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5話「二度目の生を力なき世界で」

 次に目が覚めたのは見慣れないどころか違和感しかない部屋だった。


「……そういえば、私はエアルだったわね」


 地球のという星の日本という国に生まれた風音春。

ふと思い出したのは幸せだった日常と大好きな家族、そして全ての絶望と憎悪。

俗にいう前世の記憶というものを思い出したのは、ちょうど10の時だった。

この世界は魔法なんてものは存在せず、人間と動物、植物、そして科学のみが存在する世界だった。

そして私は、自分が最も憎んだ人間として生きていた。


「……でもきっと、復讐なんてお母様たちは望まない」


 人間の短い人生を終えて、再び家族に会える日ことを望み、私は人を殺すことはしなかった。

どうしようもない、今にも溢れ出しそうなほどの憎悪を抱え、人間として生きることにした。

エアル・ウィントではなく、風音春として。

 そうして、私はお母様がなぜ人間を愛したのかを知った。

人間は、心優しくもなれるのだと、誠実にもなれるのだと、知った。

技術を磨き、共に高め合い、美しく儚く力強いものを生み出し、誰かを笑わせる。

そんな人間も、多くいるのだと知った。


 けれど、私の心にこびりついていた憎しみと怒りは、人間不信という形で人間としての私の人生の目の前を塞いでいった。

誰も信じず、嫌われ、愛されもせず、自分から何かを愛することもなかった。

宙ぶらりんな状態で、ただ「生きる」という作業を続ける毎日。


 そんな時、私はこの世界に連れてこられたのだ。


















「……どう?人間さんたち。あなたたちはこんな私でも力を借りたいと思うの?もしかしたら協力するふりして復讐に走るかもしれないわよ?」

「……」


 周りにいた人間たちは再び戸惑い、そばにいる人たちとヒソヒソと話しだす。


「お、おい大丈夫なのか?」

「いや……わからないが話は通じるみたいだし、手を出さなければいいんじゃ……?」

「でもこいつの言ってることもわかる」

「確かに俺もあんな経験したら誰も信じられないしな……」


「……俺にはそんなことをするような人じゃないように見えるけどな」


 王の隣にいた人間が、そんなことを口にする。


「あら、どういうこと?」

「お前の力なら、俺たちなんてすぐに殺せるはずだ。でもそれをせず過去を見せて俺たちに選択を与えている。そんなことをするような奴が、復讐に走るとは思えない」

「……そう」

「倅のいうとおり、私も同意見だ。だがまずは同じ人間として謝罪をさせてほしい。其方に辛い思いをさせてしまってすまなかった」


 王は再び席を立ち、こちらに頭を下げてくる。


「……あなたが謝る必要はないわ。……あなたは、いい長ね」

「そうだといいのだが」

「……いいわ。私はあなたたちを気に入ったし、礼の件もある。今一度、人間を信じてみることにするわ」


 そういうと、大きな歓声が起こった。


「けれどこちらから少し条件を出しても?」

「あぁ、もちろんだ。なんでもいってくれ!叶えられるものならば全て叶えよう。ほしいものがあれば準備する」


 王の隣にいた人間…先ほど王が倅と呼んでいたからおそらく王子なのだろう…が、両手を広げ嬉しそうに答える。


「そんなに大したことじゃないわ。私が望むのは平穏な日常、ただ一つよ」

「それは……こちらから攻撃を仕掛けてくるないうことか?」

「えぇ、それもあるわ。けれどみたところここでは社交界だったりが存在する貴族社会でしょう?そんな物にも巻き込まれたくないのよ、私は」


 面倒くさそうにそう答えると、今度は王が口を開いた。


「つまり……いざこざを避けたい……と?」

「そういうことよ」

「それならば簡単だが……何か力を貸してくれることへの報酬はいらないのか?礼をせずに力を借りるだけというのは少々……いやかなり気がすまないのだが……」

「そうねぇ……それなら、一ヶ月に一度、若い女の血をいただこうかしら?これでも吸血鬼だもの、生き血は好きなのよ。と言っても安心して頂戴、主食は人間と同じだし生き血を欲すると言っても紙で切ったような小さな傷口から出る程度の血だもの。もちろんつけた傷はこちらで治療するわ」


 少しばかりざわついた人間たちだけれども、後半の話を聞いて落ち着きを取り戻した。

本当に、この国の人間はあの頃の人間とかなり違って人を差別しないようだ。


「若い女の血限定なのか?」

「そこは私の好みの問題よ。まぁこの報酬に関しては皆が嫌がればなくていいわ。名乗り出てくる人がいるとは思えないけど」

「わかった、そちらの要望を飲もう。其方が我らに力を貸してくれること、誠に感謝する」

「別にいいわよ。それじゃあ私は久々の魔法を楽しんでくるから仕事が決まったら教えて頂戴」

「え?あ、ちょ、風音殿!?」


 慌てる王子は見なかったことにして、出口の扉に向かい軽く浮かびながら向かう。

と、そこで重要なことに気づき、扉の前で振り返り一言告げた。


「そうそう、忘れていたわ。聖女という呼び名は私には似合わないもの。私のことは春かエアル、もしくは…魔女と呼んでくださいな」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

よければ次回も読んでいただけると嬉しいです!

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