そして私は君と出逢った
――数か月後。
「――森を抜けるのは……少し大変、だな……」
数日前に訪れた村で貰った地図を確かめながら、私は木々の間を目印と共に進んでいた。
――あの後。
私はすぐに旅の支度を済ませると、夜明けと共に屋敷を抜け出した。
旅の経験というものはなかったが、何せ天望人の体は不死身だ。
多少のことならば無理は効くし、何より私は元来、そういった肉体的負荷には強く設計されていた。
何度か餓死寸前……いや、あれは一度餓死してしまったのだったか?
まぁそのような状態になりながらも、私は無事に旅を続けることが出来ていた。
『種』の力を取り込んだ源生物との遭遇は、私が伝え聞いていた以上に頻繁で、その点は少々厄介ではあったが……幸い、対獣用の訓練もこなしていたおかげで、難なく対処することが出来ていた。
……あの男は、しっかりと私に必要なことを仕込んでいたようだ。
それに関してはもちろん、今になっても……やはり苛立ちの方が勝るのだけれど。
――そして、当然。
……拝宇としての仕事も、既に何件かこなしている。
私を拝宇の介錯人と知る者、知らぬ者……どちらであっても。
私は彼らの死を望む理由を聞き届け、介錯を施した。
死神としての衣を纏い。
『ベル』と名付けたこの大鎌で、首を断つ。
せめてその最期が……鈴の音に包まれ、ただ安らかであるようにと願って。
――セツ……君と、同じ様に。
幼き私を照らし続けた、真っ白な少女の姿を思い浮かべながら。
「……ん?」
そのまましばらく道なき道を進んでいると……ふとそこに、木陰に横になる人の影を目の端で捉える。
「こんな所に人……?」
私は仮面を着用し、警戒を怠らずその影に近付く。
「……?」
倒れていたのは、少年だった。
一糸纏わぬ姿で仰向けになる、十三、四歳程の白髪の少年……――
「――んっ!?」
――いや、もちろん……! 知識としては、本で読んであったから……知ってはいたのだけれど!
仮面の窮屈な視野越しに、少年の……その、アレが見えてしまった私は、すぐさま背中を翻した。
「……ほ、ほんとにあるんだな……」
男性の裸体というものは初めて見たので、何だか謎の感慨のようなものがあった。
……いや、別に、だから何だという話なのだけれど。
「はぁ……一体何だって、こんな所で倒れているんだか……」
まぁ十中八九、事故死か何かで死んで……この場所で肉体が再生されたのだろう。
こんな森の奥、一糸纏わぬ姿では……次の安全な場所にたどり着くまでの間で、何度死ぬか分からないが。
――まぁ、気の毒なことだな……。
将来起こり得るであろうその悲惨な光景に対し、多少の哀悼の意を表し……私はそのままその場を立ち去ろうとした――その時、だった。
「――ゆる、して」
「――!」
背中越しに聞こえた少年の声に、私は思わず歩みを止めた。
目覚めたのかと思ったけれど……どうやら、眠ったままうわ言を呟いているらしい。
「ごめんなさい、ゆるして、ごめんなさい、ゆるして……」
悪夢を、見ているのだろう。
白い少年は、苦悶の表情を浮かべながら……たった二つの単語を繰り返していた。
その姿が……何処か、見覚えのある誰かと重なる。
『ごめんなさい、シャル……』
――セツ。
罪悪感と共に、私と共に在り続け……そして、在り続けられなかった少女。
ひたすら謝罪と懇願を繰り返す、その真っ白な少年の姿が……どうしても、彼女と重なるから。
「――はぁ……」
私はため息と共に、その場に腰を下ろした。
――まぁ、こうして声を上げられるのなら……数時間のうちに、目が覚めるでしょ……。
揺らめく葉々の隙間から漏れる、木漏れ日の温かさに身を任せながら……自らの胸の内に、問いかける。
「――これで、良いんだろう? セツ……」
――よくできましたね。
……かつて私の求めていた言葉、その幻聴を耳にしながら。
私は少しの間……目を瞑っていた。




