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第8話 元カノと新しい関係

「用意周到なユウくんはパーティーメンバーの経歴を全部洗ったでしょ?」


 もちろんだ。

 情報収集にだけは手間を惜しむな、情報が命を守ってくれる。これはリタの受け売りだ。


 店を出て、リタに抱きかかえられた僕は夜空に中にいる。

 今の彼女の背中には真っ黒な翼が生えていて、縦横無尽に空を飛び回ることができる。その姿はまるで悪魔のようだった。


「特に不審な点はなかったよ。レイヴは本当にドラゴンを討伐していたし、ゴーシュはベヒーモスを一人で足止めしていたし、イリスの回復魔法の範囲は広かった」


 ドラゴンとベヒーモスに関しては天然物なのか養殖だったのか不明だけど、功績としては十分だろう。


「じゃあ、ユウくんはどう?」


 何の反論もできない。

 僕が闇ギルドを潰したのは間違いないが、あれは彼らの自滅に近い。


「他の3人もユウくんと同じってわけ。実は大したことのないメンバーが集められているんだよ。ユウくん以外はね。ユウくんは私の……んー、今は弟子でいいか。弟子なんだから大した奴だけどね」


 どこからどう見ても大した奴の集まりだろ!

 怪物揃いじゃないか。僕が一番地味に見えるだろ!


 少しばかり取り乱したが、本当に僕とリタの関係を何と呼べばいいのだろうか。

 あまりエロティックな名称は口にしたくないし……。


「あのパーティーでは魔王どころか魔人すらも倒せない。絶対に、ね」


「じゃあ、なんで僕たちは選ばれたんだろう」


「簡単だよー。勇者を魔王討伐に向かわせたいんだ。ただそれだけ。誰でもいい。偶然、白羽の矢を立てられた。残念賞だね」


「あー、キレそう。僕も一緒にお城の屋根をぶっ壊すのを手伝おうかな」


「ダメだよ。暗殺者なんだから、もっとクールに仕留めないと」


 リタの細い腕がより強く僕を抱いた。


「国王陛下とリタの言い分は聞いた。次はレイヴたちからも話を聞くよ」


「嘘をつかれてるのに、まだ王様の味方なの?」


「僕は誰の味方でもないよ」


 そのとき、突然リタが手を離した。


 僕は重力に従って地上へと真っ逆さまに落ちていく。

 雲よりも少し低い位置を飛行していたから地上までの距離はまだあるが、そろそろ手を打たないと大変なことになる。

 

 それでも僕は脱力しきっていた。


「ユウくんはまだ私を信用も信頼もしている。私の味方だよね」


 その声が聞こえた直後に脇の下を抱きかかえられ、首がもげそうになった。


「僕を試したのか? だからあの日の夜、家についてきたのか?」


「違うよ。どうせ、殺されるならユウくんがいいなって思ってたの。ずっと前からね。そしたら本当にユウくんだったからテンションが上がっちゃって」


 リタの顔を見上げると、照れた顔が月明かりに照らされていた。


「言ったじゃん。楽しいことをして、欲しいものを手に入れて、飽きたら捨てればいいって」


「そんな関係でいいのか。僕は……」


「嫌いになったら、また捨ててくれていいよ」


「ちがッ――!」


 僕はリタを嫌いになったことなんてない。

 でも、その気持ちがリタに伝わっていなかったことに愕然とした。


「リタが一番で、僕が二番だ。一番前を行くリタがどうすれば、ベストな未来にたどり着けるのか考えるよ」


「そうだね。ユウくんは万年二番の男だから、これからも二番手でいて欲しいな。絶対に一番になっちゃダメだよ」


 リタは上昇を続け、雲を突き向けて満天の星空を僕に見せてくれた。


「分かってるよ」


「どうかなー。人は変わっちゃうからなー。暗殺者アサシンになって、ユウくんの戦い方と考え方が変わっていなければいいけど」


 リタの見せてくれた本物の夜景をまぶたに焼き付けるつもりで目を見開いた。

 こんなにも綺麗な夜空を見たのはリタと付き合っていたとき以来だ。


 任務中も夜戦や野宿は頻回にあったけれど、そのときに見上げた空はもっと薄汚れていた気がする。


 ただ、効率だけを考えて敵を倒す。

 味方がどこにいて、何をしていようが関係ない。

 僕は【気配隠蔽】で誰よりも先に本陣へ行けるのだ。敵の大将を叩けば、戦いは終わる。

 リタと再会するまで僕は常に一番だった。


「……初心を思い出すことにするよ」


「それがいいね。魔王は一番最初に扉を開いた奴を問答無用でぶっ殺すらしいから気をつけてね」


「こわっ。じゃあ、扉は開けないようにするね」


 学生時代はリタが僕の前にいてくれた。

 ダンジョン攻略の課題も、学園対抗戦も常にリタが先陣を切り、僕は後方支援や裏工作を行っていた。


 それが、いつの間にか真逆の戦術を取るようになってしまっている。

 これは成長と言えるのか、それとも傲りか、あるいは無謀か。


「全然、関係ないけどさ」


「うん?」


「ドレス姿で飛ばない方がいいと思うよ。さっき丸見えだった」


「おや? もしかして、ドレスの中を見ていたから回避行動を取らなかったの? それなら話が変わってくるなぁ」


「意外と気合いが入ってなくて驚いた」


「いやらしいなぁー、ちくしょう。いつもそういうことを考えるんだから」


「まぁ、男なんてそんなもんだよ」


 立場は大きく異なってしまったけど、こんな軽口を叩ける仲でいられるなら、それも悪くないかもしれない。

 僕の気持ちはずっと揺らぎっぱなしだ。


「悪いね、送ってもらっちゃって」


「最近、お見送りサービスを始めたんですよー。気合いが入っていないか、確かめてもらわないと目覚めが悪いじゃん?」


 あぁ、なんて場違いなエロティック発言なんだろう。

 こうして僕はまた内なる獅子を目覚めさせることになった。

 

 僕が翌日の訓練に遅刻したことは言うまでもない。

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