Chapter 9 戦闘民族
退路である後方へ切り込むアルマ。それを邪魔するように、鼻先を矢が掠める。
「雷閃」
矢の発射地点に撃ち込むスピナー。木々の奥で発火が見えたが、一瞬で消え去った。
「手応えなし、か。消火の対応も早い。簡単には片付かなさそうだ」
アルマに視線を向ける。目に映り込んだのは、ナイフを手にアルマに襲いかかる男の姿――
「アルマ! 前!」
声に反応して剣を構え、間一髪で刃を受け止める。
秋の森に溶け込める服装。そして、長く尖った耳。
「エルフ族……。姿を現してくれたね。さっきも言った通り、戦いに来たんじゃないんだ。今からでも武器を収めてくれると助かるんだけど……」
「黙れ。侵入者と交わすものなど、刃以外持ち合わせていない。死ね」
懐から顔を覗かせる2本目のナイフに手を掛ける。
話を聞かず、攻撃の手を止めないエルフに、落胆の色を見せるアルマ。その手の指輪は光り輝いていた――
「悪いけど、こっちには死ねない事情があるんだ。 ”ブリザード”!」
つばぜり合う刃を通して、ナイフ、そしてエルフの指先が凍ってゆく。
「チッ!」
すぐさま飛び跳ねるように森の中へと姿を消す。
追撃をかけるアルマの鼻先を魔法矢が横切る。ディーアも進路を妨害するような矢の軌道のせいで切り込めない。
4人は背中合わせで度々飛んでくる矢を防ぎ落とすことしかできなかった。
「僕達をこの場所に釘付けにするような矢の撃ち方をしてくる……。会話も撤退も認めず、確実に殺す事が目的みたいだ」
「だが、ここに居続けて殺される義理はない。強引にでも突破するぞ」
了承の頷きを送る。その瞬間、無数の風を切る音が鳴り響き、4人にまだらな影が落ちた。天を見上げると、何十もの矢が豪雨の如く降り注いで来ていた。
「魔法盾!」
ライムが得意とする防御魔法。ドーム状に展開する半透明の魔法壁は、矢の雨を傘のように全て通さず弾き切った。
守りきったその魔法盾には、はっきりとしたヒビが幾つも走っていた。魔法盾は使い手の技量や魔力に応じた強度があり、ライムのそれが限界なのは明白だった。
「許容量ギリギリかぁ……」
壊れかけのシールドに放たれた紅蓮の一矢。いとも簡単にシールドを貫いた矢に辛うじて気づくディーア。その凶矢は回避行動を取るディーアの腕を掠めた。
「あっっっぶなっ!! ……ゑ?」
服を抉って皮膚に描かれた一筋の切創。突如、その傷口から発火した――
「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!」
猛火に辺りをのたうち回るディーア。すかさずスピナーが”ウォーター”で作った水塊を叩きつけた。
ずぶ濡れで感謝を述べるディーアの発火した傷口をじっと見ながら呟いた――
「”ファイア”の魔法を矢に変えたのか……!?」
魔力から矢を形作り、発射する。ならば、魔力を用いて顕現された魔法を矢として射ることが可能でもおかしくはない。弓が持つ強烈な指向性と魔法の破壊力を重ねて考えた時、スピナーの背筋にゾッとするような感覚が走った――
その刹那、ライムが貼っていたヒビだらけの魔法盾が『爆破』によって破壊される。
続いて、ディーアが新たな爆破に飲み込まれる。飛んできた矢を斬った瞬間であった。
「まさかと思うけど……」
「ああ、”デトネイト”を矢にして飛ばしてきやがっている……!」
矢を斬り落とす手を止め、身体をずらして避けるアルマ。矢は地面に着弾し、爆発の熱波をアルマ達に浴びせた。
「これ、突破どころじゃないよ!」
徐々に激しくなっていく戦火の中、スピナーが口を開いた――
「おい、阿呆剣士。俺が合図したら全員連れて地面の中に潜れ」
「オーケー。任せろ、石頭」
二つ返事で応えるディーア。
「何する気?」
「さすがにもう付き合ってられないからな。さっき言った通り、どんな手を使っても強引に突破するんだ、よッ!」
両手で薙ぎ払うようにして風の魔法を放つ。突風が木々の間を駆け抜け、落ち葉が舞い上がる。
右手に炎の魔法。左手に氷の魔法。2つが溶け合い、神々しく禍々しく光り輝く。
「よく聞け、エルフ! これが最終通告だ! 武器を収めて、こっちの話を聞け!」
訪れるつかの間の静寂。舞い上がった葉が落ち切るその瞬間、1本の矢が頬をかすめた――
「……後悔するなよ」
踵でディーアの脛を軽くどつく。
両の手から漏れ出す光が辺り一帯を包み込む――
「炎氷膨撃!!」




