『ざまぁ』は誰かがやってくれる
私シルビア・ロワイルが婚約破棄され家を追い出されたのは1年前の話だ。
妹と婚約者がいつの間にか肉体関係をもっていて妹が妊娠してしまった、だから責任をとって妹と結婚する、それが婚約者の言い分。
両親はどっちにしても跡取りが出来たんだから問題無し!と脳内お花畑な発言をして、更に私はもう必要無いから、と追い出した。
あの時の妹の勝ち誇った顔は今でも忘れられない……。
少ない手切れ金だけ渡された私が流れ着いたのは名もなき小さな村だ。
フラフラになって倒れそうになっていた私をこの村の人達が助けてくれた。
私が事情を話すと『大変だったねぇ』と涙ながらに同情してくれた。
そこからは1人で暮らしていく上で必要な平民の常識やら家事とか洗濯とかを学びなんとか私は暮らしている。
持っていた手切れ金は生活費だけ残して村に寄付した、おかげで村の暮らしは少しは改善された。
そして現在、私は村長さんからあるお話をされていた。
「えっ、ロワイル公爵家が無くなった?」
「なんでも屋敷が火事になってしまったみたいで身元確認で関係者を捜しているそうだよ」
「亡くなったのは家族全員ですか?」
「そうみたいだ、でどうするかい?」
「私は縁を切られた身なのですが……、最後の務めとして身元確認をしにいきます」
私は1年ぶりに実家へとやって来た。
(見事に真っ黒焦げになっちゃったわねぇ……)
屋敷は跡形も無く崩れ去っていて火の勢いの大きさがわかる。
私は遺体が保管されている、という騎士団の詰所へとやって来た。
「シルビア様、お久しぶりです」
「ご無沙汰しております、一応血は繋がっているので身元確認しに参りました」
知り合いの騎士に挨拶をして私は遺体安置室へ案内された。
そこには4体が布で覆われていた。
「覚悟はよろしいですか、かなり衝撃を受けると思いますが」
「えぇ、大丈夫です……」
内心はドキドキしつつも私は遺体を1つずつ確認した。
遺体はどれも真っ黒焦げで焦げた匂いがして吐き気はしつつも私はなんとか遺体が両親と妹、そして元婚約者である事を確認した。
遺体は調査が終えた後、貴族墓地に埋葬されるそうだ。
さて、そうなると元実家はどうなるのか、唯一の跡取りである私の判断に委ねられるそうだ。
「私はもう平民として生きていますので貴族社会に復帰するつもりはございません、ロワイル公爵家は廃爵という事でお願いします」
「そうですか、では貴族院に申請致しましょう」
私は書類を書いて騎士にお願いして村へと帰って行った。
(しかしあの遺体、なんか不自然だったような……)
遺体を見た時、私はちょっとした違和感を感じた。
手足が縛られていたみたいな状態になっていたし顔もなんか驚愕の表情をしていた。
それに使用人やメイド、執事達に被害が無かった事も気にかかる。
別に彼らの誰かが元家族に不満を抱いて放火したなんて思ってはいない。
でも両親達だけ、というのがなんか引っかかる。
まるで最初から仕組まれていたような……。
この違和感は数日後に解決する事になった。
村に豪華な馬車がやって来て王太子様が訪ねて来たのだ。
「シルビア嬢、久しぶりだね」
「王太子様、お久しぶりです」
私と王太子様は貴族学院時代の同級生で親交がある。
かつては婚約の話も出ていたけどいつの間にか無くなっていた。
「元家族の事は残念だったね」
「いえいえ、私はもう追い出された身ですので」
私はお茶を出しながら言った。
「学生時代からシルビア嬢のお茶は美味いと思っていたけど腕は落ちてないね」
「これぐらいしか取り柄がありませんので……」
「そんな事は無い、私はシルビア嬢の事を評価していたんだ、それなのに元公爵は君の事を見下していた」
「お父様は自分中心の方でしたから……」
「あぁ、貴族の中でも問題はあった、でも公爵家だから我々王族も簡単に手出しは出来なかった」
「……あの、もしかして元実家って他の貴族からの評判が悪かったんですか?」
「そうだね、悪評は父上の耳にも届いていたからね、あ、シルビア嬢は別だよ、『あの家に生まれてあんなに性格の良い子に育つなんて奇跡だ』って言われていたからね」
そんな風に言われていたの、私?
ていうか元実家って王家に目をつけられるくらいに評判が悪かったんだ。
「ロワイル家が正式に無くなったから言える話なんだけど……、あの火事を指示したのは実は父上なんだ」
「えっ!? 国王様がっ!? もしかして元実家が何かやったんですか?」
「やったと言うか……、シルビア嬢の婚約を勝手に破棄した事が原因かな」
え、私の婚約破棄が原因?
「シルビア嬢の婚約は家同士の繋がりを重視して父上が王命として出した事だ。 つまり勝手に破棄する事は王命に反する、即ち国に謀反の疑いがある、と解釈されても仕方が無い事なんだ」
「そういえば私と元婚約者がお会いしたのは王宮で国王様も立ち合っていましたね」
「そう、だから元公爵家は『処分』されたんだ」
「あぁ~、やっぱり元家族は抵抗できないように拘束されていたんですね」
「執事に協力してもらい食事に睡眠薬を入れて眠らせ縛り上げた、目覚めた時に油を屋敷全体に撒いて火を放ったそうだ、報告書に書いてあったよ」
元家族はきっと『どうしてこんな事に』て思っていたんだろうなぁ、自分達の自業自得なんて思わないだろう。
「でも、どうして私にこの事を話しに?」
「いやぁ、君だったらきっと疑問に思うだろう、と思ってね、因みに父上に了承は取っているから」
国王様、怖いんだが優しいんだかわからないなぁ。
まぁ元家族の死の真相を知った、としても平民になった私にはどうしようもない話なので。
私はこの事は頭の片隅に追いやって平和に暮らして行くつもり。