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幽人-トラワレビト-  作者: 清水智裕
一章:表現殺人
4/9

3:見えてきた全貌

 ここからは、俺が上代刑事の話聞いて、ある程度まとめた話をしよう。


 そもそもの発端は、四月上旬に起きた「行方不明の娘を探してほしい」という家族からの捜索願が出された事だったらしい。対象は二十代前半で社会人。すぐに見つかるはずだろうと、警察も楽観視していたのだが。

 警察官二十人に加えて周辺の交番にも応援を要請して、総勢四十人ほどの警察官が捜索に協力したが、それでも捜索対象の女性は出てこなかったのだそうだ。

 そうして数日が経ち、捜索を請け負った警察は、この事件は家出であると判断しようとした、ある日。

 正確な日付は四月十三日であるが、一人の女性のバラバラ死体の胴体部分が発見された。

 一緒に捨てられていたバックの中から身分証明証が発見され、当時捜索されている女性の胴体であるという断定が為され、本格的に刑事課に事件として立件されたらしい。

 その後も、交番勤務の警察官や刑事課の警察官などがほかの部分を捜索した所、市内を二つに分けている逸未川の中から両手足が縄のような物でまとめられた状態で発見され、唯一顔だけが何処にもなかったという猟奇的な事件として捜査が為された。

 だが、遺体の衣服にも、バックにも、何処にも犯人に繋がる物証が上がらず、被害に遭ったとされる女性の交友関係や勤務状態などの人間関係も当たってみたようだが、成果は上がらず。

 結果的に迷宮入りの事件として、今でも解決はしていないらしい。


 それから二週間後、東町のマンション街から玄河ヶ丘周辺に住む小学生の男女たちが全員同時に消息を絶つという事件が発生し、未だに非公式に捜査が為されているものの、これまた未だに誰一人として行方が掴めずにいるようだった。

 そして、先日。今日、五月十五日から数えて二日前の五月十三日。男女二人組が三組、死体として首から上だけがない状態のまま、宝物を隠すように逸未川の河原の茂みに放置されているという事件が発覚。警察は同一犯として捜査を再開した。

 だが、これも前の一件と同じであったらしい。指紋も、目撃情報も、何一つ手がかりになるものは出なかった。

 唯一、二つの殺人に共通しているのは「どちらも不審な点などなく、失踪している」という点だった。まるで、寝間着のまま出かけてしまったかのように消えているのだそうだ。それも、夜に。

 朝起きて家族がいつまでも起きてこない失踪者の部屋に行くと、ベッドはもぬけのからだった、というのである。

 これに気付いたのは上代刑事だけであり、他の警察官は「偶然だろう」と見過ごしてしまうくらいの小さな綻びがあったのだ。

 単純な話である。二十代前半の社会人が、寝間着を使っていたかどうかは知らないが、夜中とはいえ、家族への書き置きもなしに何処かへいなくなるという事は考えにくいだろう。

 小学生の女の子が、男の子が、同じ地区に住んでいる子供たち全員が誰一人として親に断りもなく、真夜中に何処かへ行くというのもありえない話だ。

 そう、常識で考えれば、不審な点はあるのに、これを「家出」や「無断外泊」などの『失踪』としての理由として一つ一つ事件を考えると、途端に不審な点はなくなる。こうして全体で考えさえしなければ。しかし、やはり違和感が残る。

 故に上代刑事は調べた。

 全ての家で起きた子供の失踪状況から、居なくなったと思われる時間内に出歩いてる不審人物がいないかどうか、全てのマンションの監視カメラのチェックまで。やれる事を全てやった上で、浮上した事実。


 それは…これと同じ出来事が、過去にも起きていたという事だった。


 ちょうど、一年前。

 当時高校二年生だった女子高生から、二十代中盤ぐらいの年齢までの女性が、一切の不審な点なく消え去った「失踪」事件。

 それも、常識で考えれば、不審な点だらけであったものの、それは本当に微々たるものだった。

 たとえば、一緒に消えていた靴が、普段は履くようなモノではなかった、とか。

 たとえば、失踪した人物が、寝間着のような服を着たままいなくなったのではないか、とか。

 そんな些細な、違和感のような、おかしな点だった。

 故に、警察も決定的な理屈にはならないとしてしまい、結果全ての案件に「家出」など自主的に家を出た事にしてしまった、過去の失踪事件。

 その失踪と、今回の失踪がまるでぴったりと合わせたかのように一致する特徴を持っているらしい。

 この世に偶然は二つもない。しかも、連続して何人もの女性だけが「家出」をするなどという奇跡にも等しい偶然が、二度も存在する事などありえない。

 だが、実際に失踪は起きている。

 その事実を考えると、おのずと答えは出る。

 その答えは、誰かが、何らかの意図を持って、失踪を促しているという事だった。


    ◆◆◆


「でも、それってありえるんですか?」

「そう言われると、方法がいまいちわからないんですよ」

 一通り、話し終えた上代刑事に河原さんが質問を投げかける。

 確かに、催眠術でも使わない限り、失踪を促す事など出来ないだろう。しかも、催眠術が使えるという事は何らかの面識がなければできない事でもある。

 そうなってくると、警察も動けないのだそうだ。

「催眠術、とかオカルト関連が証拠になる事なんてよっぽどの事がない限り有り得ませんからね」

 そりゃそうだろう。そんな事が頻繁に起きているのなら、科学捜査など必要なくなってしまう。

「だから、具体的に誰が、どうやって失踪を引き起こし、殺人を起こしているのかを探らなければならないんですよ」

 とかなんとか言ってはいるが、上代刑事はそのための努力をしているのだろう。

 聞き込みに行くとか言って出てきているのはそうゆうわけだ。

「それで? 俺に何を聞きたいんですか?」

 今の話に、俺が知ってそうな事はない。

 なのに、なぜ聞き込みと言って警察署を出てきてまで、俺に会いに来ているのか。

 純粋に、俺は気になり始めていた。

「いや、今の話を聞いて、どう思うかですよ。これはあなたのお父様のご意見でしてね。「捜査で躓いた時は、銀次の意見が結構当てになるんだよ」なんて言ってましたし」

 親父の口調を真似て言う上代刑事。

 ああ、そうだった。

 昔から俺の親父は、捜査に躓くと家族である俺や母や妹の意見を聞いていたりしているのだ。

「それで、こんな大事な捜査情報をばらしてまでギンくんの意見を聞きたいわけですよ」

 キラキラと希望に満ちた眼差しでこちらを見つめてくる上代刑事。

 そんなに期待されると、こっちが言葉を選ばなくてはならなくなる。

「んじゃ、逆に聞きますけど。上代さんはこの一連の事件が「失踪事件」だとホントに思ってるんですか?」

 頭をフルに使って、失礼のないように言葉を慎重に選びながら、俺は続けた。

「この一連の事件は、確かに一見して「失踪事件」だと思い込みがちですけど、少し視点と考え方を変えれば単純な事件ですよ」

 もちろん、俺には犯人などわからない。

 しかし、犯人が分からなくとも事件の全容を推測する事は出来る。

 そんな俺の言葉に「はぁ」とわからないふりをする上代刑事。あの顔は本当はきっとわかっているんだろう。それを俺に語らせるという事は、確信を得たいのか。はたまた別の目的があるのか。

 それはわからないが、俺は河原さんに語り聞かせる意味でも、言葉を続ける。

「まず一人ひとりの失踪を解明するよりも、「過去」の事件と「現在」の事件の二つに分けましょう。そうした場合、違いは一つ。人の死体が発見されているかそうでないか、ですよね?」

「はい。今の所、過去に起きた宗谷マンションの失踪事件では、人が殺されたという記述はないです」

 俺が脚色した物語では、A子さんが死んでいるけれど。実際はそうではなく、殺されているかもしれないけれど、殺された死体は上がっていない。なので、ここでは殺されていないと考える事にする。

 上代刑事に確認を取りながら、俺は続ける。

「「現在」の事件では二十代中盤の女性と小学生の男女三組が殺されていて、しかも数日前に失踪している。そして、今でも失踪している小学生は数多くいるんですよね?」

「はい。数に直すと、全部で十二名ほどいます」

「全部で十二名。という事はあと二ヶ月分か」

 呟くように言って、俺は気持ちが悪くなった。

 二ヶ月。俺のその言葉に引っかかりを感じたのだろう。河原さんが質問してくる。

「二ヶ月分ってどうゆう事?」

「さぁ、それは俺も知らないけど。この二ヶ月で見るなら、犯人は毎月十三日に死体が出るように殺してるって事になる。まぁ、そんなのは予測であって、たまたまかもしれないけどね」

 しかし、たまたま発見された日にちが同じ日など有り得るだろうか

 俺はそこに犯人の規則性がある事を感じざるを得ないのだ。

「まぁ、話がずれたけど。そもそもの話として、小学生とはいえ、十八人も一気に家から失踪すると思いますか? 常識のある社会人が、家族になんの連絡もなくいなくなったりしますか?」

 するはずがないだろう。いや、小学生の場合は万が一という事もあるかもしれないが、それでも考えにくい。

「だとしたら、何かがあったんだ。催眠術のような、何か操られて自分からいなくなったんじゃなく」

 誰かに無理やり連れていかれてのではないだろうか、と言い切る。

 こうすると全ての点に納得がいくのだ。

 自分で出て行ったにしては些細ではあるが不審な点。

 普段履かないような靴と一緒に消えていたり、寝間着と一緒に居なくなっていたり。

 そして、失踪した人間が最終的には死体となって発見される。

 こういった誰かの手によって演出された失踪殺害事件は、世の中では「誘拐殺人」という。

「俺の結論は、この「現在」の事件は誘拐殺人ではないか。という事です。動機はわかりませんし、手口も不明ですけど」

 「失踪」ではなく、「誘拐」。

 まぁ、誰も思わないだろう。一番安全だと思っていた家の中から家族が書き置きもなく消えたりすれば失踪だと思い込むに違いない。

 そんな考えの上で「過去」の事件を推測してみると、これまた同じ事が言えたりするのだ。

 何故ならば、「被害者が殺されている」という点と「以前は女性のみ」とい点を除けば、全てが共通しているのだから。

 とすれば、死体はどこにあるのだろうか。いや、前は女性だけという点から考慮すると、誘拐監禁事件であったのかもしれない。

 まぁ、ここでぐだぐだと推理を垂れていても、そこはわからないだろう。

 後は警察の仕事だ。

「「過去」の事件も「現在」の事件も、誘拐であるという点は同じだと思います。そうすれば全ての点に納得のいく説明がついてしまうんです」

 証拠なんてないですけど、と最後にそう締めくくって俺は語るのをやめた。

 すると、そこに反応したのは河原さんだった。

「って事はじゃあ、私の弟と妹も誘拐されたって事なの?」

「かもしれないってだけだ。そうと決まったわけじゃないよ」

 安心させるように俺はそう言うが、上代刑事は確信を得てしまったようだった。

「そうですね。確かに誘拐事件かもしれない。殺したのは身代金を請求して、払われなかったからとかでしょう」

 うふふふ、そうと決まれば捜査もしやすくなるなぁ、などと言って、自分のコーヒーの代金だけ置いて去っていく悪魔。

 しかし、身代金が云々の話は違うと思うんだよなぁ。

 何故ならば、先ほども言った通り、俺は犯人の殺害の期間に法則があるように思えるからだ。

 たとえば、毎月十三日に見つかるように殺す、とか。

「…馬鹿らしい」

 そこまで考えて、自分の思考を否定する。

 俺の相談事は「河原さんの弟と妹を見つけ出す事」なのだ、それ以外の事は考えなくとも良い。

 だが、これは楽観だが、もしも俺の考えてる通りに犯人が小学生を殺す方法に法則があるとすれば、もしかしたら河原さんの弟さんと妹さんは生きているかもしれない。

 もちろん、口には出さない。可能性は絶望的なのだ。もしもその推理が外れていたら、河原さんの悲しみはより深いものとなってしまう。

 弟さんと妹さんには悪いが、死んでいるかもしれない者より生きているとわかっている者の事を優先した方が良いだろう。

 だが、限りなく絶望的ではあるけれど、俺はなんとなく、彼らが生きているような気がしていた。


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