表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

売店の幽霊

 とある病院で聞いた話。


 そこは、戦後すぐに建てられたという古い精神科病院だった。

 その一階にある売店に、先代院長の妻の幽霊が出るのだという。

 先代院長の妻という人は、生前から意識が高いのかただ単に意地が悪いのか、判断に困る人だったらしい。

 かつて彼女は、わざとみすぼらしい格好で売店に行き、休憩中の職員の様子にこっそり目を光らせていたらしい。そして、彼らが人を見かけで判断せず、患者もしくはその家族に対して適切な対応をしているかどうかを視察していたのだそうだ。

 とある職員などは、院長の妻と気づかず「汚ねぇババァだな」と小声で悪態をつき、レジの順番を割り込んでいったらしい。

 そういった無礼な職員に対しては、有無を言わさず減給や降格の処分が下された。

 注意勧告程度ならともかく、制裁を加えてしまうとは職権濫用に他ならないのだが、処分された方も、人を見かけで判断した上に職員として、というか人間としてあるまじき言動をしてしまった自覚と後ろめたさがあるため、おおっぴらに抗議をしたところで言いくるめられてしまっていたそうだ。そういう時代だった、ともいえる。

 しかし、その真意はどうであれ、院長の妻は職員の質向上には一役買っていた、ということはできただろう。

 そして彼女は、死して十数年がたった今でもその視察を時々行っているらしい、というまことしやかな噂があった。

 数年に一度、理由の良くわからない降格人事があると、長年勤めた職員たちは「まだ出るのか」と顔を見合わせるのだそうだ。


 ・・・・・・・・・・・・


「その幽霊って、いつも決まった格好じゃないの?」

 わたしは思わず、話をしてくれた元看護主任に尋ねた。

「それが、違うみたいなのよねぇ。みんな、どれが幽霊だったかわからないって言うのよ。ほら、精神科って変わった外見の人が多いじゃない? たしかなのは、売店の客を邪険にした記憶だけ。そしてある日突然、降格人事が下るのよ」

 彼女は手にしたコーヒーの缶を弄びながらため息をついた。

「私たちが悪いってことなのかしらねぇ、やっぱり。……でも、死んでまでつくづく意地の悪いばーさんだと思うわ」

 彼女の名札には、なんの役職も記されていなかった。

 その理由には、触れないでおこうと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ