8話「空の旅と魔女の力」
「おわっ!?ちょ、な、なんだ!?」
「ちょうど良い機会だわ、街の案内もついでにお願いしても?」
「あ、あぁそれは構わないが…」
「ふふっ、それじゃあしっかり掴まっておきなさい、振り落とされないようにね!」
私は箒の上に腰掛け、後ろにアルを乗せる。
そして地面を蹴り静かに素早く空中へと浮かび上がる。
髪が風に吹かれて暴れる。
地上よりも少し重い風、薄い空気、すぐ横に浮かぶ雲、小さい町並み。
すべてが久しぶりで、つい浸ってしまいたくなる。
「と、飛んでるのか?!」
「えぇ。気分はどう?聞くの忘れていたけれど高所恐怖症とかじゃないわよね?」
「あぁ大丈夫だ。むしろ風が気持ちいいな」
「ふふっあなたとは気が合いそうだわ」
子供とまでは言わないが微かにはしゃぐアルを横目に見ながら、王国全体を見渡す。
するとアルの言っていた通り、自然による災害があちらこちらで発生しているのはすぐにわかった。
そしてそのどれもが小さな範囲であり、精霊たちの仕業だということは明らかだった。
しかし今はそこには触れず、少しずつ浮かべた箒を進めアルに街を案内してもらう。
「あれは?」
「あれは教会だ。宗教によって教会の形は変わるんだが……あれは穣りの神の教会だな」
「へぇ、じゃああの……」
「あの大きいのはギルドだ。主に魔物退治をする業者の事務所とでも思っていてくれ」
「この世界にはギルドがあるのね……あら?ねぇアル、あそこ……」
いくつか普通とは言い難い土地を見かけてはいたが、一際目がいったのはまるで砂漠のような……いや、それ以上の不毛の地だった。
「あぁ……あの辺はもう何ヶ月も雨が降っていなくてな……元々気温が高い地域だからすぐに干上がってしまって、食糧不足も続いているんだ……他の災害と違って雨が降らない限り復興も難しくてな……」
「……ふぅん、そう」
ひび割れた土、緑の一つも見えない。
家はあってないようなもので、乾いた風が地面の砂を送り込む。
「……なら、早速初仕事と行きましょうか」
「え?は、春?」
「アル、しっかり箒を掴んでなさい」
そう言って私は箒から飛び降りる。
「春!!?」
アルは落ちた私を掴もうと手を伸ばす。
が、私はその手をすり抜け再び浮かび上がった。
「まったく、箒から手を離しちゃダメじゃない」
「だ、大丈夫……?なのか?というかその翼……」
「大丈夫も何も元々私は飛ぶのに箒なんていらないのよ。あなたを連れて飛ぶには箒が最適だっただけで。それと私は吸血鬼よ?飛ぶための羽くらいは持っているわ」
私は翼を一回羽ばたかせ、枯れた土地へと飛んでいく。
そうして真上に着くと声高々に叫んだ。
「よくみておきなさい、アル。私は普段、魔法は使わない。家族の力を借りるのよ!」
「……!」
「ニンフ!おいでなさい!」
【水精霊の水浴び】
呪文……一般的にいうならばどちらかといえば技名なのだけど……を唱える。
そして、その声を聞いたニンフはすぐに動き出し、雲もないのに枯れ果てた地に澄んだ雨が降り注ぐ。
(あぁ、この感覚だ……魔力の抜けていく感覚……自由で満ち溢れた……この感じ……何百年ぶりだろうか、もしかしたら何千年かもしれない……)
心踊る気持ちのまま、下の様子を伺う。
ひび割れていた土には精霊の力を宿した水が染み込み、頼んではいないけれどノーム……地の精霊とクローリス……花の精霊が何かしらの力を宿してくれたのか植物の小さな芽が出ているのが見える。
自然と笑みが溢れる。
またこうして精霊達と共に魔法をつける時が来るなんて。
「春様……久しぶりですね」
「シルフィ……えぇそうね……」
「「エアル様/春様」」
「どうしたの?」
二人の精霊は顔を見合わせて、そして微笑んで言った。
「「おかえりなさい」」
「……!」
「えぇ……ただいま……!」
「はぁ……いつになったら雨が降るんだ……」
「おとうさぁん、お腹すいたぁ……」
「そうだな、ごめんな……」
ドンドンドンッ!!
「旦那!大変だ!」
「おいなんだ!もっと静かにできねぇのか!ただでさえみんな消耗しているんだぞ!」
「雨だ!雨が降ってんだよ旦那!!早く……早く……!」
「はぁ!?何言ってんだ、そんなわけないだろう!ふざけるのも大概にしろ!この家にも光が入ってくるほどの晴れだぞ?!雨なんか降るわけないだろ!!」
「そ、そんなこと言ったって降ってるんだよ!いいから出てきてくれ!!」
「お父さん……雨……降ったの?また美味しいの食べれる……」
「……わからん。ちょっと待ってろ、確認してくる」
「ぼ、僕も一緒に行く!」
ガチャッ
「わっ冷たっ!」
「……!」
「な?旦那!マジだっただろ!?」
「……雨……一体どういうことだ……空はいつも通りうざったらしいくらいの晴れだってのに……」
「ねぇねぇ、お父さん、大きな鳥さんがいるよ」
「鳥?」
「ほらあそこ!」
「……!何だあれは……人……なのか?」
「お、おいあれまさか!」
「何か心当たりがあんのか?」
「魔女様だ……」
「魔女さまぁ?」
「あぁ……魔女様は魔女であると同時に吸血鬼でもあるそうだ。あの翼は……きっと……」
「魔女様が……ここに恵みを与えてくれたと?ここを……助けてくださったと?」
「きっとそうに違いねぇ!魔女様は魔女といえどもやっぱり聖女様だったんだ……!」
「……そうか……そうか……!」
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