Chapter 22 転送先は
眩い紫光が視界を覆った。眼界が正常になった頃には、周りが自然の岩肌に囲まれた薄暗い空間に、エルさんはただ一人孤独に直立していた。
「何やってんだァァァァ! あいつが出てきた時点で、もう奴の鳥カゴの中だろうが! しっかりしろ、オレ!」
自責の念に駆られ、何度も岩壁に頭を打ち付ける。金属と岩がぶつかる音が周りに反響する。
ひとしきり頭突きしたことで冷静になったのか、辺りを見渡して状況を確認する。
「オレ一人だけ。全員バラバラに飛ばされたのか。ここは……どこかの洞窟か? 整備されているし、誰かの住処か?」
洞窟の壁には離れてはいるが、等間隔に点々と松明が刺してあり、やわらかい明かりが確保されていた。
その時――
「いたぞー!」
洞窟の反響する声。その音の方向には、何十人もの無粋な男たち。小汚い野郎どもが武器を持ってドタドタと迫って来る。
「何人か見覚えのある顔が混ざってるな。……なるほど、ここは例の盗賊団同盟のアジトか。軍隊単位で攻めてこられたら勝ち目ねぇから、主要な奴だけアジトに入れて人数差でボコろうってか」
背中の大剣を抜いて構える。そして、襲いかかってくる無法者達を次々に斬り捨てていった。
戦闘の最中、盗賊の1人が恐る恐る口を開く。
「コイツ、数年前にここ襲ったヤツじゃねぇか?」
「何!? だとしたらこの人数じゃ足りねぇ。もっと人呼んでこい!」
もっと敵が増えるのか、と舌打ちをするエルさん。その時――
ドゴンッ!!
何かが派手に破壊された音。洞窟の壁が丸く崩れる。巻きあがる砂埃の中、人影が一つ見えた。
「あ、エルさんだ」
穴の開いた岩壁の向こうから現れたのは、プラム先生だった。
「プラムちゃん!? なーんでそんなとこから……」
「この壁の向こうから声が聞こえたから最短距離」
フンス! とドヤ顔を決めるプラム。
「まぁいいや、とりあえず会えてよかった。早速だが、この悪党共を片付けるのを手伝ってくれ。こいつら例の盗賊団だ」
頷くなり、目にも留まらぬスピードで群衆に突っ込むプラム。その拳で次々吹き飛ばしていった。
無数の盗賊相手にまるでゲームのように無双する二人。身体も温まり、処理速度も上がってきた頃――
「悪党で思い出した」
盗賊を殴りながら、プラムが困り顔でエルさんの方を向く。
「エルさん。前、子供たちに聞かれたんだけど……」
「ん、どしたん?」
「『魔族』と『悪魔』の違いって何? 大体の人は『魔族』だけど、たまに『悪魔』って言う人もいる。その違いって何なんだろうなって」
迫る盗賊を両断しながら、エルさんが地に足を付けたような声で答える。
「その2つの言葉に大した違いはない。……地上から見る限りは、な」
「地上から?」
「あくまでオレの意見だが、『魔族』は『人間』や『オーク』みたいな種族の名前。で、『悪魔』は『魔族』という種族の中の ろくでなし の総称だ。『人間』でも言うだろ? こいつ等みたいな ろくでなし のことを『悪人』ってよ」
その悪人を斬りながら、話を進める。
「魔界から地上に来るのに魔王城を絶対通らなきゃならねぇ。だから、魔族が地上に来る方法は魔王軍に所属する以外ねぇのさ。魔王軍所属の『魔族』なんざ例外なしに全員 ろくでなし の『悪魔』だぜ」
プラムはろくでなしを殴りつけながら、ただ黙って聞き続けた。
「地上にいて魔王軍と戦う限りは『魔族』と『悪魔』に違いなんかない。ただ、魔界には『悪魔』じゃない『魔族』がいるってことさえ覚えときゃいい。ガキ共にもそう教えときな」
「……ありがと」
話し終わる頃には、もう向かってくる盗賊はいなくなっていた。
地面に伏せる盗賊たちに囲まれながら、大剣を収めるエルさんと、右腕で汗をぬぐうプラムさん。
「さーてと、雑魚は片付けたが、出口が分からねぇ! まぁ、適当に進むしかねぇか!」
二人は暗がりの奥深くへと進んでいった。
小話
「ところで、エルさん。盗賊たちの中に少しだけ女性も混ざってたけど、どうしたの?」
「どうしたって、斬ったぜ?」
「女の子好きなのに?」
「フッ、こう見えても公私はしっかり分けるエルさんなんでな。仕事とあれば誰だって斬るぜ。プライベートだったら、お茶にでも誘ったんだけどな」
「……前々から思ってたけど、兜脱がずにお茶飲めるの?」
「……そいつはシークレットインフォメーションだ」




