Chapter 23 信じがたい物
微かに明かりが確保されている洞窟を、警戒しながらゆっくり歩く赤髪の修道女が一人。
「ここはどこで……、みなさんどこですの……?」
進路方向、曲がり角から現れる集団。それはガーネットが知る人物達ではなく、十数の無作法な群衆だった。
「見つけたぞ! 多分、あの女だ! オフィーディア様のために仕留めろ!」
武器を持った連中が一目散にガーネットへと向かっていく。そう、杖は握りしめているが、魔法が使えない、実質丸腰の少女へと。
「あ、あなた達誰ですの!? ちょ、待って、ストップ!」
そんな言葉に耳を貸すはずもなく、押し寄せる。一縷の望みにかけて、ガーネットは杖の先を迫ってくる集団へと向ける――
「……”ファイア”」
顕現する光り輝く火球。杖の先端から放たれる。
魔力過剰症を患ってから今日で3日目。祈りが届いたかのように、今この瞬間治ったのだ。
「出ましたわ……!」
ようやくの解放に満面の笑みを浮かべるガーネット。その時――
「間に合った! 助けに来たぜ、ガーネット!」
威勢の良い声。戦えないガーネットを探していたディーア。襲われているところを見つけたため、土むき出しの床から飛び出し、その連中の前へと姿を表したのだ。
そう、連中の前。つまり、”ファイア”の軌道上に、だ。
「あ」
なんとも間の悪い男だ。火だるまとなって、絶叫と共に集団へと放り込まれるディーア。当然燃えたくないため、ディーアに触れないように連中は避ける。
あまりの出来事に連中は目を丸くし、のたうち回る燃える剣士を棒立ちで見つめるだけとなった。
「”ウォーター”!」
すぐにガーネットがディーアに水の塊を落とし、消火した。
「魔力、元に戻ってたなら早く言ってくれ……」
「いやホントごめんなさい」
ずぶ濡れとなって立ち上がり、前髪についた雫を払うディーア。
「さてと……、治ったんならさっさと片付けるぞ! コイツら、エルさんが言ってた盗賊団だ!」
「任せてくださいまし!」
十数の盗賊を片付けるのに大した時間はかからなかった。
戦闘後、ガーネットは戻った魔力であの時のディーアの胸の傷を治していた。向かい合って、ディーアは服を脱いで、傷口を晒し、ガーネットはそこに杖の先から溢れる優しい光を当てていた。
その時……
「……なぁ、ガーネット」
「何ですの?」
「あれ、何?」
治療を続けながら、ガーネットはディーアが指さす方向に目をやった。
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ……
無音の洞窟に響く不気味な足音。ボロ布同然の服を纏った人型の何かが、二人の元へと歩いていた。汚れたというよりは古めかしい寒色の肌、人間と呼ぶにはゆっくりで不自然な動き。そして、近づいてくる程に強まる、鼻につく嫌な臭い。それはまるで……
「……死体、みたいですわ……ね?」
「ハハハ……、死人が動くかよ……」
「そうですわよね……」
ぎこちない乾いた笑いで誤魔化す二人。
その動く何かはある程度の距離、大体数十メートルの位置でピタっと停止した。
「……?」
あまりの不気味さに警戒と疑問を強める。その瞬間――
大疾走。その動く何かが、両手両足を全力で振る、完璧なランニングフォームで走り出した。
「イぃヤぁあああああああああ!!?!?!??」
洞窟に反響する大絶叫。二人は恐怖で目に涙を浮かべていた。
「早く早く早く早く!」
「もう回復終わりましたわ!」
すぐさま剣を抜くディーア。電光石火の死体へと突っ込む。
「何かよく分かんねーけど、覚悟!」
すれ違いの一閃。ディーアの刃は、その死体の脇腹を切り裂いた。動きが止まる死体。ざっくり斬れたその傷口から、血らしきものは流れ出ていなかった。
「何だってんだ、マジで……」
「空想の物語に登場する、『ゾンビ』……。というのが一番しっくりきますわね」
ゾンビ。墓から蘇り、徘徊する生ける屍のこと。今目の前で遭遇した何かを形容するにはこれ以上ない言葉だった。
止まったゾンビを観察する二人。それは、いきなり動き出した。
「ウッソだろ!?」
咄嗟に剣を抜き、そのゾンビの首を跳ねた。宙を舞う頭は数メートル離れた位置に落下した。
首から上がなくなったゾンビ。
それでもなお動いていた――
「ディーア、離れてくださいな! ”ファイア”!」
ガーネットがそのゾンビを焼き尽くしにかかる。火炎に包まれるゾンビ。死体が焼ける不愉快な臭いが漂う。
それでもなお動いていた――
「んな!?」
首がなく、全身燃え盛っているにもかかわらず、ゆっくりと動くゾンビ。頭がないということは、目もないはずなのに、位置が分かっているのか、真っすぐディーアの元へと歩く。
「気が進まねーが、しゃーねぇ」
自身の剣『威天』を持つ手に力を込める。ディーアは高速の剣技でそのゾンビをぶつ切りにした。
手首、二の腕、足首、太もも、下半身……。ある程度の大きさにバラバラにしたのだ。各パーツが燃えたまま地面に散らばる。表面積が増えたためか、火の勢いが強くなった。
「どんなに動けても、動く身体がなきゃ意味ねーよな。あとは放っておけば、ウェルダンのサイコロステーキが出来上がるはずだ。ま、誰も喰わねーだろうけど」
斬り刻んだゾンビへと目を落とすディーア。見てしまった異常な光景に目を疑った。
胸を含む上半身のパーツ。それがまだもぞもぞと動いていたのだ。
「気味悪すぎんだろ……」
「ねぇ、あれ……」
ドン引きしているディーアの服をチョイチョイと引っ張るガーネット。その視界の先には――
何十ものゾンビが跋扈していた
その後、叫び散らしながら、一目散に逃げ出したのは言うまでもない。




