誕生日の夜
誕生日当日は、屋敷中がお祝いムードに包まれていた。
夕食もいつも以上に豪華なメニューが並び、両親も機嫌が良く穏やかな時間が進んだ。
食事が終わるとお母様が私に薬を差し出した。
「ミリアーナ、おめでとう!これで今日から貴方も吸血鬼になるわね。
はい、これ。太陽克服用の薬よ。」
私が薬を受け取ると、メイドが現れ水を渡された。
…ここで飲むしかないのか。覚悟を決めて赤い薬を飲み込んだ。
口の中に苦くて甘い、薔薇の香りが広がった。
私が飲み込んだのを確認して、お母様達が満足そうに頷く。
「これからは、一日一回、薬を飲むようにしてね。そうすれば、陽の光を浴びても大丈夫になるから。
それと、この後部屋へ戻ったらレオナードの血を飲みなさい。吸血鬼に成り立ては特に不安定だからね。」
「レオナードは今夜はミリアーナの部屋で一晩警護をするように。ミリアーナを狙う刺客が今日は特に多くくるだろうからな。部屋の外は私の部下たちを置いておく。」
「かしこまりました。」
確実に私にレオの血を飲ませるためだろう。
お父様の部下ということは暗殺者とかだろうし、倒せても怪しまれてしまう。
下手なことはしないほうが良さそうね。
退室しようと立ち上がろうした瞬間、心臓がドクンと大きく動けのを感じた。
思っていた以上に薬の効果が早い。
「今日はありがとうございます!お先に失礼しますね。」
「えぇ、ゆっくり休んでちょうだいね。」
私は挨拶を済ませて、素早く自分の部屋へと向かう。
レオだけでなく、たくさんの警護という名の監視もついてきた。
部屋の前までたどり着き、レオと私だけが部屋の中へと入る。
私はベッドへと倒れ込んだ。
吸血衝動がここまで強いなんて…
喉が渇く、体は熱くて痺れて動くのが辛い。
「姫さん!!」
レオが心配して駆け寄ろうしたが、それを私は手で制した。
「…っはぁ、…はぁ、だめ。いまはぁ、ちかづいちゃぁ…」
溢れてきた涙で視界はぼやけて歪み、レオの表情とかまではわからないが動きを止めてくれたのはわかった。
私はレオを視界に入れないように、壁側に体を向けた。
怖い。
レオをみて、美味しそうと思ってしまった。
レオから溢れる魔力と血の香りに脳がグラグラと揺れる。
私もあの人達と一緒になってしまう。…いやだ。
苦しい。喉の乾きだけでなく、心臓が脈打つたびに熱くなる。胸がキュと詰まる。
「姫さん。ルルの姉さんから渡されてる薬飲めるか?」
そうだ、忘れてた。
私がコクリと頷くとレオが水を渡してくれた。
受け取ろうとするけど、手が痺れてうまく動かせずコップを落としてしまった。
パリンとガラスが割れた。
「あっ…はぁ…ごめん…なさ」
「大丈夫だ。」
そう言うとレオは私の頭をなでて、ガラスをさっさと片付ける。
情けない…何もできない自分が。
私の目の前にレオが立つ。私はぼんやりとして見上げた。
「なぁ、姫さん。俺なら今すぐに姫さんを眠らせることができると思う。…ただ、方法はあれだけど。…どうする?」
苦しくて熱くて頭が回らない。
私はレオのシャツを力の入らない手で掴む。
「はぁ…っ、たすけて!…れお。」
私の言葉を確認するとレオは薬を口に含み、水を入れ…私の唇へと運んだ。
口移しで飲ませようとしているのだと気づいたのは、レオの舌が私の口の中に入ってきたときだった。
薬が口の中へと入り水が流れてくる。
ゴクリと飲み干すと同時にレオの舌が私の舌を絡め取った。
「ふぁ…はぁっ…はぁ」
危ないのに、今少しでも私が動けば、レオの舌を噛めば血が飲めてしまう。
でも動かなかった。いや、動けなかった。
初めての刺激が甘い誘惑が吸血衝動を一瞬上回った。
やっと、レオが離れた。
「…インキュバスはこういうふうに触れ合ったりすることで相手に催眠とかをかけたりすることができるんだよ。」
私はぼんやりとレオを見る。頭もモヤがかかったみたいだ…
「姫さん、今は眠れ。…お前のことは俺が守ってやるから。」
そう言うとレオは私の視界を塞ぐように手だ目を覆う。
私は抗えない力に身を任せ、重いまぶたを閉じる。
次の瞬間甘い匂いに包まれて、安心して私は眠りについた。




