Chapter 1 旅のとある夕方
オックスの町でエルさんやアネモネ達と別れてから3日。虎車に乗ったアルマ達は野を駆け、森を抜け、海沿いを進んでいた。目的地は海沿いにある町、港町ヒリアム。そこから、アリウィンとファーローズの国境となっていた川にかかっている橋を渡って魔法国アリウィンに向かう予定である。
日が沈みはじめた頃、アルマたちは虎車を停止させた。野営のためである。しかし、虎車を止めた直後は、スピナーが車酔いで使い物にならない。そこで復活するまで、アルマとディーアは模擬戦という形で特訓をすることになった。
茜色の空の下、剣のぶつかる音が鳴り響く――
「中々良くなってきたんじゃねーの!」
数度ぶつかり合い、お互い距離をとる。
「”ブリザード”!」
剣先からいくつもの氷塊を飛ばすアルマ。それを愛剣「威天」で1つ1つ全て切り裂くディーア。
「青紅」を身体に対し、水平に構え、剣身を鍔から刃先までゆっくりなぞってゆく――
「”サンダー”」
剣身に雷光を纏わせる。ソラスとの戦いで身に付けた魔法剣。それがアルマの主力技となっていた。
「おもしれぇ、来い!」
雷のように真っすぐで速い剣撃を叩き込むアルマ。それを受け止めるディーア。拮抗する実力。激しい斬り合いが続いた。
岩場に腰かけて、二人の試合を眺めるガーネット、ライム、プラムの三人。スピナーもこの三人の横で寝ている。
「アルマ、結構強くなった? あ、ブリンナ食べる?」
「一口いただきますわ。ディーアは魔法禁止。アルマは初級魔法のみアリだとかなりいい勝負になりますわね」
プラムが不思議そうに首をかしげていた。
「なんかディーア、変?」
「変? どの辺がですの?」
更に首をかしげるプラム。どう言葉にするかを悩んでいるようだった。
「うーん……、正面から当たりすぎ?」
「……それいつも通りじゃない?」
「ディーアって相手の隙を突くのが上手。でも今は、避ければ隙を突けるような攻撃もわざわざ受けてる。最初の”ブリザード”、ディーアなら避けて、アルマの懐に飛び込めるはず」
ガーネットとライムも首をかしげた。
「ただ力のぶつけ合いがしたいだけにも見えますわ……」
「同じく」
斬り合いの最中、アルマがディーアに渾身の一振りを叩き込む。そのパワーに大きく弾き飛ばされるディーア。アルマが追撃の”ファイア”を放つ――
「やばっ!」
不安定な姿勢のまま、無理やり剣で弾く。しかし、ディーアには弾く方向を考える余裕はなかった。その火球は――
寝ていた男に直撃した。
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
黒煙が立ち込める。大量の冷や汗を出しながら回れ右して、この場から離れようとするディーア。空振りの一歩目。足元の地面が一瞬にして無くなったのだ。吸い込まれるように落ちるディーア。首から上は地上に出せる深さ。安心したのもつかの間、その落とし穴の口が閉じ、ディーアの胴体は完全に地面に埋まってしまった。既視感がある。ハイド村の広場で埋まっていた時と同じである。
「そこで待ってろ……。その顔面蹴り飛ばしてやる……!」
晴れる黒煙。魔王も裸足で逃げ出す程の殺気を放つスピナーが姿を現す。
――これはヤバい。ディーアの頭と胴がお別れしかねない。流れで自分も塵にされる可能性が充分ある。アンガーマネジメントだと、突発的な怒りは6秒ぐらいしか続かないらしい。別の話題で気をそらさないと……!
「あ、あのさ! ま、前から聞きたかったことがあるんだけど……」
「……なんだ?」
「な、なんでスピナーって魔法を素手で使っているの?」
洞窟でカトレアから言われた言葉。魔法は杖などの武器を介して使うもの。実際、剣を介して使うと安定したのだ。
しばし動きが止まるスピナー。鬼の形相が落ち着くと、スピナーは一息ついた。
「ガーネット」
「はいですわ」
ガーネットは自分の杖を投げ渡した。杖を構えるスピナー。もっともらしい扱いで杖の先を埋まっているディーアへと向けた――
「”ファイア”」
杖先から火球が放たれる。その着弾点地点は、ディーアの頭から大きく離れていた。
「簡単な話、武器を使うと当たらないからだ。ガキの頃からそうだ。どうも俺は武器が使えないらしい」
――シンプル過ぎる理由だけど、理解はした。素手で魔法を当てるのは難しいはずなんだけど、子供の時から素手より武器の方があたらなかったってことだよね。一種の不器用、武器オンチってところだろうか。
「満足か?」
「満足じゃねーよ! オマエ、オレのことマトにしやがったよな!?」
怒り狂うディーア。それを見て、スピナーが杖をガーネットへと投げて返し、指先から小さな”ファイア”を放つ。一直線に飛んでいき、ディーアの髪に引火した。
「アチャチャチャチャチャ!!」
「今日はこれで勘弁してやる」




