恋の終り
終りにしたい、と思うのは
彼の腕が私の体温と馴染む時
彼との行為には決まった順序がある
私が彼の部屋のチャイムを鳴らすとすぐに扉が開く
入った瞬間待ち兼ねたような振りで彼が私を引き寄せて
薄暗い玄関の壁に押し付けられたまま最初のキスをする
片手には鞄をもったあたしの腕は不自由で
彼の唇を受けるしかない
彼に会うために塗り治したベィジュの唇は彼の体温で溶かされてしまう
「久しぶりだ」
私は軽く笑って靴を脱ぐ
入ってすぐ左のベッドしかない部屋に連れ込まれる
「上着脱ぎなよ」
私は素直に彼に上着を脱いで渡す
きちんとハンガーにかけてくれるところに彼の育ちの良さを感じる
「今日はそんなに寒くなかったよ」
私は鞄をベッドの下に置いて
マフラーを外す
「風邪は大丈夫?」
「うん、平気」
上着をかけた彼が部屋の電気を消す
まだ昼間なのに
明るい時間なのに
この部屋は薄暗くなって
私の体は潤みだす
ベッドに座っていた私の上にのし掛かる彼の躯
がっちりした彼の躯はたっぷりと重くて
私は笑ってしまう
嫌いじゃないこの重みは
シーツと彼に挟まれたら何処にもいけなくなつたみたいで
たっぷり彼を感じられる
「重いわ」
そう言いながら彼の首に腕を回して
彼の頭を引き寄せて
彼の匂いを確かめる
匂いを感じたら安心する。
あたしは動物みたいだ。
彼が私の服を一枚ずつ脱がす
彼はどこもかしこも暖かい
あたしは小さな頃からの疑問を溶けずにいる
暖かい人は心が冷たいのは本当?
この人はどうなのかしら
触れ合う躯はいつも暖かいけど
この人の心を私は知らない
知りたいけど知りたくない
冷えた躯に彼の手は暖かい
それさえ解っていれば
今はそれ以上は要らない
あたしはゆっくり目を閉じた
いつか来る別れの予感を感じながら