2話「聖女とはなれぬ魔女」
「私は風音春。またの名をエアル・ウェント。人間に転生していた、風の魔女よ」
久しぶりに戻った昔の姿。
長い黒髪は、色は変わらず真っ黒のままさらに伸びて腰あたりまでになり、瞳は濃く深い茶色から赤く鋭く、耳は伸びて先が尖っている。
服は通っていた高校の制服であるブレザーではなく真っ黒いフード付きのワンピースに変わり、背丈は人間の女にしては少し高くなり、少し微笑めば口元から鋭く尖った牙がのぞく。
妖しく不気味。
それが、転生前の…吸血鬼であり、魔女であった頃の私の姿だ。
「ま、魔女!?」
「おいどういうことだ?!召喚に失敗したということか?!」
案の定、人間の形をしてながら人間とはかけ離れた存在である私を見て、その場にいたものたちは騒いだ。
予測していたとはいえ、この混乱は正直うるさく煩わしい。
どうするべきかと悩んでいると、静かに目を瞑っていた王がゆっくりと目を開き、声を発した。
「皆の者、一度落ち着きたまえ」
たった一言。
その一言で、戸惑いは残れど会場は静まり返った。
(随分と慕われている王なのね……)
今まで何人もの人間を、それも上に立つものを見てきたが、一声で人々を黙らすことができる人間などほんの一握りだった。
しかもその一握りの人間は、ただ力に物を言わせて人々を怯えさせているだけである。
(けれどもこの人は信頼だけで黙らしたのね……)
人間というのは同じ行動でも、人の顔色を伺えばその行動をした理由がよくわかるのである。
「其方の言い分はわかった。しかしこちらが聖女の……いや、助けとなる力を欲しているのもまた事実。風の魔女ハルよ、どうか力を貸してはもらえないだろうか」
「……残念だけど」
玉座から立ち、こちらに頭を下げてきた王に対して私は答える。
「……そうか。其方がそういうのなら仕方がな……」
「あら、話は最後まで聞くものよ?」
姿を変えた……いや戻した際に浮かび上がっていた私は、再び地に足をつけ聖霊を呼び出す。
「おいでなさい、しずく」
「ここに」
私には元々風の女神であった母親から受け継いだ風を操る能力だけでなく、自分の魂……魔力を自然の魂に分け与えることで精霊を生み出すことができる能力がある。
しずくはその一人、水の精霊だ。
この世界に精霊がいるのかは知らないが、手のひらサイズのしずくをみた周りの者は少し警戒をしながらも興味深そうにしていた。
思っていたよりもこの世界の人間は、穏やかで熱心なのかもしれない。
(今までは、軽蔑や恐怖の目しか向けられなかったもの)
「お久しぶりですね、エアル様」
「えぇ、久しぶり。早速で悪いけど」
「大丈夫ですよ」
すぐに私の意図を読み取ったしずくは、私たちの頭上、よく見える位置に水鏡のようなスクリーンを作り出した。
「私は人間を嫌っているし、信じられない。だからこそ、あなたたちに手を貸すことなど普通ならばしない。けれど」
一歩前に出て、私は続ける。
「あなたたちは、再び私にこの力を使えるようにしてくれた。あなたたちのためだとはいえ、感謝しているの。だから、その礼」
「……それは、力を貸してくれるってことでいいのか?」
私の考えていることがわからないというように、王の隣にいた人間がそう問いかけてくる。
「そうね、貸してあげてもいいわ。……私の過去を見て、それでも私の力を借りたいと……そう思うならね」
スクリーンに情景が浮かび上がる。
これから流れるは私が二度と思い出したくない過去。
さて、これを見てここにいる人間たちはどんな反応を見せてくれるのかしら。
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