鬼の話
とある田舎の話。
その土地は、海に突き出た拳のような形の、小さな半島であった。
半島の中心には険しい峰々がそびえ、丘陵地と谷とが海岸に向かって放射状に伸びていた。交通の便がなかなか発達せず、昔は陸の孤島と呼ばれていたそうだ。
周囲から隔絶された環境がそうさせたのか、その土地では独特の宗教文化が発達した。仏教と神道が融合し、険しい山岳地帯は修行の場となった。
また、この土地は鬼が多く棲まう土地でもある。
一年の邪気払いと五穀豊穣を祈願して寺で行われる祭りは、鬼が主役である。数匹の鬼が松明を持って境内を飛び出し、集落中を練り歩く。暴れ回りながら暗闇を松明で照らし、火をもって邪気を払うのだという。
この土地でいう鬼とは、昔話によく出てくる悪鬼の意味ではない。仏の化身であり、またその土地に住む人々の祖霊でもあるのだそうだ。恐ろしげな風貌は、険しい自然を反映したものなのかもしれない。
鬼たちが髪を振り乱し眦を吊り上げて松明を振り回す様は、まるで地獄絵図のように恐ろしいのだが、それでもどこか目を離せない魅力がある。人々が鬼の背中や松明の陰に、もういない親しい人の姿を見るからかもしれない。
祭りが終わると鬼は姿を消すが、常には見えないだけで、その土地のそこかしこに棲んでいるという。大木の根元、道祖神の陰、海や川や山。軒先や、家の中の暗がりにも。
鬼は恐れるものではなく、人を見守ってくれるものなのだから、敬意を払うように、と人々は言う。
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これは私の故郷の話だ。
私は、何かを見たり聞いたり、感じることすらできない。それでも、黄昏時の空や夜道の電灯の下に、何かが潜んでいるような気がする時がある。
何がいるのかはわからないが、それが私達を見守ってくれる鬼なら嬉しい。




