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ソラノーツ  作者: 花の人
第二章 死神を纏う少女
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そして私は君と出逢った

 ――数か月後。


「――森を抜けるのは……少し大変、だな……」


 数日前に訪れた村で貰った地図を確かめながら、私は木々の間を目印と共に進んでいた。


 ――あの後。

 私はすぐに旅の支度を済ませると、夜明けと共に屋敷を抜け出した。


 旅の経験というものはなかったが、何せ天望人の体は不死身だ。

 多少のことならば無理は効くし、何より私は元来、そういった肉体的負荷には強く設計されていた。


 何度か餓死寸前……いや、あれは一度餓死してしまったのだったか?

 まぁそのような状態になりながらも、私は無事に旅を続けることが出来ていた。


 『種』の力を取り込んだ源生物との遭遇は、私が伝え聞いていた以上に頻繁で、その点は少々厄介ではあったが……幸い、対獣用の訓練もこなしていたおかげで、難なく対処することが出来ていた。

 ……あの男は、しっかりと私に必要なことを仕込んでいたようだ。

 それに関してはもちろん、今になっても……やはり苛立ちの方が勝るのだけれど。


 ――そして、当然。


 ……拝宇としての仕事も、既に何件かこなしている。


 私を拝宇の介錯人と知る者、知らぬ者……どちらであっても。

 私は彼らの死を望む理由を聞き届け、介錯を施した。


 死神としての衣を纏い。

 『ベル』と名付けたこの大鎌で、首を断つ。

 せめてその最期が……鈴の音に包まれ、ただ安らかであるようにと願って。


 ――セツ……君と、同じ様に。


 幼き私を照らし続けた、真っ白な少女の姿を思い浮かべながら。


「……ん?」


 そのまましばらく道なき道を進んでいると……ふとそこに、木陰に横になる人の影を目の端で捉える。


「こんな所に人……?」


 私は仮面を着用し、警戒を怠らずその影に近付く。


「……?」


 倒れていたのは、少年だった。

 一糸纏わぬ姿で仰向けになる、十三、四歳程の白髪の少年……――


「――んっ!?」


 ――いや、もちろん……! 知識としては、本で読んであったから……知ってはいたのだけれど!


 仮面の窮屈な視野越しに、少年の……その、アレが見えてしまった私は、すぐさま背中を翻した。


「……ほ、ほんとにあるんだな……」


 男性の裸体というものは初めて見たので、何だか謎の感慨のようなものがあった。

 ……いや、別に、だから何だという話なのだけれど。


「はぁ……一体何だって、こんな所で倒れているんだか……」


 まぁ十中八九、事故死か何かで死んで……この場所で肉体が再生されたのだろう。

 こんな森の奥、一糸纏わぬ姿では……次の安全な場所にたどり着くまでの間で、何度死ぬか分からないが。


 ――まぁ、気の毒なことだな……。


 将来起こり得るであろうその悲惨な光景に対し、多少の哀悼の意を表し……私はそのままその場を立ち去ろうとした――その時、だった。


「――ゆる、して」


「――!」


 背中越しに聞こえた少年の声に、私は思わず歩みを止めた。

 目覚めたのかと思ったけれど……どうやら、眠ったままうわ言を呟いているらしい。


「ごめんなさい、ゆるして、ごめんなさい、ゆるして……」


 悪夢を、見ているのだろう。

 白い少年は、苦悶の表情を浮かべながら……たった二つの単語を繰り返していた。


 その姿が……何処か、見覚えのある誰かと重なる。


『ごめんなさい、シャル……』


 ――セツ。


 罪悪感と共に、私と共に在り続け……そして、在り続けられなかった少女。


 ひたすら謝罪と懇願を繰り返す、その真っ白な少年の姿が……どうしても、彼女と重なるから。


「――はぁ……」


 私はため息と共に、その場に腰を下ろした。


 ――まぁ、こうして声を上げられるのなら……数時間のうちに、目が覚めるでしょ……。


 揺らめく葉々の隙間から漏れる、木漏れ日の温かさに身を任せながら……自らの胸の内に、問いかける。


「――これで、良いんだろう? セツ……」


 ――よくできましたね。


 ……かつて私の求めていた言葉、その幻聴を耳にしながら。

 私は少しの間……目を瞑っていた。

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