Chapter 10 エルフ族頭領クロッカス
「ぷはっ」
土の中から顔を出す。まるで竜巻が滞在し続けたかのように木々はなぎ倒され、スピナーを中心に開けた空間が広がっていた。地図上でもぽっかり穴が空いているだろう。先ほどまで360度覆われていたはるか向こうの存在になり果てた。
「こりゃハデにぶっ飛ばしたなー」
「警告はした。話を聞かないがあいつ等が悪い」
地面から這い出て、早々に辺りを見渡すアルマ。なぎ倒された木々が無数に散らかる殺風景。根元から折れた樹木。その上に力なく伏せるエルフが視界に止まった。
木々を踏み越えて、その者に近づくアルマ。枯れ葉を散らす音。木の幹に足を置き、ボロボロの樹皮にヒビを入れる音。それらはそのエルフの意識を微かに呼び戻した。
激しい痛みの中、かろうじて目を開くエルフの眼前に立つアルマ。懐から例のお守りを取り出し、そのエルフの手に握らせた。
「あなた方の領地に無断で立ち入ったことを謝罪します。すぐにでも僕たちはここを去ります。僕たちに代わって、そのお守りを持ち主に渡してほしいです。特徴は、オレンジ色のツインテール、赤と緑の瞳、あとは……」
「わざわざ矢を使っている女だ。すぐに見つかるだろ」
後ろから補足するスピナー。実物の矢を使わない種族なら、容姿の情報より『矢を使う』というイレギュラーな事実の方が分かりやすいか。
渡したお守りを握りしめたまま、何も反応も見せない。
やれることはやった。これ以上長居する理由もないし、彼らにも悪い。早々に立ち去ることにしたアルマ達。アルマ達。 その去り際に、ようやくエルフは口を開いた――
「……謝る必要も帰る必要もない。お前達は……ここで終わりだ!」
アルマ達の上に落ちる黒い影。雲などではない。二振りの大きく湾曲した剣を構えた大男――
「双幹の剣戟!!」
交差する双剣が十字を描き、魔力の刃が放たれる。全員間一髪で回避するも、衝撃的な光景に目を丸くせざるを得なかった。飛ぶ斬撃とも呼べる朱き閃光は、へし折れた木々を遥か彼方に吹き飛ばし、大地に底が見えない程の溝を刻み込んだのだ。
「バケモンが来やがった……!」
大男は溝の縁に豪快に着地し、咆哮する。
「我が名はエルフ族頭領クロッカス! シマ荒らしてウチのモンに手ェ出したツケ、ここで払ってもらうぜ。覚悟はできとるんやろなァ……人間共ッ!!」
双剣を携え、大地を振動させる。戸惑う間もなく、振り下ろされる凶刃。その最初の狙いはアルマだった。
庇いに入るライム。盾に当たった双刃は火花を散らす。押し付ける双剣を想像だにしない腕力で振り抜き、重装に身を包んだライムを軽々吹き飛ばした。
果敢に切り込むディーア。一振りの刃に軽く防がれ、もう一振りの刃が叩きつけられる。紙一重で避け、大きく下がるディーア。追撃するクロッカスが構えたのは『弓』であった――
湾曲した双剣の柄の先を繋ぎ合わせ、弓の柄に。刃の両端を結ぶ魔力を走らせ、弓の弦に。
魔力の弦を引き、魔法矢を放つ。その威力に、ディーアは大地を転がるように吹き飛ばされた。
呆気に取られる暇はない。クロッカスはすぐさま二振りの剣へと得物を変え、スピナーを狙う。
「雷閃!」
指先から放つ雷撃のビームを目にも留まらぬ速さで回避し、瞬く間に眼前にまで迫るクロッカス。
立ち尽くすスピナー。そこにアルマの体当たり。
「危ない!」
間一髪でスピナーを助けた――、そう思っていた。
狼狽えるスピナー。抑える右眼。その手から零れる紅い雫。しかし、スピナーの視界は紅く染まっていない。視界の右半分が真っ黒に染まっていた。
激痛の中、放つ魔法。爆風に紛れて距離を取る。苦し紛れの攻撃など効くはずがないとばかりに、煙の隙間から不敵な笑みを覗かせる。
「大丈夫……!?」
「……右眼やられた。全然見えねェ」




