Chapter 15 なんとなく
唸り声を上げる最後のジャイアントタイガー。各々武器を構える。
アルマも腰に差した青紅に手をかける。
――何だろう。何かおかしい。グリムフォードやさっき戦ったジャイアントタイガーと対峙した時に感じた肌がピリつくような感覚。名前をつけるなら敵意、殺意だろうか。それが感じられない。あれだけ威嚇してきているにも関わらずだ。どちらかというと――
「怯えている……?」
「怯えて? なーに言ってんの、相棒」
アルマの方を向くディーア。その瞬間、ジャイアントタイガーが駆け出す――
「速い!?」
風切り音を奏でるその速度は他のジャイアントタイガーを凌駕していた。
「危ない!」
すれ違いざまにディーアへの切り裂き攻撃。間に入って盾で防ぐライム。キンッ、と甲高い音が響く。
背後に回ったジャイアントタイガーを、全員が再度視界に捉えた。
「油断すんな、ディー坊!」
「わりーエルさん。守ってくれてサンキューな、ライム。……ライム?」
一心に自身の盾を見つめていたライム。首を傾げ、不思議そうな顔をしていた。
「当たった……よね? ジャイアントタイガーにしては攻撃が軽すぎない?」
「そんなの知るか。さっさと始末するぞ」
右手に電光を纏うスピナー。
「待って!」
「何だ」
苛立ちの混じった声。振り向くスピナー。纏った電気が空中に霧散してゆく。
その刹那、ジャイアントタイガーがアルマに飛び掛かる。口を大きく開け、鋭い歯を何本も見せる。
意を決し、一歩も動かないアルマ。
飛び散る血液。その鋭い歯は、アルマが差し出した左腕を貫いた――
「相棒!?」
「嘘!?」
「まずい、食いちぎられるぞ!」
グリムフォードから受けた傷。それを覆い隠す包帯の上から噛みつかれたアルマ。全てを奥歯に力を込めて堪え、微動だにしない。
右手で優しくジャイアントタイガーの頭に触れる。
――大丈夫。怖くない。
興奮して体毛が逆立つその巨体を諭すように撫でる。
徐々に落ち着くジャイアントタイガー。ゆっくりと咥えた左手を離し、自身が噛みついた箇所を見つめる。
「アル坊、大丈夫か!?」
素早く駆け寄るエルさん。アルマの左手首を持ち、傷口を凝視した。
「……傷が浅すぎるな」
首をかしげるエルさん。その脳内に一筋の閃光が駆け抜ける――
「おい、ニャン公。口開け!」
先ほどまでとは打って変わり、無邪気に口を開けるジャイアントタイガー。
「……やっぱりか。次、お手!」
エルさんが差し出す手の上に、素直に肉球を乗せる。犬じゃなくて、猫……虎なのに。
「やっぱりって、何がですか?」
「コイツ、ジャイアントタイガーにしては牙と爪が明らかに短い。こんなんじゃロクに狩りはできねぇはずだ」
「できないって、じゃあどうやって生きて……?
「ガキのフリして生きてきたんだ。ガキとして群れに紛れ込んで、バレたらこの足の速さで逃亡。そうやって生きてきたんだろうよ」
スピナーが声を上げる。
「そいつがジャイアントタイガー界の出来損ないというのは理解した。問題はなぜアルマはそれに気づいたかってことだ」
――理由。怯えているように見えた。怖がっているように感じた。言葉にするとこうなるが、どれもただの直感だ。平たく言えば、そこに理屈なんかなかった。
「……なんとなく?」
ジャイアントタイガーの顔をなでるアルマ。お返しに、ジャイアントタイガーがアルマのことをぺろぺろ舐め、じゃれつく。
「なんだ、なんとなくって」
「いいじゃねぇか、『なんとなく』。この世には、何でも斬る奴、何にも斬れない奴、色んな奴がいるが、オレが一番だと思うのは『斬る必要のある敵だけを斬る奴』だ。斬る必要のない相手が肌感で判るのは、天性の才能だろうよ」
相手を見極め、必要ならば斬ることができる剣士。それがエルさんの理想だった。
ジャイアントタイガーのよだれでべとべとのアルマが声をかける。
「あ、そうだ。スピナー、ちょっといい?」
「なんだ?」
「馬車の件だけど、タマに引かせるのはどう? 馬代は浮くよ」
「は? ジャイアントタイガーに馬車引かせる気か? というか『タマ』ってなんだ」
「この子の名前だけど、ダメかな?」
「駄目も何も、そもそもそいつ『玉』には見えないだろ」
「『タマ』は故郷でよく猫につける名前なんだけど」
「ジャイアントタイガーは猫……? 猫だな」
「にゃあ?」




