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言ってなかったけど、俺の元カノ魔王なんだよね  作者: 桜枕
円満に、解決できそ?

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第21話 元カノと勇者パーティー

 結局、その日は夜までダラダラしてしまった。

 それぞれの目的や目標があるのに、豪遊して貴重な一日を寝て過ごすなんてどれだけ意識が低い集団なんだよ。


 そんな文句を言っても時間は戻らないし、腹の虫は鳴く。

 僕たち4人は宿屋を出て、安い小料理へと入った。

 あの高級宿屋にもう一泊はできないから今日は野宿だとイリスが肩を落としていた。


「昨日はみっともない姿を見せてしまったからここは俺が出すよ」


 レイヴはアイテムボックスから一枚の金貨を取り出して遠慮がちに笑った。

 今更だけど、勇者の証を失っても勇者の固有スキル【アイテムボックス】は健在のようだ。


 それぞれが胃に入りそうなものを個別で注文する。

 イリスは野菜スープだけを頼んでいた。


「頭がガンガンします」


「だろうな。オレ様よりも速いペースで飲んでたもんな」


「すごい乱れっぷりだったからね」


「あう。記憶があるのが余計に辛いです」


 あれだけ酔っ払って記憶がぶっ飛んでいない方が驚きだよ。


「それにしてもすごかったなぁ」


 しみじみ昨日の光景を思い出していると、店の扉が開き「いらっしゃいませ」という活気のある店員さんの声が聞こえた。

 僕たちの他にもお客さんが入っていて、ほどなくして満席になりそうだった。


「何がすごかったの?」


 まとわりつくような、ねっとりとした甘い声が頭上から降り注ぎ、絹のように白い腕が僕の肩と首に回された。


「んにむかそあやはむれっ!!??」


 あはははっ、と愉快そうに笑う女性は隣の席から椅子を持ち出し、お誕生日席を勝手に作って座った。


「久しぶりだね、ユウくん。まさかこんな場所で会うなんて思ってなかったよ」


「な、な、な、なんで、ここにっ!?」


 突然現れたリタと狼狽する僕を交互に見つめる3人の目が点になっている。

 僕だって、目ん玉を飛び出させて現実から目を背けたい気分だ。


「はじめまして。ユウくんの元彼女のリタリエッタです。よろしくお願いしまーす」


 持ち前の明るさと人懐っこさを全開にして、テーブルから身を乗り出して握手を求めるリタにペースを乱されたレイヴたちはされるがままになっていた。


 呆然と自己紹介を終えた頃に料理が届き、僕の前にはワイバーンの唐揚げ定食が置かれた。


「また、唐揚げ? 好きだねー。一口ちょうだい」


 どうぞ、とトレイごとスライドさせたが、押し戻されてしまった。


 ならば、と唐揚げが乗ったお皿だけを手渡ししたが、それも受け取り拒否されてしまう。

 お手上げ状態の僕が箸を持った時、彼女は口を開けて口元を指さした。


「は?」


「たべはせてほひーの」


 いやいや、おかしいでしょ。リタさん。

 あなた、僕の元カノって言いながら登場しましたよね?


 元恋人同士は人前で「あーん」しないんですよ。それはただならぬ関係だからこそできるんですよ。


 ほらほら、レイヴとゴーシュが引いているじゃないか。

 イリスに至っては軽蔑の眼差しだよ。


 それでも僕はリタの挑発的な視線と、ぴょこぴょこ動く舌の誘惑には勝てないわけで。

 観念して半分に割った唐揚げを「あーん」することにした。


「んー、おいしっ。熱々だから、冷まして食べさせてくれるなんて、ユウくんは優しいなー」


 どことなく棒読みにも聞こえるけど、多分レイヴたちの耳には届いていないだろう。目の前でこんなことをされたら、僕だって開いた口が塞がらないよ。


「あ、そうそう。これ、知ってる?」


 取り出されたのは真っ白で上等な質感の封筒だった。


 受け取って表裏を確認する。

 それは紛れもなく結婚式の招待状だった。


「結婚するの?」


「私が? 違う、違う。ミネコルだよー」


「ミネコル!? あの間抜けが!?」


 ケラケラと腹を抱えて笑うリタ。

 レイヴたちを置き去りに話をするのは申し訳ないけれど、これは一大事だ。


 だって、あのミネコルだよ?

 まともな恋愛ができるなんて誰が思うだろうか。いや、思わないよ。


「ちくしょー。あいつの伴侶をひと目見たい気持ちはあるけど、今はダメなんだ。土産話を楽しみにしているよ」


 リタは僕が魔王討伐の旅の途中だということを知っているのに、なんでこんな意地悪をするんだ。

 そんなに僕の悔しむ顔が見たいのか?


「そっか、残念。偶然、級友に会えたから一緒に行けるかなって思ったんだけど。残念だなー」


 これは僕に向けたセリフじゃないことは一瞬で分かった。

 きっと、ゴーシュかレイヴへの精神攻撃だ。


「行ってこいよ、ユーキッド。二日酔いで今日を潰したんだから、もう一日くらい平気だろ。なぁ?」


「もちろん。友の晴れ舞台だ。行ってこい。イリスもそれでいいかな?」


「……えぇ、まぁ」


 餌を欲しがる小動物のような目つきだったリタは一変して笑顔を咲かせた。


「当日は現地集合ね!」と手を振りながらスキップする勢いで退店したリタ。嵐のように去って行く彼女を見つめる僕たちは顔を見合わせた。


「気を遣わせてごめん」


「ユーキは快活な子が好みなんだな。俺とは分かり合えなさそうだ」


 そりゃあね。お淑やかなファーリー王女が人前で「あーん」をし始めたら、全国民が発狂するだろう。


「でも違和感はねぇぞ。ずっと手を引っ張ってもらってそうだよな」


 まったくその通りなんだけど、ゴーシュに言われると馬鹿にされているようで癪に障る。

 

「不潔です」


 案の定、イリスからは軽蔑されてしまった。

 それから夕食などそっちのけで大質問大会が始まったのは言うまでもない。


 一人取り残された僕にできることは、唐揚げ定食を黙々と食べながら曖昧な返事をすることだけだ。

 これでも精一杯、質問に答えた方だと自分を褒めよう。


 リタとの関係をもっと健全に言い表せる言葉が存在するのなら、是非とも欲しい。

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