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12話「披露宴」


「あ、あの……」


私たちの話している雰囲気を見て大丈夫だと感じたのか、数人の令嬢が恐る恐る声をかけてくる。


『……シルフィ、悪いけど』

『はーいはい、覚えておけばいいんですよねー』


こういう世界では基本的に名前を覚えていないと不利益になる。

まぁそれは二つ目の世界でも同じだったが、おそらくこの世界の方が面倒事になるのは確実だ。

とは言っても覚えられないものは覚えられないのでこっそりシルフィたちに頼んで教えてもらうことにした。

精霊たちは意外に記憶力がいい。

というか私と比べたら大抵みんな記憶力がいい。


「何かしら?」

「えっと、私ナタリー・ロジスタンスと申しますの。あの、魔女様のお使いになる魔法ってどんなのですの?」

「私はシレア・フレジールですわ。聞くところによるとこの国の魔導士たちとはまた違った魔法をお使いにそうで」


一体全体どこからそんな情報を仕入れてくるのやら。

まだこの世界に来てから魔法……精霊たちの力を使ったのはほんの2、3回だというのに。


「風音春……エアル・ウィントよ。魔法にそんなに違いはないと思うわよ。ただ私が普段使うのは魔法ではなく精霊たちの力だから、それじゃないかしら」

「まぁ!精霊ですか!」

「それより魔女様、エアル様とお呼びしても?」

「あ、ずるいわ!魔女様、私もいいですか?それとここにくる前の世界のことも教えていただけません?」


令嬢たちは、急に襲ってくることも冷たく接してくることもなく、魔女といえど普通の人ということがわかり安心したらしい。

グイグイと距離を詰めてきたので軽く適当に返しながら辺りの様子を伺う。


「見てあのドレス、葬式みたいじゃない?」

「そういえばあの魔女様って黒い翼をお持ちらしいわよ」

「やだ醜い。魔女というから怪しいとは思っていたけれど聖女というより悪魔じゃない」


(……どこにでもいるのね、ああいうの。というか噂が広がるの早いわね……空だから大丈夫だと思ったけれど魔力で飛んだ方が良かったかしら……?)


少し離れたところからこちらを見ていた数人がこちらを見ながらヒソヒソと噂話をしていた。

私は一息つくと周りにいた人間を避け、人を蹴落とすことを生きがいとしているような遠くから噂話ばかりしている人間の元に移動し静かに肩に手を置く。


「あら、私は気に入ってるのよ。かっこよくていいじゃない、あなたたちと違って自分で空を飛ぶことができるもの。あの気持ちよさはあなたたちのように地面を這いつくばっている人間どもじゃわからないわよね」


そうそっと呟くと、怯えているのか怒っているのか顔を青くした人間どもは慌てた様子でその場を離れていく。


(はぁ……まったく……まぁでも、この世界はやっぱり綺麗ね。ああいう人間ばかりが蔓延っていた今までの世界とは違うわ)


急に消えた私を探したアルやギルが急いで駆け寄ってくる。


(……この世界でなら、私もちゃんと生きられるかしら)











「……なんで私は今夜もここに立っているのかしら」

「昨日はお貴族様へのお披露目、今日は一般庶民へのお披露目だからですねー」


昨日なんとか終えたお披露目パーティーだったが、私は今夜もまた昨日と同じ会場(大広間?)に来ていた。


「というか普通、一般向けのお披露目ってこう、どこか高いところからわぁって紹介されて終わりじゃないの?」

「今までそんなこと経験したことないので私にはわからないですねー」


なんだかデジャヴを感じる気もするが、今夜も変わらず隅の方でシルフィとボーッと会場内を眺める。

人々の反応は基本的には昨夜と同じだが、少し違うところがあると言えば話しかけてこないのではなく誰が先に話にいけるかを競っているようだ。

つまりどちらかといえば好的な視線が多いと言うことだ。


「……何かそんなふうに見られるようなことしたかしら」

「あ、あれじゃないですか?村に水ジャーってした」

「確かに……まぁ庶民……庶民って言い方悪いわね国民達からしたら救いの対象になる……のかしら」

「そうですね〜」

「……」

「……?春様ー?どうしました?」

「……いや、なんでもないわ」


一瞬、ほんの一瞬だけ感じた懐かしくも危険な力。


(……流石に、そんなわけないわよね)


「魔女様」

「……?」

「お初にお目にかかります魔女様。俺はとある村の長をしてる者です。この度はひとつお礼を申し上げたくお声をかけさせていただきました」


揉めていた中から出てきた60〜70くらいの男性が辿々しい敬語で声をかけてくる。


「村……もしかして昨日のかしら?」


村でお礼を言われるとしたらこのことくらいしか思いつかない。


「はい。魔女様のおかげで枯れ果てていた畑たちが生き返り、作物が育てられるようなりました」

「それなら気にしなくてもいいわよ、私がしたくて勝手にしたことだしそういう契約だもの」

「それでもです。大したお礼はできず申し訳ありませんが、よければまた村にいらしてください。その際は我々にできる最大限のおもてなしをさせていただきます」

「……ならお言葉に甘えて、今度また伺うわ」

「ありがたき幸せ」


お礼を言えて満足したらしい男性は深々とお辞儀をすると私のそばを離れていった。


「……なんか変な気分ね」

「何がだ?」


ぽつりと溢れた言葉に、再び戻ってきていたアルが反応する。


「別に、魔法を使って感謝されるのが変な気分だと思っただけよ。……嫌ではないけれど」

「……そうか。これからはたくさん言われるだろう。言われなくとも、俺が言う。ありがとう、春」

「大袈裟ねぇ」


もう何度目かわからないアルからの感謝を聞きながら、アルによる紹介のために広間の中央へと向かう。

と、逆にこちらに歩いてきていた一組の男女が見えた。

何の変哲もないただの参加者。

こちらに用があるというよりは後ろの料理へ向かってくるように見えた。


「……アル、下がってなさい」


ほとんど声にならないほどの声量でアルに伝える。

それを聞いたアルは躊躇いながらも軽く横に離れた。

そうして男女とすれ違う。


「……」

「……」


相手の男が出してきたナイフのようなものと、氷で作った私のナイフが勢いよくぶつかり合う音が、会場全体に広がった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

二週間空いてしまって申し訳ありません。

おかげでテストに集中することができました。

また今日から更新していくのでよければ次回も読んでいただけると嬉しいです!

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