Chapter 25 険悪の果て
洞窟に転送されたスピナー。暗がりの中を歩いていると、盗賊を自称する集団と出会う。殺意むき出しで襲ってくる盗賊たちをスピナーは軽々と蹴散らしていた。ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、を繰り返すスピナーに盗賊たちは戦慄していた。
「コ、コイツ、強すぎる!」
弱音を洩らした男のみぞおちに拳をねじ込むスピナー。
「ビビるくらいなら襲ってくんな、このカス共!」
その男の胸倉を掴み、その身体を盗賊の集団に思い切り投げつける。
右手の上に橙色の光球を浮かべるスピナー。全力投球でその集団に叩き込む。
「”デトネイト”!」
洞窟が揺れる規模の爆発。爆煙が晴れる頃には、もう立っている賊はいなかった。
「チッ、馬車に乗せられたせいで気分悪くなるし、カス共には絡まれるし最悪だな」
不平不満を吐き散らすスピナー。その時――
感じ取った閃光の如き殺意。背後からの一突きがスピナーを襲う。素早く屈む。頭上を通り抜けるレイピア。スピナーは背後の刺客の顔に右の手のひらを突きつけた。
軽量化を施した鎧を纏ったツンツンヘアーの黒髪。奇襲の犯人はアネモネの臣下の1人、ルードだった。
「失礼。賊と勘違いした」
不敵に笑うルード。無表情を貫くスピナー。しばらく2人は黙って見つめ合った。
突如、スピナーが右手から”ファイア”を放つ。眼前から放たれた火球をルードは冷静に首を傾け、回避した。
「失礼。後ろに残党が見えたんで」
止め処無く溢れる険悪な空気。悠久にも思える沈黙の時間。それはスピナーの一言で破られた――
「は……? あいつ、首ないのに動いてやがる……」
ルードの後方を疑いの目で凝視するスピナー。ルードも背後を振り返る。
人肉が焼ける臭い。確かに首から上がない人型の何かがゆっくり近づいてくる。炎環のネックレスを身に着け、スピナーの炎で頭部を焼き払われたのは明らかだった。
「代わりにオレが仕留めてやろう。キサマは感謝で平伏する準備でもしているんだな!」
すぐさま、ルードが炎に包まれる不審者へと一直線に迫る。9の斬撃、6の刺突。目にも留まらぬ速度で放つ。トドメにレイピアを腹部に深く刺し、貫通させた。
得意顔のルード。しかし、それはすぐに崩れた。
トドメを刺したはずのそれが、貫かれたまま動き出した。気を引き締めるルード。レイピアを刺したまま――
「”ブリザード”」
腹部から徐々に氷に覆われる。数秒のうちにその人型の何かは氷の中へと閉じ込められた。
レイピアを引き抜くルード。スピナーにその圧倒的なドヤ顔をかます。スピナーは馬鹿にした表情で拍手した。
「おーすげーすげー。で、『残り』はどうするんだ?」
すぐさま確認するルード。先ほど凍結させた人型の何か。それによく似たものが次から次へと通路のわき道から現れていた。およそ20体近くはいる。さらに、先ほど凍結させたはずの人型の何かが氷にひびを入れ、再起しそうになっていた。
瞳を閉じて一息つくルード。そして、自身のレイピアを思い切り地面に差し込んだ――
「不遑枚挙の氷晶を以て、寒気凛冽の頂きを見せよ!」
床に薄氷が走る――
「”ギガブリザード”!」
無数の巨大な氷晶。それが地面から幾重にもなって顕現し、洞窟の通路を完全に塞ぐ壁となった。
白い息を吐くルード。レイピアを引き抜き、鞘に収めた。
「あれら全部と戦うのは骨が折れる、と判断した」
「……問題の先送りじゃねぇか」
「オレの判断に問題でもあるか? 黙って従え」
氷壁によって背後は塞がれ、行ける道は前方のみ。ルードは洞窟の奥へとスタスタ歩いていく。スピナーは先を行くルードの背中に中指を立てた後、仕方なく付いていった。
最奥部にはさほど時間はかからずに辿り着いた。結論から言うと行き止まりだった。道中は一本道。先に進むにはさっきの場所に戻り、ルードが貼った氷の壁を破壊して、例のバケモノ達を倒すしかなかった。
しかし、少し広くなっている最奥部で見た建築物に2人は気を取られ、その思考にたどり着いていなかった。
「なんで、こんな洞窟に教会なんかあるんだ?」
広い空洞の中心に建てられた木製の教会。ワーテルストフ修道院の物と比べれば、遥かに小さい物だが、十数人が中で祈るには十分な大きさだった。
「賊でも主を信仰する心があるのだろう。オレも祈ろうか」
ルードは両開き扉の片方だけを小さく開け、教会の中へと消えていった。
神妙な面持ちのスピナー。
「あれが中に入っても何も起きないってことは、罠ではないのか。……てことは……」
おもむろに右手を教会へと向けた――
「雷砲」
放たれる雷撃の光束。その教会を一瞬にして瓦礫の山へと変えた。……ルードが中にいたまま。
瓦礫の山を点々とジャンプして進むスピナー。とある瓦礫の前で停止する。
「隠すとしたら講壇か祭壇の辺りのはず……」
目の前の瓦礫を蹴り飛ばす。おがくずやほこりが舞う。瓦礫の下には、階段が隠されていた。
「ビンゴ」
ほくそ笑むスピナー。その心臓を瓦礫から突き出たレイピアが襲う。
軽々回避するスピナー。瓦礫の下から現れたのは烈火のごとく怒り狂ったルードだった。ルードは瓦礫の山の上から、下層への階段の前に立つスピナーを見下ろす。
「何のつもりだ!」
「エルさんが言っていただろ。ここの盗賊団共は魔王軍と繋がっているって。魔王軍が魔王打倒を掲げる宗教の建物を建てるわけないだろ、馬鹿が。この階段を隠すカモフラージュだったんだよ。少しは頭使え」
怒りで震える手でレイピアをスピナーへと向ける。
「キサマ、ハイド村ワーテルストフ修道院の出ではないのか! 教会を破壊してなんとも思わないのか!?」
「は? 何もねぇよ。この世の人間全員があれを信仰すると思うなよ。俺にとっては魔王軍のクソ共の次に消えて欲しい存在だわ」
「……そうか」
激昂とは打って変わって、冷静に答えるルード。しかし、その瞳に灯る怒りのほのおはさらに勢いを増していた。
「キサマの言動、あまりに目に余る物だ。これ以上、キサマをアネモネ様に近づけるわけにはいかない」
「……何が言いたい?」
「……ここならキサマが死んでも、賊か先ほどのバケモノに殺されたことにできるな」
「……やる気か?」
「アリウィン王国軍近衛兵団所属、第一王女の臣下にして院証魔法使い、ルード。国のため、主のため……、キサマの命、貰い受けるッ!」




