Chapter 13 青紅
「あなた1人で大丈夫ですの? まだ左手も治せていませんし……」
「大丈夫。だから、ガーネットは後ろに下がってて」
ガーネットは心配そうな眼差しでゆっくりと後ずさる。
唸るジャイアントタイガー、それと対面するアルマ。その瞳と右手に握られた青紅に迷いは見えなかった。
力を込め、飛び掛かるジャイアントタイガー。左の巨大な爪を振り下ろす。アルマはすれ違うように避け、左脇腹を斬りつける。綺麗な青色の剣先に真っ赤な血が付着する。
――よかった。これなら斬れる、戦える。
……いい剣だとかそういうのは自分にはわからない。ただ、自分にできるのは『戦いの基本は相手をよく見ること』、これを意識して、この剣を振り続けることだけだ。
すぐにまた剣先を向け、構える。右前足を勢いよく振り抜くジャイアントタイガー。青紅で受けるアルマ。しかし、止まることなく吹き飛ばされた。
体格とパワーは基本的に比例する。自身の三倍の大きさの相手との力比べの結果なんか、火を見るより明らかだ。
「両手でも力で勝てる訳ないのに、片手じゃ絶対無理だよな……」
アルマは地面に剣を突き立て、片膝をつく。
一寸の隙も与えず、ジャイアントタイガーは大地を踏み鳴らし、突撃する――
「”ファイア”!」
放たれた火の玉。ジャイアントタイガーの顔面を炎で覆った。地面に刺した剣を引き抜くアルマ。もがき苦しむ巨体を何度も斬りつける――
――そう、剣だけで戦う理由はない。使えるものは何でも使う。必死に我武者羅に戦う。自分にはそれしかできない。
顔周りの火が消えたジャイアントタイガーは天高く片腕を掲げる。その胸に剣を突き刺すアルマ。噴き出す血潮。まだ倒れない。剣が刺さったまま、振り上げた剛腕を叩きつけるジャイアントタイガー。剣を手放し、大きく後ろに避けるアルマ。
「”サンダー”」
雷撃を投げつける。グリムフォードとの一戦で『当たらない』ことは分かっている。でもそれは、何もなければの話だ。
明後日の方に飛翔する稲光。急に方向を変え、ジャイアントタイガーを貫いた。胸に刺さった青紅。それが避雷針の役割を果たしたのだ。
巨体が崩れるように倒れる。青紅を引き抜くアルマ。ジャイアントタイガーはピクリとも動かなかった。
剣を一振りし、付いた鮮血を切るアルマ。地面に刺さったままの真紅の鞘に収め、一息ついた。
「強い……」
そう零したのは遠くから見ていたガーネット。小走りでアルマの元へ駆け寄った。
「アルマ、怪我はありませんの?」
「大丈夫。血はついてるけど怪我はしてないよ」
アルマは青紅を鞘ごと地面から引き抜いて、手に持った。それを見たガーネットは、懐から太めの紐を取り出した。
「その剣、ずっと持っているのは大変ですわ。手元にはこれしかありませんけど――」
青紅を手に取るガーネット。持ち合わせの紐で縛り、アルマの腰に青紅を差した。左腰に差してもらったアルマ。少しだけ剣を抜いてみた。違和感なくスムーズに抜け、鞘が落ちる様子もなかった。
「ありがとう、ガーネット」
「こちらこそありがとうですわ」
しばらくすると、各々ジャイアントタイガーを討伐したみんなが丘の上に戻ってきた。
「おし、ガキ共。それぞれ何匹倒したか数えんぞ。オレは2匹斬ってきた」
「僕はそこの1匹だけです」
「ボクも1匹」
「1」
「オレ2匹ー! あれれー!? おっかしいなぁ? スピナーは1匹しか倒せなかったのかー」
煽り散らすディーア。しかし、スピナーは相手にする様子もなく、むしろ見下している感じだった。
「フン、おめでたい頭と役に立たない目ん玉だな」
スピナーは人間1〜2人程入る麻袋を両脇に一つずつ抱えていた。しかもその袋は両方とも中身が入っており、もぞもぞ動いていた。
「エルさん。ジャイアントタイガーの子供を2匹捕獲した。正直、怯えるだけの猫を手にかける気が起きなかった。どうすりゃいい?」
「どうすりゃいいって、ウーム……。その袋に入るくらいの子供だと、1人で狩りできねぇんだよ多分。だから、野生に逃がしても死ぬだけなんだよなぁ……」
兜に包まれた頭を抱えて悩むエルさん。突然、その動きが止まった。
「ちょっと待て。オレとディー坊が2匹ずつ、アル坊ライ坊スピ坊が1匹ずつだよな? 全部足したら7匹……。親1匹足りねぇぞ!」
最後の1匹は、エルさんの真後ろにいた――




