Chapter 3 また刃を交える日まで
「炎連打」
剣を振り回し、連続で火球を放つアルマ。レイズは素早くジグザグに避けて、アルマへと迫る。
今戦っているこの地面は、張っていた氷が溶けてぬかるんでいる。レイズの曲折の動き。一瞬、ぬかるみに足を取られたのをアルマは見逃さなかった。
「”メガファイア”!」
高速で飛翔する大火球。それを前にレイズは地面に掌をかざす。
カチコチカチコチ――
”メガファイア”の下を通過し、アルマの目の前まで地面が凍結してゆく。創り出した氷の床に低い姿勢で勢いよく滑り込むレイズ。”メガファイア”の熱に当てられ、表面が濡れた凍結面は凄まじい速度を生み出す――
「しまっ……!」
一瞬にして、飛翔する火球の下を潜り抜けるレイズ。そのままの超速度でアルマへ距離を詰める。
剣を握り直し、地面に思いっきり突き刺す。
「”デトネイト”!」
巻き起こる爆発にアルマの姿が飲み込まれる。
その刹那、驚いた表情を見せたレイズ。手にした斧で薙ぎ払い、爆煙を切り裂く。一瞬にして消し飛ぶ煙。晴れた視界にアルマの姿はなかった。
「消えた!?」
自由落下。全身で大気圧と冷たさを感じる。起こした爆発に乗って、アルマははるか上空に飛び上がっていた。
――グリムフォード。今までの魔王軍との戦いは『勝たなくてはならない』戦いだった。 今の、この、レイズとの戦いはただの手合わせ。トレーニング。でも、目の前の自分より優れる戦士相手に『勝ちたい』――
「”サンダー”」
水平に構えた剣身を鍔から刃先までゆっくりなぞり、剣身に雷光を纏わせる。
身体を真っすぐ伸ばし、垂直落下を続けるアルマ。纏わせた雷光が空を走る稲光のような軌道を描く。
「レイズーッ!」
真上を向くレイズ。上空から急速に迫るアルマを視界にとらえ、斧を深く構える――
轟く衝突音。落下の速度を乗せた雷剣と迎え撃つ戦斧。凄まじい衝撃を生み出し、ぶつかり合う。
一歩も引かずに競り合う二人。あまりのエネルギーにお互い大きく吹き飛ばされた。着地するアルマと、崩れた姿勢を起こすレイズ。二度目の衝突の瞬間――
バサッ バサッ
アルマの目の前に降りてくる動物。馬車を牽くタマと同じくらいのサイズ。黒く丈夫な鱗に覆われ、翼を持ち、強靭な顎を備えている。そう、おそらく竜と呼ばれる生き物。
それは着地すると、レイズを守るように威嚇してきた。
「ド、ドラゴン……!?」
「トワ!? どうしてここに……!?」
その竜に駆け寄るレイズ。トワと呼ばれる竜は甘えた声でレイズに頭を摺り寄せた。
「驚かせてすまない。こいつはトワ。俺の相棒だ」
トワの頭をなでるレイズ。その時、トワの首輪に何か挟まっているのに気づいた。手に取ってみるレイズ。それは小さく折りたたまれた手紙だった。
「……この字は師匠か。…………帰還命令!?」
手紙の内容に目を丸くする。
「師匠の命令ということは、父上の命令か。なら、早急に戻る必要があるな」
手紙を懐にしまい、斧を収めると、トワの背にまたがった。
「すまない、アルマ。急用につき、手合わせはここまでだ。感謝する」
上昇していくレイズを見上げながら、唖然としながらも、剣を収めるアルマ。
「こっちもいい訓練になったよ。ありがとう」
天高く舞うトワ。レイズの指示で宙に静止した。
戦斧を掲げるレイズ。そして、ゆっくりとアルマへとその刃先を向けてゆく――
「アルマ! 次に出会うことがあったら、この決着をつけよう」
それだけ言い残すと、レイズ達はものすごい速度で北の空へと飛び去ってしまった。
一人広い大地に残されたアルマ。ただ、呆然と立ち尽くしていた。
「行っちゃった。何だかよく分からなかったけど……。強かったな、レイズ」
白髪の戦斧使いレイズ。敵か味方かも分からない。分かるのはその高い実力のみ。もし魔王軍だったら、避けたい相手だ。
――でも、こう思えてしまう。
またいつか、どこかで出会える気がする。
「ヘクチッ。……寒いから帰ろ」




