩もいるほどに。
本人はそれを気にしていないので、俺も何も言わないが。
「嫌だよ、あそこ根暗じゃんか。俺はお前に無理やり入らされたんだし、さっさと帰ってゲームやりてぇよ。
あ、そうだお前もやらね?新しい格ゲー出たんだよ、剛拳6、面白いぜ?」
天子が来いという『部活』。
それは何故存在するのかもわからない、天子の趣味のためだけにあると言っても(俺の中では)過言ではない部活。
「根暗結構! 今日はいいネタ入ったから、まーくんも来なよ、『怪物研究倶楽部』!」
「ぜってー嫌だ……ん? あッ!? てめッバック返せ! うわっ!?」
肘をつき、溜息をつこうとする俺などシカトして、床に置いてあったバックをひったくる天子。
とっさに追いかけようとして机に足を引っかけた俺は、クラスメイトの笑いの的になりながら部屋を出ていく天子を見送った。
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「ったく、あの野郎……いつつっ」
出来てしまったタンコブを保健室で見てもらい、そのまま学校の一階一番奥の廊下を歩きながら頭を撫でる。
保健室内でも保健委員の友人に笑われ、さらにタンコブ押されるなどという、散々な目にあった。
腹が立っているので、そもそもバックの中の鍵がないと帰れないが、帰る前に一言言ってやろうと部室に向かう。
一階廊下奥、視聴覚室の扉に指をかけ、そのままあける。
「あっ! やっと来た! まーくん遅い!」
「人のバック取っておいてなんで文句言いやがるんだ」
プンスカと怒る天子は、幼馴染とか関係なしに、まぁ可愛い。
人気が出る理由もわかる。
しかし、そんな事は今の俺にはどうでもよかった。
「お前、バック取るなんて……あれ? 一人なのか?」
「うん、メールで確認したら、先輩も後輩二人も委員会で忙しんだって。
先生も今日は職員会議でしょ? せっかくいいネタ仕入れてきたのになぁー……」
ガッカリと沈む天子。かと思いきや、チラチラとこちらを見始める。
捨てられた子犬のような目で見られると、俺は意識せずにため息が漏れた。
こうなった天子は、聞くまでこの行為をやめないからだ。
「……聞いてやる」
「やったぁッ!!」
一言そうつぶやくと、手を挙げてはしゃぐ天子。
「そんなに聞きたいなら教えてしんぜよう!」
うぜぇ。
心の中で素直にそう思う。
と、変わる空気。
「……あのさ、最近さ、不審者でてるでしょ? それって、『首採りピエロ』っていう怪物なんだって、知ってる?」
「……『首採りピエロ』?」
正直名前だけで、嫌な予感しかしない。
オウム返しのように聞き直す俺の言葉に、コクリと天子が頷く。
「そう。ピエロに会うとね、質問されるんだって。
『首はいらないか?』ってね、でもそれに答えちゃだめ。
はいでもいいえでも、結局首、取られちゃうから。
逃げる方法はね────」
その瞬間、俺はガタリと無駄な音を立ててイスを立ち上がった。
「くだらねー、聞いてソンした」
せっかくの怖い雰囲気をぶち壊す。
「ちょっちょっと! ホントなんだってば! 私の友達もそいつにあったんだからー!」
「はいはい、んじゃオレ帰るな、ゲームやりてーし、じゃーな!」
バックを持って早々と教室を出る。
「もーッ! 教えないからね!? まーくんのバカーッ!」
教室内で叫ぶ天子の言葉が廊下に響くが、そんなことなど構わず、俺は、もう一人の俺、『怪物』と会話を始めた。
「どう思う?」
『どうってそりゃおめぇ怪物の仕業だろ? へへ、久しぶりだな』
「だよなー、そういえば久しぶりだな」
頭の中に響く、俺じゃない、俺の声色を借りた声。
もう慣れてしまったその感覚には、しかしやはり違和感があった。
「さて、それじゃ……」
「喰らうか」
『喰らうぜ』
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夜六時、冬に近くなり、日が短くなったために、夕闇の中で街灯がつき始める。
制服の上にコートを着込んでいるのに、まだ肌寒いというのは、恐らくは季節のせいだけではないだろう。
まだ夕方だというのに、細い道に車や人は通らず、あたりの民家からは音が聞こえない。
日の光がほぼ完全に沈みこんだ時、たたずむ俺の、10mくらいの先にある今しがたつき始めた街灯が、いきなり点滅し始める。
と、それに連鎖するように、俺の近くや、点滅を始めた街灯の向こうにある街灯もまた、同じように点滅を始めた。
そして、暗転。
一瞬の暗闇が道を覆う中、すぐに明かりが元通りに灯ると、『ソイツ』はそこに現れた。
「首はいらないか?」
真っ赤なパーマの髪の毛と、真っ白な顔。
赤い付け鼻にパーティに使う三角錐の帽子と、ド派手な衣装は、こんな住宅街の中ではとてもシュールで、とても不気味だった。
「首はいらないか?」
俺の返答を待っているのだろう、もう一度同じ質問を始めると、一歩、近づく。
低い男の声で呟くヤツは、ゆっくり、ゆっくりと俺に近づく。
「首はいらないか?」
一歩。
「いらないならもらってやる」
また一歩。
『よぉ、まだ駄目なのか?』
「まてよ、前回の『喰った』奴の力は近距離じゃないと使えないだろ?」
「もう、待てない、いらないならもらって殺るううううううぁあああああ!!」
発狂し、いつの間にか手に握ったナイフで俺の喉めがけて走り出すピエロ。
血走った眼のピエロが俺との距離を詰めた時、俺が叫ぶ。
「今だ!」
『よしきた相棒!』
人差し指と中指をピエロの目の前に突き出す。
その瞬間、指先から太陽にも負けぬような光がピエロの目に突き刺さる。
「ぐぎゃああああああぁぁぁぁッ!!?」
目を抑え、苦しむピエロは、その場でぐるぐるとまわり、ナイフを振り回す。
危ないが、近づかなければいいと判断した俺は、とどめのために自らの影を伸ばしていく。
『相棒、名前を考えたぜ、『光』てのはどうだ!?』
「そのまんまだな、いいから、早く、次はお前の力」
『力じゃわかんねぇなぁ~、名前言ってくれねぇと』
「なっ!? ……し……『影口』!」
言った瞬間、体温が上がるのがわかるほど恥ずかしくなる。
誰も聞いていないとはいえ、恥ずかしすぎる。
技名を言ったことに満足した怪物が、俺の影に『力』を込めるのがわかる。
もがき苦しむピエロの足が、まるで沼のように、俺の影の中に引きずり込まれていく。
「なんだっ!? ギザマ人間じゃないのガッ!?」
低くおぞましい怪物の声が響く。
その問いに、『俺達』は答えた。
「俺はモンスターヒーローだ!」
『俺はモンスターヒーローだ!』
影が、あっという間にもがくピエロを飲み込む。
手から離れたナイフは、主人が俺の影に『喰われる』と、砂のように消えてしまった。
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「おっはよー! ねぇねぇ、まーくん! また新しいネタ、拾っちゃった! こないだはまーくん、気に入らなかったでしょ?」
「いつも思うけどさ、なんでお前そんなに変なネタ拾ってくるワケ?」
「問答無用! じゃ先にいってるからー!」
「あっ!? てめっオレの鍵いつのまにッ!? うぉぉっ!?」
チェーンのついた家の鍵を、ご機嫌そうにゆらす天子。
俺はまたしても机に引っ掛かり、転んでタンコブを作っていた。
『諦めろ、相棒、あの嬢ちゃんはお前より上だ』
「……ちっくしょーーーッ!!!」
笑いものにされる俺の叫びは、教室を更なる笑いに包むのだった。