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Chapter 17  アリウィン王国第一王女

「お前らはこの辺に隠れてろ。オレ1人で行く。ジャイアントタイガーを連れて行くとトラブルになりそうだ」


 近くの岩陰を示すエルさん。確かに、猛獣を連れて行ったら、大惨事になるだろう。

 アルマ、ディーア、スピナー、ガーネット、ライム、プラム、そしてタマはその岩陰に身を隠すこととした。しかし――


「あ、ファーローズ城の玉座、あの丘に置いてきちゃった。ちょっと取ってくる」


 ジャイアントタイガーを逃がした際に、アリウィンに持っていく予定だった玉座を手放して地面に置きっぱなしだったこと思い出したプラム。その言葉をみんなが聞いた時にはもうすでに、プラムの姿はなかった。

 エルさんは1人で真っすぐ、いつも通りただの仕事帰りを装って、騒がしい町の入口へと向かっていく。


「だから、知りませんってば!」

「しかし、この町からの要請が確かに来ています。虚偽の要請は処罰に値しますよ、町長」


 軍を率いている、黄金の鎧をまとった紫髪の少女と、オックスの町の長の口論が続く。そこへエルさんが平然と介入した。

 

「カー坊……じゃねぇや。町長、頼まれてたジャイアントタイガーの駆除が終わったぜ。……っと、お取り込み中か。この麗しいお嬢様はどちら様で?」

「ああ、エルさん。お疲れ様……じゃない、助けてくれ! この方と話が全然かみ合わないんだ!」

「あの、あなたは……」

「オレはこの町の用心棒をしているエルさんだ。キミが何者かは知らないけど、こんな場所で立ち話なんて可憐なキミには似合わない。キミのようなレディに相応しい店がこの町にあるんだ。そこでお茶でも飲みながら、ゆっくり話さないかい?」


 浮ついたセリフを吐きながら、その少女の肩に手を回そうとするエルさん。

 その時――、


 ブスッ!


 その少女の側に立つ、刺々しい髪型をした短髪の小柄な兵士が、エルさんの籠手の隙間にレイピアを突き刺した。


「痛ッ! 何しやがる、この野郎!」

「それはこっちのセリフだ、無礼者!」


 刺したレイピアを引き抜く兵士。刺された箇所を押さえるエルさん。いがみ合っていると、傍らで直立していた人が読んでいた本をパタンと閉じた。金の長髪を携え、ゆったりとしたローブを纏い、片目を前髪で隠したその長身の美人が口を開く―― 


「ふふふ、アネモネ様をナンパする命知らず、初めて見たわぁ。そのお方はアリウィン王国の王女様やで~」


 目を丸くするエルさん、そして岩陰に隠れて聞き耳を立てていたパーティ一同。あまりの驚きに目をぱちくりさせていた。


「私はアリウィン王国第一王女『アネモネ=フォン=アリウィン』。残念ですが、職務中ですのでティータイムのお誘いはお断りします」

「オレはアネモネ様の臣下『ルード』。アネモネ様、こんな奴の誘いはプライベートでも受けてはなりません!」

「ふふ、同じく臣下の『カトレア』や。以後よろしゅうな」


 紫髪のショートヘア、金色の鎧に巨大な丸い盾、10代半ばの少女がアリウィン王国の王女様らしい。

 ――アリウィン王国はプラム先生が言っていた、最初の目的地だ。しかし、この辺りはファーローズと呼ばれていたはず。他国の軍が堂々と来れるものだろうか。グリムフォードが居城にしていたのもファーローズ城……いや、確か”元”ファーローズ城だった。もしかして、ファーローズという国は既に滅んでいて、その領土がそのままアリウィン王国の領土にでもなった、ということだろうか。

 アルマは後で確認を取ることに決め、その会話を聞くことに再度、集中し始めた。


「王女様だろうが誰だろうが、レディは口説くのがこのエルさんなんだが、今さっき町長から『助けてくれ』と頼まれちまったからな。公私はしっかり分けるエルさんは手を引くことにするぜ。……で、何もめてたんだ?」

「はい、オックスの町の町長からの軍派遣要請がアリウィンに届いたので、本日伺いました。しかし……」

「私はそんな要請は出していない! なのに、書類があるの一点張りで……」


 兜越しに顎の下に手をあて、しばらく考え込むエルさん。何かを閃いた様子を見せた。


「アネモネちゃん、要請の書類に書いてあった町長の名前は何だった?」

「ア、アネモネちゃん……だと。キサマ無礼にも程があるぞ!」


 レイピアを再度抜こうとするルード。それをアネモネが静止する。


「『オックスの町 町長 ジョゼ』と署名されていました」

「やっぱりジョゼか。4年くらい前に病気でポックリ逝った先代町長の名だ」


 顔が悔恨の色で染まっていくアネモネ。すぐに現町長に深く頭を下げた。


「っ! 申し訳ありません!」

「アネモネ様、王族がたかが辺境の町の長に頭を下げてはなりません! 頭をお上げください!」


 ルードが頭を下げるアネモネを急いで止めていた。


「ジョゼが出した要請ってことは、あの件だな。その要請を出したのは確か6年くらい前なんだが……、受理されていたのか」

「はい、受理はされていました。しかし、人手不足でこの件が後回しになって……」

「10年前、ファーローズの領土がそのままアリウィンの管轄になったが、アリウィン王国がファーローズ領を管理しきれてないのは知っている。オレがこの町に雇ってもらえてるのはそれが理由だし、責める気にはなれねぇな……」


 10年前にこの辺り一帯がアリウィン王国の領土になったが、急に領土が増えたから管理しきれてない、ということらしい。グリムフォードが放置されていたのはそれが原因だろう。

 なんとなくアルマが左右を見渡す。すると、1人見当たらなかった。


「あれ、スピナーは?」


 岩陰に隠れているみんなが探し始める。ガーネットが指をさして声を上げた。


「あ、あそこですわ」


 その方向に見えたのは、真っすぐアネモネたちの元へ歩いていくスピナー。どことなく力が入っている様子だった。その手にこぶしが強く握られてゆく。

 カトレアが男の接近に気付く。


「おや、あの御仁はどちらさん?」


 カトレアが示す方向を向くエルさん。


「あん? なんだ、スピ坊か。何か用――」


 風のようにエルさんの目の前を横切るスピナー。アネモネへと一直線に迫る。

 握られた拳。それを――

 









 アネモネの顔面へと叩きつけた


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