Chapter 27 スピナーVSルード Second
位置を悟らせぬよう、ジグザグに高速で動くルード。風を切る音が響く。スピナーの側面に回り、強烈な突きを放つ――
「遅ぇ」
スピナーへの一撃。それは刃を右手で素手のまま止められ、届くことはなかった。握ったレイピアの刃を手前に引っ張るスピナー。引き寄せたルードの顔面に突き蹴りを叩き込む。吹き飛ばされながら、”デトネイト”を放つルード。スピナーは爆発に包み込まれ、黒煙に覆われた。
蹴られた際に出た鼻血を拭った後、地面に勢いよくレイピアを刺す――
「森羅万象の限零を修めし、我が命ず。目覚めよ、炎獄。舞い上がれ、極寒。対極の――」
一瞬の煌めき。煙の中から放たれた光線が、ルードの左肩を貫いた。詠唱を止め、傷に手を当て回復魔法を使うルード。
徐々に晴れてゆく黒煙。
「その詠唱は炎と氷を合わせて大爆発を起こす魔法、炎氷膨撃。お前、この洞窟をぶっ壊して生き埋めになるつもりか?」
指先をルードに向けるスピナーがそこには立っていた。
「今の魔法は何だ……!? あんな速い魔法見たことがない」
「雷砲の改良中に見つけた。威力を落とした代わりに速射と貫通力に長けた雷砲。名前を付けるなら、雷閃って所か」
先ほどまでの戦意による興奮。それがルードから失われて、落ち着いた様子で口を開いた。
「魔法大全によらない無名の魔法。自身の魔力の高さを驕った無詠唱。そして、魔法に一切武器を介さない戦闘スタイル。まるで魔族だ。本当にキサマ、人間か?」
「自分が戦いやすい戦い方を求めた結果だ。自覚はある。そう言うお前も、先手を取る意識、環境を利用した詰め方や攻撃、興奮している割には冷静な思考。まるで教科書通りだな」
怪しくスピナーが笑う――
「だから、こういう手に引っかかる。”ウィンド”」
右手を大きく払う。巻き起こる突風。それはルードの顔を撫でるように通り過ぎ、付近にある松明の火を全て吹き消した。
一瞬にして暗黒に包まれる戦いの場。光一つないその空間ではいくら目を凝らしても、互いを認識することは不可能だった。
「どこだ!」
レイピアを手に取り、掲げるルード。
「”シャイン”!」
剣が力強く輝きだす。暗闇を払えると思っていたルードに襲い掛かったのは、腹部への強烈な衝撃だった。
「暗闇で露骨に明かりを付けたら、いい的になる。もっとも、教科書には『魔族が住む魔界は光届かぬ世界。故に暗闇では魔族が最も調子が良くなる。よって夜戦は非推奨』と書かれているから、そんな定石知らねぇよなッ!」
叩き込んだ拳を振り抜いて、ルードを吹き飛ばし、壁に叩きつけた。
衝撃で咳き込むルード。俯いた際に、殴られた箇所がオレンジに輝いているのに気づいた。
「何だこれは……?」
「グリムフォードの爆発する拳を俺なりに再現した。自分を爆破するのは身が持たない。なら、拳を介して”デトネイト”を相手に押し付ければいい」
「しまッ……!」
「魔羯闘法!」
漆黒の空間で朱色の爆発が派手に輝く。ルードが動いている気配はない。煙の匂いが薄れた頃、スピナーは指先に炎を灯し、ルードがいるはずの壁際へと進んでいく。
響く物音。そこに動ける状態でいるのは間違いなかった。スピナーは指先の炎をそこに向けた。
「……いや……見るなッ……!」
照らされるルード。身に付けていた鎧は完全に砕け、インナーは破け、女性らしい丸みを帯びた体つきが露わとなっていた。
「お前……、女か。……今更、お前の乙女チック仕草とかどこに需要あるんだよ……」
着ていたローブを脱ぎ、ルードへと放り投げるスピナー。くるりと向きを変え、中に着ていたオレンジ色の道着の姿で、教会のなれの果てから見つかった階段へと向かう。
「ま、まだ戦いは終わってないぞ!」
「そんな姿で戦う気か? それとも『左手』も使って、全身ひん剝けば降参するのか?」
そう、”ギガファイア”を撃つときも、レイピアを止めたときも、殴りつけたときも、常に右手だけで、左手は使っていなかったのだ。その実力差とその差に気づけない自分に、ルードの闘志は完全に消え去ってしまった。
「な、なら、なぜトドメを刺さない! オレはキサマを殺そうとしたんだぞ!」
「『殺そうとしてきた』なんて理由で殺してたら、俺はあの馬鹿剣士を100万回くらい殺さなきゃならん。俺が殺すのは魔王軍だけだ」
それだけ言い残して、ルードは階段を降りて行った。
「殺す気はないが、半殺しにするつもりで魔羯闘法を使った。だが、思ったよりダメージが薄かったな。まだ改良する必要があるな」




