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第2話 辺境の地・ヌルメンカリ

 あれから何日が経過したのか分からない。

 無事に回復して動けるようになった。それだけで十分だけど、わたしはここに居ていいのかな。


 ヴィクトルは、優しい笑顔で接してくれるけど……。



「どうしたんだい、レニ」

「いえ、なんでもありません」

「そんな風には見えないな。なんでも言ってくれ」

「でも」

「――ふむ。なるほど、では外の空気を吸いにいこう」


 手を差し伸べてくるヴィクトル。

 少し悩んだけど、無碍(むげ)にするわけにもいかない。

 彼の言う通り、まずは外へ行って気分転換をしてみよう。もしかしたら、気分とか変わるかも。


「分かりました」

「僕が支える。肩に手を」

「助かります」


 ゆっくりと立ち上がり、少しフラついた。けれど、大丈夫。歩ける。

 外へ出ると雪景色が広がっていた。

 あれから随分と降ったようだった。

 あのまま倒れていたら、凍死していたかも。


「どうだい、辺境の地・ヌルメンカリは凄い場所にあるだろう」


 一面、高い崖で覆われていた。

 ここは山の中にある街なのかな……?


「不思議な場所ですね。わたし、こんな標高の高い場所まで歩いてきたのでしょうか」

「君が倒れていた場所からは、かなり離れているよ。ここはロトヴィウス山の頂でね。霊峰とも呼ばれている」


「あ、もしかして」

「さすがに知っているようだね。もともとこの地は“溶岩湖”だった。けれど、数千年も前に火山活動は停止。大地となったこの場所を、帝国は街に変えた」


 そうだった。ここは火口の街であり、辺境の地・ヌルメンカリ。

 ようやく思い出した。


 今は雪で真っ白に覆われている。

 こんな幻想的な街があるだなんて……素敵ね。



「では、ヴィクトル様はこの街を守っていらっしゃるのですね」

「そんなところだ。ただ……」

「ただ?」

「僕ひとりでね。人手不足で大変なんだ」


 そういえば、ヴィクトル以外の人の気配を感じない。

 執事とかメイドとかいないのかな。


「誰かお手伝いさんとかいないのです?」

「残念ながら、専属の執事が倒れてしまってね。今は療養中なんだ」

「大丈夫なのですか?」


「屋根の雪かきをしていて……足を滑らせて転落してしまったんだ。僕の責任だ」

「……お気の毒に」

「だから、今は大変でね」

「では、わたしが手伝います」


「いや、けどレニはまだ体力が回復していないだろう……?」

「治れば大丈夫です。それに、恩返しもしたいので」

「……そうかい?」

「なんでも言ってください。手伝うので」

「ありがとう、レニ。分かった。お願いするよ」

「はいっ」



 それから、しばらくは体力の回復に努めた。

 安静にすること三日。

 わたしはようやく動けるようになった。



「――おぉ、レニ。元気になったようだね」

「おかげさまで、もう大丈夫です」

「では、リハビリも兼ねて歩こうか。ちょっと“依頼”もあってね」

「依頼、ですか」

「ああ、辺境伯としての仕事なんだ。悪い」


 貴族なのに大変なんだ。

 でも、仕方ないか。

 動ける者は、わたしとヴィクトルだけ。

 街の状況とかも知りたいし、彼についていこう。


 外へ出ると、雪はとけて歩けるようになっていた。街にも活気が戻っていて、多くの人たちが行き交っていた。子供やお爺さん。行商人やエルフ。ドワーフもいる。


 こんなに人が沢山いたんだ。


 ヴィクトルの背中を追っていくと、ある場所に到着。そこは、野菜を売っているお店だった。背の小さなお婆さんが椅子に座って、パイプタバコを嗜んでいたところだった。



「――おや、ヴィクトル。久しぶりだねぇ」

「カウラさん。依頼を受けにきたよ」


「それはありがたい。農作物を荒らすモンスターに困っていたところだよ。……ところで、連れのお嬢さんは何者だい? 見たところ教会の人間に見えるけど」



 カウラというお婆さんは、鋭い目つきでわたしを見つめる。怖い……。



「こちらは聖女レニ様だ。ある事情で僕の邸宅(いえ)に住んでいる」

「せ、聖女様だって……?」


 信じられないと、お婆さんはわたしを睨む。だから怖いって。



「は、はじめまして……レニです」

「余所者と握手はしないよ」

「……は、はい」



 まだ歓迎されていないということね。……当然か。

 落ち込んでいると、ヴィクトルがわたしの肩に手を置いた。


「大丈夫。これからだ」

「ヴィクトル様……」


「さて、カウラさん。畑を荒らすモンスターを倒せばいいんだろう?」

「あぁ、そうさ。けど、Lv.1の辺境伯様に討伐できるかどうか」


 ぷは~とパイプタバコの煙を吐き出すお婆さん。

 なんだか、最初から期待していないような口ぶり。もしかして、そうなのかな。

 だとすれば、わたしがヴィクトルをサポートしなきゃ。



「大丈夫。僕は確かにLv.1だけど、レベルなんて関係ないよ」

「……まあいい。頼んだよ、ヴィクトル」



 お婆さんと別れ、畑へ向かうことになった。モンスターの討伐依頼だったなんて……。わたし、大丈夫かな。


 戦闘経験は、それほど多くはない。

 帝国や故郷では祈りを捧げている時間の方が多かった。

 けど、スキルが使えないわけではない。きっとお役に立てるはず。



「が、がんばります」

「レニ、震えているね。大丈夫、この僕が守るからさ」

「は、はい……」



 街から離れると、畑が見えてきた。

 モンスターによって荒らされている形跡があった。


 しばらくすると、そのモンスターが出現。


 あ、あれは……!



 緑色のスライム……?



「なるほど、グリーンスライムか。あれは野菜を食い荒らすと聞く」

「確か、スライムは弱いと聞きます」

「そうだね、あれなら楽勝のはず」



 腰からレイピアを抜くヴィクトル。わぁ、あんな刃の細い剣は初めて見た。

 それに、とても凛々しくて強そう。



「がんばってください、ヴィクトル様。支援しますっ」

「助かる。それじゃ、さっそく討伐に掛かる」



 びゅーんと飛び跳ねるヴィクトル。

 それはまるで嵐だった。


 彼は凄まじい脚力でスライムに突撃していた。



 ちょ、ちょっと待って……こんな高速移動するなんて聞いてない!

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