chapter 2 邂逅
次の日の早朝、アルマは潮風を浴びながら海沿いをランニングしていた。
「ちょっと寒いな……」
肌感の気温は日本の秋に近い。それも早朝。肌寒く感じるのは必然であった。
走り続けても体が温まって行かない。それどころか時間が経つにつれ体感温度が徐々に下がっていく。吐く息が白く色づきだした頃、その視界には、白銀の世界が広がっていた。
大地には薄氷が張り、草木には霜が降りる。白く染まる世界の中心に、何者かが佇んでいた。透き通るように綺麗な肌。混じりけ一つない純白の髪。右手に銀の片手斧を持つ青年だ。青年は戦うような構えで静止し、その瞳を瞑り続けている。瞑想と呼ばれるものだろうか。
「誰……? この冷気はあの人が……?」
疑問のまなざしを送り続けるアルマに、その青年は気付いた。
「この辺りに住む者か……。ただ者ではないな」
何かを感じ取った青年。構えていた斧を下ろし、アルマに語りかけた。
「俺の名はレイズ。日々研鑽を重ねる一介の戦士だ。アンタを手練れと見込んで、1つ模擬戦をお願いしたい」
――急すぎないか? 目が合ったらバトルってどこぞの携帯獣の世界じゃん。
しかし、悪い話ではない。今やっているランニングは強くなるためのものだ。限りなく実戦に近い特訓なら、さらに強くなれるだろう。
問題は、この男が信用できるか、ということだ。生真面目な青年を装った、魔王軍の奇襲とも考えられる。断って帰ろうとした瞬間、背中を襲われる可能性だってある。
この辺りには林のような人が隠れられる場所がなく、だだっ広い平野しかない。つまり、他の魔王軍が潜むことはできないはず。
こちらには(寝ているけど)仲間がいることをチラつかせれば、大胆なことはしてこないだろう。
アルマの考えはまとまった。
「分かった。ただし、大怪我になるような攻撃はなしだ。万一のことがあったら、近くにいる僕の仲間達に心配をかけてしまう」
「承知した。恩に着る」
――二つ返事で同意。考えすぎだっただろうか。
一抹の不安を抱えながら、アルマは剣を抜いた――
薄氷の大地。冷え切った潮風が駆け抜ける銀世界の中心に、戦士が二人。剣と斧。互いの得物を構える。
湾岸にぶつかる波の音。二人の戦いの火ぶたが切られた――
氷を踏み砕き、風を斬り裂き、一直線にアルマに迫るレイズ。叩きつける戦斧を受け止めるアルマ。戦斧特有の重い一撃にガードの上から吹き飛ばされる。
「速くて……重い!」
素早く体勢を立て直すアルマに、嵐のような連撃が襲い掛かる。ギリギリで受け流し、大きく距離を取る。連撃のうちの一振り。その斧は大地に深く刺さった――
一転攻勢。僅かなスキに切り込むアルマ。薙ぎ払う剣を身体をそらして避けるレイズ。流れるようにアルマの脇腹に蹴りを叩き込む。
地面を横転するアルマ。地面に刺さった斧を引き抜き、レイズは追撃をかける。
「”ファイア”!」
転がりながら、火球を投げつけるアルマ。足を止めるレイズ。斧の平でその火球をガードする。巻き起こる煙。薄い黒煙の隙間から、レイズの姿が見え隠れする。
斧の重心を軸に高速で回し、煙を吹き飛ばすレイズ。そのまま斧を回転させ続ける――
「魔法での勝負、乗った!」
斧の回転が速くなるにつれ、辺りは凍てつき、レイズの周りに何羽もの氷の鳥が現れていく――
「氷創造・群破氷鳥」
乱れて宙を舞い、氷鳥がアルマに突撃する。
「”グランド”」
剣を振り上げるアルマ。地面が隆起し、氷鳥を防ぐ。ぶつかった鳥は氷柱へと姿を変え、盾にした大地は氷の剣と化する。
一太刀でせり上げた地面を地上から切り離し、空に浮かせるアルマ。剣先をレイズへと向け、その土と氷の塊を発射する。一直線に飛翔する土塊。一刀両断するレイズ。
互いに剣と斧を構え、振り下ろす――
「”メガファイア”!」
「”メガブリザード”!」
剣先から放たれ、レイズへと向かう大きな火球。叩きつけた斧を起点に次々現れ、アルマへと迫る氷晶。
炎と氷。二つの魔力の衝突。あたりが白煙に包まれる。連なる氷晶を火球がすべて貫き、レイズの眼前へと迫る。
咄嗟に斧でガードするレイズ。その威力に大きく吹き飛ばされる。
辺りを駆け抜ける潮風。戦塵を払い、仕切り直しを告げる。互いに武器を構えなおし、向かい合う――
「接近戦はあっちが上……」
神妙な面持ちで呼吸を整えるアルマ。
「魔法は向こうが上か……」
どこか嬉しそうな表情でアルマを見つめるレイズ。
朝日が高くなり、大地を覆う氷は溶けだしていた。氷晶の一つが折れ、床に転がる微かな音。それが2ラウンド目の開始の合図だ――




