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Chapter 5  うさ耳魔族リベラ

「陛下、本日の昼食をお持ちしました」


 パン、スープ、ステーキ、サラダ。王を名乗るものが食すものとしては簡素なものの、素材や味付け、皿など細部にこだわりが見られる食事がそこに並べられる。

 食事に手を付けず、頬杖をつくネーヴ。皿を並べているときからずっと、その視線はクロニスに向けられていた。


「あの……、何か俺にご用件ですか?」

「いや……。オマエ、老けたなッて」

「初めてお会いしてから800年ほど経ちますから、老けもします。そうおっしゃる陛下は全くお変わりありませんね」

「身体の作りが違ェんだ、オレらはな」

「存じ上げています」


 フォークを手に取り、食事を始めようとしたその時――


「もしもしもしもし! 聞こえているっスか?」


 部屋に響く弾むような明るい声。天井に浮かぶ魔含球が光り、うさ耳の少女が映し出される。


「陛下は食事中にあられる。出直すがよ――」

「待て。会議後に来るようオレが呼んだ」


 ネーヴは手に取ったフォークを置き、映し出された少女の姿を見上げた。


「計画書は目ェ通した。存外悪くねェ。何よりターゲットが魅力的だ。良く見つけてきたモンだ、リベラ。……気づかれてねェだろうな?」

「大丈夫っス! もし気づかれているなら、アタシはもう死んでいるっス」


 リベラの自虐的なボケにネーヴは高らかに笑う。


「ギヒャヒャヒャヒャ! 確かにそうだァ。アイツ等の警戒心と戦闘力は厄介の一言。昔は潰そうとしたことがあったが、探索隊の死体すら戻って来ねェ始末だった。住処を転々と変えるクソ面倒くせェ習性と、あくまで自衛のみにとどまってくる危険度の低さから、ここ数百年は完全に放置していた」

「その水回りの掃除より遥かに面倒くさい種族の血祭りが、今回ご提案する計画っス! ですので、計画書に記載した通りの人手を出してほしいっス!」


 精一杯の懇願を前に、目をつむり考え込むネーヴ。しばらく経った後、ゆっくりと見開いた。

 

「さっきの会議で言った通り、兵は貸せねェ。……と言いてェ所だが、貸してやろうじゃねェか。今まで一回も攻めてこねェ事は中立の証明じゃねェ。デケェ戦争を起こす前に、動きの読めねェ不穏分子は消すに限る」


 認可されたことに跳ね回るように喜ぶリベラ。しかし、次の一言でリベラの笑顔は失われてしまった。


「だが、計画書通りの人数は出せねェ。魔王軍の頭数が今結構カツカツでな、この人数消耗されると困ンだよ」


 一転して表情を曇らせるリベラを前に、魔王ネーヴは怪しくほくそ笑む――


「数より質。テメェに貸すのは3人だ」

「た、たった3人っスか!? さすがにそれじゃ何もできないっス!」


 人差し指と中指をゆっくりと立てるネーヴ。慌てふためくリベラに見せつける。


「まず、『アンデットキメラ』の試作機が2つ」

「『アンデットキメラ』? あー……、魔王様とルーシャ様が夜な夜なこっそり作ってたという愛の結晶のことっスか?」

「オイ言い方。数十年間、暇つぶしに開発してた『アンデットキメラ』がようやくまともに動くようになった。テメェにソイツの指揮権をくれてやる。計算上、2機でテメェの要求する戦力を担えるはずだ」


 うさ耳を揺らしながら、ふむふむと頷くリベラ。その直後、首を大きくかしげた。


「『アンデットキメラ』2人で足りるなら、3人目要らなくないっスか? 予備っスか? 誰っスか?」

「『鉄人』だ」


 目をぱちくりさせるリベラ。数秒後、その言葉の意味を理解した――


「『鉄人』……って! そこにいるクロニス様のことじゃないっスか!?!?」


 魔王ネーヴの専属料理人にして、四護が一人、『鉄人』クロニス。まだ若い魔族であるリベラからすれば、生ける伝説のような存在であった。


「バックアップとして、俺にリベラの下につけ、と。そうおっしゃるのですね?」

「不満か?」

「いえ。陛下のめいならば、いのち尽きるまで従うまでです」


 


 左腕を掲げ、指を鳴らす構えを取るネーヴ。まだ呆気に取られているリベラに向かって、締めの言葉を投げつける。


「後日、クロニスにアンデットキメラ2機持たせて、そっちに送る。後はテメェでどうにかしろ。任務完了以外の報告は要らねェ。以上だ、腹減ったから通信を切るぞ」

「ちょっ……! まだ事態を全然飲み込めて――」

「楽しんでこい、エルフ狩りをなァ!」


 パチンッ!



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