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気候変動の温室効果ガス原因説は実証できないけれど、そもそも科学で判断するべき内容じゃない

掲載日:2026/06/06

 随分と昔から、地球規模の気候変動には懐疑的な見方が存在している。しかし、どう考えても異常気象としか思えない事例が多数報告され始めると、流石に否定するのは難しく、徐々に「気候変動は起こっていない」という主張をする人は珍しくなっていった。だけど、それでも「温室効果ガス原因説は嘘だ」とする反論は根強く訴えられている。

 ――ただし、世の中には化石エネルギー利権なるものが存在していて、原油や天然ガスが使えなくなれば巨額の損失を被る人達がたくさんいる事を考えれば、まぁ、「お金の為に、温室効果ガス原因説を否定したがっているだなんけじゃないの?」という疑惑を抱くのも普通だから、素直にそれに頷く訳にもいかないというのも当たり前に分かる話だ。

 つまりは、どっちか正しいのか、はっきりしない。

 

 ――だから、まぁ、こんな事態になる事もままあったりするのだった。

 

 「……温室効果ガスが、気候変動の原因かどうかなんて分からないだろうが!」

 なんて紐野君が言った。野戸君はそれにこう返す。

 「人間が温室効果ガスを出しまくってから、これだけ異常気象が頻発しているんだぞ? 偶然のはずがないだろうが!」

 

 折角の会社の休憩時間だというのに、二人はもうずっとこんな言い合いをしている。“政治とスポーツと宗教の話題は仕事仲間とはするな”なんて言葉を聞いた事があるのだけど、本当にそうだと僕は思った。もっとも、これは完全に政治の話題って訳でもないのだろうけど。

 どうにか二人の言い合いを治めたいと思った僕は、

 「ねぇ、吉田君。なんとかならない?」

 と、吉田君に相談した。彼は博覧強記で、説明も巧い。多分、的確に二人を説得してくれると思ったのだ。休憩時間なのに、彼は本を読んでいるけれど、ちゃんと話は聞いていると思う。いつもそうだから。

 その僕の声が耳に届いていたのか、紐野君が反応をした。

 「なぁ、吉田。お前なら分かるだろう? 温室効果ガスが、気候変動の原因ってのは実証されてないんだよ」

 僕は直ぐに吉田君はその間違いを指摘すると思っていた。彼は再生可能エネルギーの有効性について、以前語っていた事があったから。野戸君もそう思ったのだろう。紐野君の後に続ける。

 「そんな事ないよな? 吉田?」

 ところがどっこい、吉田君はあっさりとこう返すのだった。

 「いや、実証はできないよ」

 それに僕と野戸君は驚いてしまう。紐野君だけは嬉しそうにしていて「ほら、真っ当な頭の奴ならこう考えるんだよ」なんて言う。

 「気候変動の原因が温室効果ガスの所為なていうのは嘘っぱちなんだよ。非科学的だ」

 ところが、吉田君は今度はそれを否定するのだった。

 「いや、嘘って訳じゃないよ」

 「あ?」とそれに紐野君。

 「正確には真実かどうか分からないってのが正しい。温室効果ガス原因説が正しい事を実証できないのと同じで、間違っている事も実証できないのだから」

 それを聞いて、三人とも“訳が分からない”といった表情を見せた。僕が代表で尋ねる。

 「どーいう事?」

 すると彼は「そーだね」と言って少し考え、こう続けた。

 「これについては、“自然科学とは何か?”を簡単に知ってもらうのが手っ取り早いかもしれないね」

 そう言って一度切ると、彼は語り始めた。

 「その昔は、偉い学者だとかが何かを提唱すれば問答無用でそれが正しいとされていたんだよ。アリストテレスが、“重い物の方が速く落ちる”と言えば、それが正しいとされ、医者が“水銀は治療に使える”と言えばやっぱり疑いもせずに使用された。

 が、これが変わったんだ。何かを“正しい”とする為には、実験なり調査なりをして“実証”しなくてはいけないと主張されるようになったんだね……

 ここまでは良いかな?」

 「分かるよ」と、それに紐野君。

 「温室効果ガス原因説は、実証されていないから、非科学的なんだ」

 「まあ、間違いではないね。ただ、全てを非科学的と表現するのはちょっと乱暴だと思うけど。

 この話を踏まえるとね。“地球科学”が非常に特殊な分野である事がよく分かる。なんでか分かるかな?」

 それには野戸君が答えた。

 「ああ、なるほど。地球は一個しかないから、実験も調査もし難いのか。似たような星がたくさんあれば、なんとかなるかもしれないけど」

 「その通り。一応、他の惑星を調査して、多少は参考にできるけど、まぁ、飽くまで参考レベルだ。実証されたとは言えない。

 つまりね、自然科学では、気候変動の対処方法は判断できないんだ」

 それには僕が声を上げた。

 「ええ? ちょっと待ってよ。自然科学で判断できないのなら何で判断すれば良いの?」

 「簡単だよ。リスク分析。これは、形式科学に分類されるで合っていると思う」

 「リスク分析?」

 「そう。リスクっていうのは、“不確定”って意味だね。コストと効果を分析して、適切な行動を判断していこうって発想」

 そう言うと、彼は紐野君を見やった。

 「君は反対するだろうけどね、“人類に甚大な被害をもたらすリスクがある”というのは、無視をするのにはあまりに大き過ぎると僕は思うよ。それに気候変動対策で、再生可能エネルギーを普及させれば経済だって成長する。GDPの計算式に当て嵌めて考えればこれは自明だし、実際に経済成長している。

 百歩譲って、アメリカのようにエネルギー資源に恵まれている国でなら、再生可能エネルギーを疎かにするメリットはあるけど、日本のようにエネルギー資源に恵まれていない国には当て嵌まらない。再生可能エネルギーでエネルギー自給率を高めるメリットは、経済ばかりでなく、安全保障上もとても大きな意味があるしね」

 それに紐野君はやや不服そうな顔していたけれど、結局は何も言わなかった。もっともそれは、彼が何かを言う前に、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴ったからかもしれないけれど。

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