お告げ
とある知人に聞いた話。
彼女は実家の墓で、何度かお告げを受けたことがあるのだという。
最初は高校三年生の夏で、志望校に迷っていた時だった。周りが勧める安全圏の大学か、自分が目標とする教授がいるワンランク上の大学か。別に墓前でそのことを相談したわけではなかったが、手を合わせ終わり踵を返した時、耳元で小さく
「頑張りなさい」
と声が聞こえた。その声に励まされるようにワンランク上の大学を受験し、見事合格した。
次は、就職一年目で恋人に振られた時。お互い新社会人として忙しく、すれ違いが増えた結果の納得済みの別れだったが、それなりに傷つき、しばらく恋愛は遠ざかりたい気分だった。しかし、またも墓前を去る際に耳元で
「半年後」
と聞こえた。その言葉通り、その気はなかったのに半年後に出会いがあり、アレヨアレヨというまに結婚に至った。
その次は、結婚後なかなか子宝に恵まれず悩んでいた時だった。この時は、意識して夫と並んで墓前に参ったという。
「大丈夫。男の子」
墓参りの後すぐに妊娠がわかり、声の通り元気な男の子が生まれたそうだ。
知人は確証はないものの、声の主は祖母だと信じていた。知人が高校に上がってすぐに亡くなった祖母は、彼女のことをとても可愛がり、よく助言をくれたからだ。
結婚してからは実家を離れてしまったが、里帰りのたびに墓に参り、手を合わせていたという。
ある年のお盆のこと。例年のように墓参りをした知人の耳に、またあの声が届いた。
「明日、帰りなさい」
帰宅は明後日の予定だったが、その言葉に知人はそれまでにない胸騒ぎを感じた。今までに受けたお告げのこともある。祖母は何か理由があって自分にそう伝えているに違いないと、孫との時間を惜しむ両親を急用ができたと説き伏せて、予定を変更した。
ところが翌朝、突然息子が高熱を出した。普段は手に余るほどのやんちゃ坊主が、赤い顔で息も絶え絶えに喘いでいる。
こうなると、帰宅どころではない。慌てて朝一で通院しようとするが、どの病院もお盆休み中だった。ようやく休日当番医を見つけて受診し、原因はわからないがとりあえず解熱剤を出してもらい、一旦実家に戻ってきた時には、もう昼近くだった。
祖母のお告げは気になるが、熱に喘ぐ子供を移動させられない。どうしようかと思っていると、テレビを見ていた父親が叫んだ。
「おい、大変なことになってるぞ」
つられて画面を覗き込み、知人は息を飲んだ。
それは、帰宅のために通る道路が、数台の車が絡む大事故のため通行止めになっているというニュースだった。
「お前、朝帰ってたら巻き込まれてたんじゃないのか?」
父親に言われるまでもなく、知人も同じことを思ったという。
結局その日は、実家にもう一泊することになった。
あれほど高かった息子の熱は、何故か解熱剤を使う前に急激に平熱まで下がり、夕方にはケロリとしていたという。
・・・・・・・・・
「次の日、私はまたお墓を行ってみました。最終的に事故にあわなかったのは、祖母のおかげだと思っていたので…」
しかし知人はなんだか釈然としなかったという。私も話を聞いて同じ気持ちだった。なにしろ、そもそもの予定では事故に巻き込まれようもなかったのだ。結局は無事だったとはいえ、お告げによって帰宅日を変更したことで、大事故に巻き込まれる可能性が出てしまったのだから。
心に小さなわだかまりを抱いたまま、知人が墓を後にしようとした時だ。
「チッ」
小さいけれど確かに、舌打ちが聞こえた。目に見えない者に凄まじい悪意を向けられたようで、全身に鳥肌が立ったという。
「その時思ったんです。今まで祖母だと思っていたお告げの主は、実は違ったんじゃないか、って」
それではお告げの主は誰なのか、何を思って自分に語りかけてくるのか、善意なのかそれとも悪意か。知人は何もわからないし、思い当たる節もないという。両親に聞いてみても、同じような体験をしたことはないと首を振る。
「それでも最近は、里帰りしても墓参りは控えているんです」
祖母には仏壇で話しかけるからいいのだと、知人は少し寂しそうにそう言った。




