13話「鳴り合う刃、交わる縁」
「気配がすると思ったら、やっぱりあなただったのね」
「久しぶりだな」
「そうね、でもこの姿では初めましてじゃないかしら?」
「は、春!?お、おい誰か!!」
「ちょっと、何やってるの!?」
いきなり刃を互いに剥け出した私たちに、アルと男と共にいた女性が慌てて声を出す。
「黙ってなさい、大丈夫よ」
「問題ない」
その声に私と男で同時に答える。
そして、刃はそのままに向かい合い、互いに不敵に微笑んだ。
言葉などいらない。
しばらく刃を合わせあっている音だけが会場に響く。
氷で作った急拵えの私のナイフがその負荷に耐えきれず折れた音で、周りはようやく我にかえり騒ぎ出した。
「ど、どういうこと!?」
「侵入者なのか?!」
「何が起こってるんだ!大丈夫なのか?」
本来ならアルが落ち着け、という立場なのだろうが本人も混乱しているようなので地面を思い切り蹴り上げ、空中に出てから声高らかに叫んだ。
「皆様ご安心を。これは一つの余興です。魔女の力、とくとご覧あれ」
それを聞いた人々は納得したらしく、恐る恐る中央……私たちが立っていた場所を開けてくれた。
「は、春……先ほどの口ぶりからすると……知り合い……なのか……?」
「まぁそうね、だから気にしなくていいわよ」
そっと話しかけてきたアルに軽くそう答えると、あちらはあちらで慌てている女性をほったらかして私を待っている男と再び向かい合う。
「待たせたわね」
「……」
男は答えなかったが、まるで「早く始めるぞ」とでも言うように、素早く私の背後をとりにきた。
そのスピードは、先ほどナイフを取り出したスピードとは比べ物にならないくらい、一瞬だった。
でも
「流石にそんな簡単に背後を取れるほど私は弱くはないわよ」
「あぁ、だろうな。だから」
背中の攻撃を受けたと思うとすぐ前から赤い破片のようなものが飛んでくる。
流石にこのスピードは受けられないと、上空に一回転してなんとか避ける。
「ほんと、対峙するのは初めてだけどとんでもないわね」
「……今度はお前の番だ」
「ならお構いなく」
空中に避けた姿勢から空気を蹴り、その最中に再び氷で作り出したナイフを男の首筋に投げ、さらに風を使って背後に回り首を狙ってもう一つのナイフを直接振るう。
それだけでは足りないと、男を囲むように見えない風の刃と土でできた鋭い結晶を仕込んだ。
「お、おい春!殺すつもりか?!」
「殺す……ね……こんなので死なないわよ、こいつは」
殺せないどころか、きっと……
心配そうなアルや周りの観客になど目もくれず、男は片手をあげ全ての刃を弾き落とし、ナイフはいとも簡単に両手でそれぞれ受け止められた。
攻撃を相殺したことで起きた風に、男の首元で束ねていた長い銀髪が流れるように靡く。
男はさらにそこからナイフを持った私の手を掴み上空へと投げ飛ばす。
そして先ほど私が投げた方のナイフが追い撃ちのように飛ばされた私へと投げられる。
それを壊した瞬間、背後から避けるのが困難なほどの赤い結晶。
なんとか結界を張り防いだものの、首元には私のものに似せた赤いナイフが2本、クロスする形で突きつけられていた。
おそらく結界を張るタイミングで内側に滑り込まされたのだろう。
当の本人はというと、最初に攻撃を仕掛けたところから一歩も動かずに棒立ちしたままだった。
「……ほんと、化け物ね」
「化け物だからな」
「……はぁ、私の負けよ」
「俺に勝つには後300年足りなかったな」
「300年後には500年足りないと言われそうだけれどね……」
一試合終えた私はドレスのスカートを持ち上げ、わざとらしく礼をして見せた。
周りからは拍手が起こったが、それ以上にあの男は何者だ、という騒ぎの方が大きいように思えた。
「あら、これは逃げた方がいいんじゃない?」
「そうさせてもらう」
「なら私も久々にあなたと話がしたいし、ついていくわ。アル!私は少し外で話してくるから失礼するわね!」
「あ、あぁ………!?あ、え、いや待て春?!……ってもういない……」
「……それで?なんであんたはこの世界にいるの?日夜澪?」
「それは俺のセリフだ。俺は生まれも育ちもこの世界。その証拠にレナもいただろう」
「あぁ……そういえば……」
レイと一緒にいた女性、あれがきっとレイの妻であるレナさん……日夜玲那だったのだろう。
長くゆるいウェーブのかかった茶髪に軽く垂れた茶色い目、レイから聞いていた特徴に一致していた。
久しぶりに動かす体に楽しくなってしまって、そこまで頭が回っていなかった。
「じゃあなんであんたは私の世界に来れていたのよ」
「……寝ている間に精神だけお前の体に呼び出されていた」
「……つまり夢?」
「そういうことだ」
そう結論づくと、普段笑うことのないレイがかすかに口角をあげる。
(ほんと、自分が知らないことを見つけたからってそんな嬉しそうにして……これだから知識バカは……)
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