Chapter 26 スピナーVSルード
紫電一閃。自身が立っている瓦礫を踏み砕き、ルードが斬りかかる。その凶刃をスピナーはローブのポケットに両手を入れたまま、身体を反らし避ける。流れるように、ルードがレイピアによる目に見えぬ速度の鋭い突きを連続で放つ。その速度を嘲笑うように最小限の動きだけでかわすスピナー。連撃の合間をぬって、腹部に回し蹴りを叩き込んだ。
左手の籠手でその蹴りを受け止めるルード。スピナーはお構いなしに力づくで脚を振り抜き、ルードを吹き飛ばした。
すかさず、ポケットから右手を引き抜き、黒紫のもやのような塊を手に纏う――
「”レイヴン”」
右手から放たれた闇の魔法がルード目掛けて飛翔する。迫る黒紫の物体を剣先で突き刺すルード。巻き起こる暗色の爆発。視界を塞ぐその爆煙を素早く斬り上げ、払い飛ばした。
「闇魔法”レイヴン”。ということはキサマ、回復魔法が使えないな? 残念だが、オレは使える。つまり……」
ルードの背後に無数の氷柱が顕現し、その鋭利な先端が全てスピナーに向けられる。
それを目の当たりにしたスピナー。人差し指をクイッと上に向け、「空駆」と一言。辺りに散らばる大量の瓦礫や破片を浮かばせる。
「先に力尽きるのはキサマの方だ! 氷連打!」
止めどなく発射される氷柱。スピナーは物量には物量と言わんばかりに、氷柱に瓦礫をぶつけ、相殺し続けた。氷柱は砕け、氷の粒に。瓦礫は粉砕し、粉状に。まき散らされる二種類の粒子は空気中を漂い、二人の間に不透明の分厚い煙壁を作り上げた。
煙壁の向こうから氷柱が飛んでこなくなり、瓦礫を下ろすスピナー。見失ったレイピア使いの従者の気配を探っていた。
煙壁の中から声が聞こえてくる――
「烈焔の巨弾を以て、無始無終の炎獄を見せよ――」
煙壁を突き破り、ルードが姿を表す。その剣先には真っ赤に燃ゆる巨大な火球――
「”ギガファイア”!」
わずか数mの距離からの一撃。避けるのは不可能。そうルードは確信していた。
「”ギガファイア”」
ノーモーションで大火球を放つスピナー。その焔は、ルードの炎弾を、いともたやすく貫通した。
「なっ!?」
呆気に取られるルード。腰を落とし、反射的に防御の姿勢をとった。
直撃。烈火がルードを包み込む。全身から魔法で冷気を吹き出し、燃える身体を冷ます。纏わりつく豪炎が収まると、直ぐに自身に回復魔法をかけた。
目の前でのうのうと回復するルードに迫るスピナー。治療中のルードに無慈悲な蹴りをねじ込んだ。一直線に吹き飛ぶルード。洞窟の岩壁に叩きつけられた。
回復する手を休めずに、何とか立ち上がるルード。凄い形相でスピナーを睨んだ。
「この強さ……。何者だ、キサマ……!?」
「……シトラス教と王族を恨み、魔王軍を滅ぼすことだけを考えてきた、ただの魔法好きの田舎者……て所だ」
「何がキサマを突き動かす……!? シトラス教と王族がキサマに一体、何をした!? 親でも殺したか!?」
「……たかがその程度でこんな怒れるかよ」
その顔はどこか悲しい雰囲気を漂わせていた。
「俺はシトラス教と王族に、故郷の村ごと滅ぼされた」
絶句するルード。スピナーはすかさず補足する。
「あくまで間接的な話。直接手を下したのは魔王軍だ。だがあの日、シトラス教のフザけた思考と王族の怠惰が無ければ、村の奴等は助かったはず」
スピナーの過去。それはシトラス教と王制度を盲信してきたルードにとって、あまりに強烈な内容だった。無意識のうちに込めていた魔力が霧散していた。
「回復の手が止まっているぞ。時間稼ぎの話のネタなら俺が提供してやる」
「な、ナメるな!」
すぐさま”ヒール”を続行するルード。
今度はスピナーがルードを凄い形相で問いただした。
「お前、その実力で『院証魔法使い』は嘘だろ」
院証魔法使い。魔法学を統括する魔法院が認めた魔法使いのこと。厳しい試験を突破し、多彩な魔法を身に付けた超一流の魔法使いの称号である。
この称号の否定はルードにとって屈辱以外の何物でもなかった。
「自分で言うのもあれだが、オレは院証魔法使いの中でも選りすぐりの実力者だ。その発言は院証魔法使い全員を敵に回すぞ」
「その話がガチなら、全員敵に回さざるを得ないな」
「なんだと!?」
「一応こんな俺でも、ガキの頃から院証魔法使いには憧れていた。お前ごときが上澄みなんて、ガッカリだ」
中指を立てるスピナー。
「言わせておけば……!」
「文句があるなら実力で示せ。回復も終わっただろ」
傷が治った身体で真っすぐレイピアを構える――
「すぐに終わらせてやる!」




