Chapter 29 アネモネの本音
一粒、また一粒。少女の瞳から零れ落ちる。
「……ファーローズが滅んだ10年前から、アリウィン王国は多忙を極めています。元ファーローズの領土全てを管理しなくてはならなくなったためです。特に国王夫妻、私の両親は特に激務です。公務以外で会話を交わしたのなんて、何年前でしょうか……」
震える両手でアルマの服を力強く握る。
「だから、私は早く一人前にならなきゃならないんです……! 早く両親を楽にして……、楽しかったあの時の生活を取り戻せるように……! 全てを押し殺して……! なのに……何で、何で、そんなこと……、いうんですか……」
ダムが崩壊したかのように、アルマの身体に顔をうずめて、ひたすら泣き出すアネモネ。洞窟に泣き声が響き渡る。
――人を頼れと言った手前だ。気が済むまで泣かせることにした。
ひとしきり泣いた後、嗚咽交じりにアネモネが自分の心の内を吐露する――
「……あの人のパンチは痛かったです。心が。これが民の私達に対する評価なのかと。民に安心してもらうために、今のままではいけない。もっと頑張らなきゃならない。そんな気持ちが先行していたのかもしれません」
涙をぬぐうアネモネ。その後、アルマの左手を掴み、自分の目の前に手繰り寄せ、その手に自分の片手用の小さなメイスをかざした。
「……お見苦しい所を見せたお詫びです。”ギガヒール”」
メイスから溢れだす優しい光がアルマの腕を包んだ。その傷はみるみる癒えていく。
「深いですね。魔王軍との戦いのときの傷でしょうか。そういえば、あなたの仲間にシスターがいましたが、彼女には治してもらえなかったのですか?」
「それはその、かくかくしかじかしかのこのこのここしたんたんという訳でして」
「それは……大変でしたね」
治療が終わり、メイスをしまうアネモネ。アルマは左手の包帯をほどいてみる。シトリーの指輪が数日振りに顔を出した。手のひらを確認するアルマ。クロニスに刺された跡は綺麗サッパリなくなっていた。ゆっくりと左手を握ったり開いたりしてみる。痛みもなく、傷は完全に治っていた。
「ありがとうございます」
「いえ、感謝するのはこちらです、アルマ。おかげで少し気持ちが軽くなりました。ですが、やはり私の前に飛び出たのは賛同できません。あの怪我では危険です。王族ではなく、1人の人間として注意させていただきます」
――確かにそうだ。
軽率な行動をとった事に対し、反省する態度をとるアルマ。それを見てアネモネがクスッと笑った。
「あなたも私と同じ、使命に捕らわれるタイプなのかもしれません。もし、この先、心が苦しい時があったら、次は私があなたを助けます」
その時――
「危ないっ!」
目の前にいるアルマを押しのけて、盾を構えるアネモネ。盾に勢いよく何かがぶつかった音が響く。
奇襲だ。攻撃が来た方向を向くアルマ。そこにいたのは――、
「ホッホッホッ。お取込み中の所、失礼。少々、老人の戯れに付き合っていただきますぞ」
鳥のような魔族。自分らを洞窟に転移させた、四護の1人、軍師ソラスだった。




