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Chapter 16  入り口では

 目的のジャイアントタイガーの討伐は終わった。1匹仲間になった。

 オックスの町への帰路につくパーティ。タマの上にディーアが跨り、揺れながら移動していた。


「乗り心地ケッコーいいなー」

「ボクも乗りたいなぁ」


 タマの脚に触れるライム。触れられたタマはライムを睨み、不機嫌そうな顔で威嚇した。


「イヤだってさ」

「なんでぇ?」

「食べよーとしてるの見抜かれてんじゃね?」

「食べようとなんて……、少しは考えたけど」

「ダメじゃねぇか、ライ坊」


 豪快に笑うエルさん。その目の前を白い風が横切る。プラムが戻ってきたのだ。


「ただいま。あっちの方の森に逃がしてきた」


 走って戻ってきたにもかかわらず、いつも通りの呼吸をするプラムが南西の森を指し示す。


「おう、お疲れさん。ってあっちの森? あっちは確か……まぁいいか」


 何かを気にするエルさんをよそに、懐から煙草を咥えるプラム。続いて、手のひらに収まるサイズの透明な球を取り出した。煙草の先っぽにその球を押し当てる。何回もつつくように先に当てるが、特に何も起こらなかった。


「あれ……? 火が切れたかな」


 プラムの独り言を聞いていたスピナーは掌をプラムの方へ向けた。物を受け取る構えだ。


「先生」

「お願い」


 バシィィィ! と強烈な捕球音が響く。透明な球に魔力を込めるスピナー。

 

「”ファイア”」

 

 手に握られた球が焔色に灯る。魔力を込め終わると、その球は元の透明へと戻った。


「チャージ終わった」

「ありがと」


 バシィィィ! と再度、強烈な音が鳴る。受け取った球に咥えた煙草を押し当てる。細く昇る煙。煙草に火がともった。

 一連のやり取りを眺めていたアルマ。スピナーに尋ねた。


「さっきの球、何?」

魔含球まがんきゅう。入れておいた魔法を好きな時に取り出せる道具だ。プラム先生みたいに魔法が使えない人でも魔含球なら使える。瞬間移動テレポートの魔法を入れておいて、緊急時の保険にする人もいるらしい。まぁ流通量が少なくて、簡単に手に入る代物じゃないが」

「へぇー」


 ――あの魔含球と呼ばれる球、クロニスが持っていた物と似ている。名前は確か『通信水晶』。魔王ネーヴがそう呼んでいた。テレパシーの魔法でも入れていたのだろうか。それとも、魔王軍は魔含球を材料にして連絡の取れるアイテムを創り出したのだろうか。はたまた、ただ似ているだけか。


 シュタッ

 

 タマから飛び降り、アルマの側に着地するディーア。目にも留まらぬ速さで、アルマの腰に差した青紅を勝手に引き抜いた。


「あ、ちょっ!」

「へぇー、これが相棒の剣かー」


 まじまじと眺めるディーア。しばらくすると、満足したのか、アルマにその剣を手渡して返した。その姿を見ていたエルさんが声をかける。


「青紅。ディー坊の威天いてんに匹敵する最高のデキだと大将が言っていたぜ」

「マジ!? 相棒、後で一戦やるぞ!」

「あはは、手が治ったらね」


 ――今の自分の剣では、どうあがいてもディーアの足元にも及ばない。『一戦』を成立させるにはまだ技量が足らないな。


 ようやく見えてきたオックスの町の入口。しかし――


「んだあれ? 人が大勢いるな。というか馬車多くねぇか?」


 入口を前に規則正しく並べられた無数の馬車。それに乗ってきたと思われる、服装が統一された人々。その人々を統べているように見てとれる金色の鎧をまとった少女。その少女の側に立てられた高い旗。明らかに異変と言わざるを得なかった。

 エルさんにはその旗に見覚えがあった――


「おいおいおいおい……。ありゃ、アリウィンの軍隊じゃねぇか!?」


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