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騙し合い


「遅かったな…。」

黒地に金の刺繍が施されたテーブルクロスの上には、お皿やカトラリーが並び赤い薔薇が飾られていた。

二人の男女がすでに席についている。


「ごめんなさい。お父様、お母様。準備に手間取ってしまって…。」

嫌悪感を出してしまわないように注意しつつ、私は席につく。

元日本人の私は、テーブルマナーなど縁のないものだったけれど、いまはミリアーナの記憶のおかげで自然に振る舞えた。

私の向かいに座る男性が、ガイド・ディアローズ。赤い瞳の黒髪オールバック。

スーツを着こなし、見た目は30〜40代に見えるが、実際は260歳だ。

種族としても吸血鬼は長生きなのと、それだけたくさんの人の血を吸っているってことでしょうね。

その隣の女性が、リエール・ディアローズ。

彼女は昔から研究者として働いていて、大きな功績が吸血鬼が太陽を克服できる薬を作ったことだったらしい。

その功績を聞いた、当時魔国の貴族だった父に見初められた…まぁ、もう220年くらい前の話だけど。


使用人達が料理を運び、食事が始まった。

どれも高級な料理のフルコース、豪華で美味しい…こんな状況じゃなきゃ、もっと楽しめるのになぁ。

この空間は冷たく、居心地が悪かった。

母がふと口を開いた。

「ミリアーナ。貴方の侍女はどうしていないの?」


きた。私は言いにくそうに視線をずらして答える。

「えっと、アンは…出ていってしまいました。」

「出ていった?それはどういうことだ?」


父が赤い瞳で睨みつけてくるが、私は悲しそうな表情で話を続けた。

「昨日起きたら置き手紙があって…どうやら隣国の商人と恋に落ちたので、駆け落ちをすると…。ずっと、私のそばにいてくれるって言ってたのに…急に…。」


わたしは顔を手でおおい涙を流しながら、二人の様子をうかがった。

「それは本当か、ベスター?」


壁際に控えてたベスターは申し訳無さそうに答えた。

「はい。旦那様。気づいたときにはすでに出ていったあとでした。私の監督が行き渡っておらず…申し訳ありません。」

「そうか、あれは奴隷契約をしてないやつか…」


私はとにかく、最も頼っていた侍女に裏切られ悲しみにふける少女を演じる。

それを眺めていた母は、柔らかな微笑みを浮かべ語りかけてきた。


「ミリアーナ、泣かないで?ただの侍女が辞めただけのことでしょう。今回のことは良い経験になったわね。他人は簡単に裏切るの。まして人間なんてね?」


何言ってんのか呆れてしまう。

まぁ、たしかに他人を簡単に信じてはいけない。

家族なんて名詞がついてたところで、他人なんだから…あなた達も信じない。

この思いを出してしまわないよう、戸惑っている表情を作る。


「あんな人間なんかに、あなたを預けていた私達が悪かったわ。これから研究ばかりでなく、もっとあなたとの時間を作るわ。ね、ミリアーナ。」

母は立ち上がり私の隣に立ち、両手を広げる。

その顔は確かに、慈愛に満ちていた。


「お母様!!」

頭を優しく撫でられる。

この感情は、ミリアーナのものだろう。

この人は私を裏切っている。騙そうとしている。これだって演技だ、分っている…けれど。

私の瞳からとめどなく流れる涙は本物だった。

そう…わたし達は、こういう愛情が欲しかった。

でもね、決して騙されてはいけない。


「ミリアーナ。次の侍女はお前の好きに決めていいぞ。どれがいい?」

父も母に合わせ優しげな口調で尋ねる。

私は少し悩む素振りをしたあとに、ふと口を開いた。


「…お父様たちは、明日も奴隷市場へと向かうのですか?」

二人は一瞬ピクリと反応したが、父がこちらを試すように答えた。


「あぁ。知っていたのか…。たしかに明日は行くつもりだが、それがどうした?」

「どうせなら奴隷を侍女にしたほうがいいのかなって…お二人を見てて思いまして。…ならば、自分の目で見て選んでみたいなぁって…私も一緒に行きたいんです。」


ミリアーナは基本外に出たことがない。

両親二人と一緒、に遠くの研究所へ行くときくらいだけ。屋敷の敷地から一人で出ることはなかった。

まぁ、広大な敷地だからこそそこまで苦ではないはず…前世の監視だらけの暮らしよりはマシだ。

二人は目線を合わせ、少し考え込んでいた。

ここで連れて行って貰えないと、今後の計画を変更しないといけない…。

私はじっと待っていた。


「確かに、そのほうがいいかもな。ミリアーナももう10歳になるしな…俺たちも一緒に行くのだから大丈夫だろう。」

その言葉にガッツポーズをしそうになったが、ぐっとこらえた。


「本当ですか!お父様ありがとうございます!ふふ、楽しみです。…明日の為にも、今日はもう部屋へ戻ります。」

私は席を立ち、扉へと向かう。

これ以上は一緒にいたくなかった。


「あぁ。明日は十時に門の前に馬車を用意するからな。」

「はい。わかりました!それでは、おやすみなさい。」


二人に挨拶を済ませて、部屋を出る。

ベスターも私についてきた。

私は隣の部屋へと入った。ベスターには扉の前で待機してもらう。

今から、残った二人の会話を盗み聞きするのだ。


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