Chapter 24 武器と魔法
ただ一人、見知らぬ洞窟に放り込まれたアルマ。最初に出会った4人程の集団との接触で、自身が今いる場所が『エルさんが言っていた盗賊団同盟のアジト』だということを知った。盗賊団同盟ということは、複数の盗賊団がいて、その数だけ頭がいるということ。
アルマは出会った集団の1人、とある盗賊団の頭を名乗る屈強な男と、他の盗賊に囲まれながら、1対1の苛烈なつばぜり合いを繰り広げていた。
押し合う剣。金属同士の擦れる音。近づく顔と顔。盗賊のボスの口角が少し上がる。
「手を汚さずに生きてきたって顔だな」
――図星。人間相手に戦いにくさを確かに感じていた。
その動揺の隙に、頭突きをかまし、怯んだところに蹴りを叩き込む盗賊の頭。
「覇気が足りねぇなぁ、甘ちゃんよぉ! 立派な剣が泣いてるぜぇ!」
吹き飛ばされるアルマ。俯き、地面に剣を突き刺す。
接近してくるボス。立ち直す暇すら与える気はないらしい。
眼の前にいるのは悪い奴、正義の名の元に斬らなきゃならない。
――いや、違う。正義中毒。悪と決めつけた者を正義の名の元に断罪するのは、至高の愉悦と聞いたことがある。行き過ぎた正義は悪をも超える。
なら、正義で斬るな。感じるのはやってしまった後悔だけでいい。そして、全てを受け入れる。それが、僕の命を取る覚悟だ――
盗賊のボスが鼻先まで迫る。手入れのなっていないその剣を掲げて、アルマの頭頂部目掛けて、振り下ろす――
「死ねぇ!」
「”ファイア”!」
右手からの火球。それはボスの顔面へと直撃した。すぐさま青紅を手に取るアルマ。火炎に視界を奪われるその男の胴体を斬り上げる。直線的に刻まれた傷口から、血が勢いよく噴き出す。流れるように、アルマは盗賊団のボスの胸をその剣で貫いた。
「いくらでも恨んでいい。その覚悟はできている」
その男はもう動かない。その身体は覆いかぶさるように力なくアルマの全身にもたれ掛かる。
「いきなり魔法使うなんて汚ねぇヤツだ! 野郎ども、たたんでしまえ!」
周りで見ていた残りの盗賊3人。ボスの死を目の当たりにして、剣のみでの戦いを破棄したアルマに襲い掛かる。
盗賊の1人が弓を引き、そして放つ。ボスの死体で矢を防ぐアルマ。刺したままの剣を手放す。そして、
「”メガファイア”」
右手から放たれる真っすぐ飛翔する大火球。その弓使いを炎熱で抱きしめ、黒ずみへと変え、地面に倒した。
「喰らえ!」
アルマを側面から斬りかかる盗賊。すぐにボスの死体を引きはがし、貫いたままの青紅を引き抜いて、その太刀を防ぐ。太刀使いの盗賊とつばぜり合うアルマ。その背後を最後の盗賊が狙う――
「貰った!」
斧を振りかぶりながらの接近。アルマはつばぜり合うその太刀を素早く弾き飛ばし、使い手の左肩に青紅を突き刺し、手放した。大きくよろめく太刀使い。アルマはその男に背中を向け――
「”ファイア”」
背後の斧使いへと火球を投げつける。炎に包まれ悶える斧使い。アルマは太刀使いに刺したままの青紅を手に取り、鎖骨を切断するように真横に斬り払う。太刀使いはその勢いで床へと投げ出され、地面を血で染める。
炎に包まれた最後の1人。アルマはその左肩から右脇腹へと一直線に斬り下ろした。
血と死体に囲まれたアルマ。剣についた血を振り払って、震える手で鞘へと収めた。
異様に速い呼吸と心拍を落ち着かせていた時、手を叩く音が洞窟に反響した。
「アルマ、言うたっけ? あんさん、中々強いんやなぁ。助け入ろう思うてたけど、要らんかったわぁ」
角から現れたのはアネモネの臣下の一人。金髪長身の美人だった。
「カトレアさん、でしたよね? 見てたんなら助けてくださいよ……」
「ふふ、あんさん達の実力を見たかったんや。さすがグリムフォードを倒したというだけあるわぁ。……で、1つ聞きたいんやけど……」
「なんでしょう?」
「なんで、手で魔法撃っとるんや? わざわざ剣を手放してまで……」
「……ゑ?」
――なんで? いやその質問がなんで? 自分が見た主な魔法の使い手はスピナーとグリムフォード。間違いなく、どう見ても、どっちも素手だ。
「僕が魔法を憶えるときに真似た相手が素手で使ってた……から?」
「……あんさん魔族にでも育てられたん?」
――なんかとんでもない悪口を言われた気がする。
他に出会った魔法の使い手だと、風を使っていたクロニスが思いつく。クロニスは壊れた剣を持っていた。ガーネットの魔法はまだ見ていないが、杖を持っている。となると、実は素手で撃つのがマイノリティーだったりするのだろうか。
何とも言えない眼差しでアルマを見つめるカトレア。アルマの本当に何もわかってなさそうな顔を見て、ため息をつく。
「はぁ。この件が終わったら、しっかり魔法大全に目を通しとき。けったいな癖付くで~」
アルマの横を通り過ぎ、盗賊が使っていた弓矢をカトレアは拾い上げた。
「魔法は武器を通して収束させることで安定するんや。魔法をこの『矢』とするなら、武器はこの『弓』になる。ちなみに、ほとんどの魔族は全身がこの例えで言う『弓』になっとるなぁ。そして当然、『矢』は『弓』があって初めて真価を発揮する」
弓を引き絞り、壁についた小さな血の染みに向かって矢を放つカトレア。その矢は見事狙い通りの位置に刺さった。
「おぉ~」
「これでも魔武両道の名家の生まれやからなぁ。一通りの武器は扱えるで」
新しい矢を手に取って、話を続けるカトレア。
「ウチはこの魔導書。ルードはレイピア。アネモネ様は携帯してらっしゃるメイス。みんな何かしら持ってる。あんさん今まで『弓』なしで『矢』を撃ってたようなもんやで。こんな風に……な!」
手にした矢を一番近くの壁掛け松明へと投げつける。力んだ声は明らかに男性の声だったが、アルマは気にしないことにした。こういうのは触れない方がいい。
投げられた矢は少しずれ、近くの壁へとダーツのように刺さる。その風圧で狙っていた松明の火は消え、周りが少しだけ暗くなった。
「並外れたパワーと技術があれば、『弓』と同じような結果は出せる。けど、逆に言えばそれだけや。おとなしく武器使っとき」
その説明を聞き、剣を抜くアルマ。アルマの頭には1つの仮説が浮かんでいた。
――今まで当たらなかった”ファイア”以外の魔法。剣を通して撃てば当たるのでは。
剣先を火の消えた松明へと向ける。身体をめぐる感覚を右手のさらに先まで届けるようなイメージで――
「”サンダー”」
包帯越しに輝く指輪。剣先から飛び出す稲光。真っすぐな軌道。狙い通りの着弾。雷撃は松明の先端にあたり、再度火が灯った。
「おみごと。飲み込みが早いんやなぁ」
拍手するカトレア。しかしその目は優しいものではなかった。
「……あんさん、『殺戮拳姫』って知っとる?」
『殺戮拳姫』。聞きなじみのない物騒な言葉。当然アルマは首を横に振った。
「……なら、あれは別人……? となると輝きも偶然……、見間違い……?」
顎に手をやり考え込むカトレア。
「あの、カトレアさん?」
「いや、何でもあらへん。ほな、みんな探しに行きましょか」
二人は暗がりの奥深くへと進んでいった。
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「ところであんさんに素手魔法というけったいな事吹き込んだ人間はどこの御仁や?」
「あ……、スピナーです。あの、お姫様殴ってしまった……。ホントにすみません」
「……あらホンマに魔族かもしれへんなぁ」




