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おいでの橋

 とある田舎町で聞いた話。


 その町を山の方に進んでいくと、大きなダムがある。昭和の終わりに完成したというそのダムは、春になると桜の名所として賑わいを見せるそうだ。

 そのダムの少し手前に、小さな橋がかかっている。車がようやくすれ違える程度のこの橋には、ダムにちなんだきれいな名前がつけられていたが、その名で呼ぶものはほとんどおらず、大抵は「ダムのところの橋」と曖昧に呼ばれていた。

 しかしときに、「知る人ぞ知る自殺の名所」と、不名誉なあだ名で呼ばれることもあった。

 一体どんな不届き者が言い出したのかは知らないが、「ダムの放水に合わせて飛び降りれば、確実」という噂が、まことしやかに囁かれていた。確かに、橋から川までは高さがある上にゴロゴロとした岩が多い。運良くそれを避けて飛び降りても、ダムの水に飲まれてしまえば、浮き上がるのは難しいだろう。

 噂を信じてかどうかは知らないが、数年に一度、下流で身元不明の死体が見つかることがあった。自殺かどうかも定かではなく正確な入水場所もわからないが、おそらくあの橋からであろうと、町の人は話すのだそうだ。

 短く狭い橋だが、両袂に一つずつ、中程の欄干の左右に一つずつ、計四つの電灯があった。

 ダムに至る道路にも周囲にもほとんど電灯がないことを思えば、奇妙なほどにその橋は明るかった。夜になって灯りがともると、暗闇の中にまるで橋が浮いているように見えるという。

 もともと、電灯は両袂の二つしか設置されていなかった。しかし、ダムができて以降飛び降りが相次いだため、それを防ぐために灯りを追加したのだそうだ。煌々と照らされていれば、飛び降りにくいだろうという考えだ。

 しかし電灯追加後も、自殺者の数は目に見えて減ったということはなかった。今でも時折、橋できれいに揃えられた履物と遺書などが見つかることがあるという。


 ・・・・・・・・・


「あの電灯なぁ。あれが、逆効果のような気もするんだよな」

 ダムのすぐ近くに住むという男性は、そうため息をついた。彼の家からは闇夜に浮かぶあの橋が、毎晩よく見えるのだという。

「白々と灯りに照らされた橋を見てると、なんだか、こっちに来いと呼ばれてるような気分になるんだよ」

「呼ばれる、ですか」

「誘蛾灯に誘われる蛾みたいにな。じっと見てると、灯りの下にぼんやり人影が見えたりな。そいつが、俺に向かって手招きをしてたりな。まあ、瞬きすればすぐ消えるから、目の錯覚なんだろうけど」

 男性は苦笑して続けた。

「一度、あの橋から飛び降りようとしてた奴を止めたことがある。夜桜見物に来てた酔っ払いで、おかしなことを言ってたな。橋の上から誰かに呼ばれて近づいたが、下を覗き込むととてつもなく素晴らしい世界に見えて、すぐさまそこに行きたくなったんだと。俺と改めて下の川を覗き込んだら、高くて暗くて、腰を抜かしてたな。……案外、そんな奴も多いのかもしれんな」

「そんな奴?」

「その気はないのに、橋に呼ばれたって奴さ」

 男性はそう言って、力なく笑った。

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