Chapter 14 寄り道先は
血走った瞳。逆立った体毛。群れの子を盗まれ、怒り狂ったジャイアントタイガーの爪がエルさんの首筋に迫る――
その一撃は、エルさんに届くことはなかった。
白い髪の女性。彼女がジャイアントタイガーの剛腕を片手で軽く受け止めていたのだ。
「ただいま」
「先生!」
「プラムちゃん! ……ってそれまさか、マジで持ってきたのか!?」
ジャイアントタイガーの巨体すら凌ぐ、赤色と金色で彩られた椅子。それをプラムは片手で軽々と担いでいた。
「先生、それ……何ですの?」
「ファーローズ城の玉座。やっぱり魔王軍は全員撤退したみたい。アリウィンでグリムフォードのことを話すときに、その証拠になるかなって」
「アリウィンまで担ぐ気……ですの!?」
「私が持つから大丈夫」
自信満々のプラムにみなは呆れるしかできなかった。
アルマがスピナーに耳打ちをする。
「朝いなかった理由ってこれだよね? ファーローズ城ってここから近いの?」
「片道3日はかかる」
「ゑ?」
「理解できないのは分かる。あの人は、そういうモンだと思っておくと疲れなくて済むぞ」
予期せぬ人間の割り込み。それに戸惑い、手を引っ込めていたジャイアントタイガー。その眉間にデコピンを放つプラム。
「めっ!」
静かに無気力にその場に倒れるジャイアントタイガー。
なんてことのないただのデコピン。それが体長5mもある動物の意識を奪ったのだ。
片道3日、往復6日の道のりを半日で。しかも、帰りはあの馬鹿デカい椅子を担いでだ。おまけに猛獣を軽く小突くだけで無力化。
――もうこの1人でいいんじゃないかなぁ
倒れたジャイアントタイガーの首筋に触れるエルさん。
「オイオイ、プラムちゃん。詰めが甘いんじゃねぇか? まだ息があるぞ」
「……逃がすんじゃダメ?」
「いやいや、こいつ等報復に来るぞ? それぐらいの知能は持ち合わせてやがる」
「遠くに逃がすからだいじょうぶ」
担いでいた玉座を地面に置き、次はジャイアントタイガーを片手で担ぐプラム。空いた手で、スピナーが抱えていた子供入りの袋を二つとも受け取ると、遠方に見える森へとものすごい勢いで駆けて行った。
「あーあ、行っちまった。プラムちゃん、どうも極端に殺しを嫌う所あるよなぁ」
「そんな悪いことですか?」
「まぁ悪いことじゃねぇが、虫も殺せねぇのはどうかと思うぜ。まぁ、プラムちゃん可愛いからヨシ! 何はともあれ、これで一件落着か?」
大剣を背中に収める。
「まだ子どもが1匹残っていますわ、エルさん」
「おっと、そうだった」
収めた剣を再度抜くエルさん。
その時――
ガサッ
不審に音を立てる草の塊。そこから顔を出す黄色い生き物――
「ラスト1匹あっちから来たじゃん、ラッキー! アイツ捕まえてスピナーを黙らせてやるぜ!」
「……いや、ちょっと待て」
停止を促すディーア。草むらから現れたそれは間違いなくジャイアントタイガーだった。アルマたちを真っすぐ見て、威嚇するジャイアントタイガー。そのサイズは3mはあった――
「オイ、あれ大人じゃねぇか。大人は8匹のはずだろ」
「通常より小さいサイズだから、発見した奴が見間違えたんだろうな! ガキ共戦闘準備だ!」




