Chapter 11 エルさん
いよいよ町に踏み込む。
その時、オックスの町からガシャンガシャンと音を立てながら、こちらに向かってくる戦士が1人。全身を銀の鎧で身を包み、首から上をすっぽり覆う兜を被り、左手には小さく丸い盾を、そして背中には身の丈程の巨大さを誇る片刃の大剣を携えていた。
ガチャ……
近づきながらゆっくりと右手で背中の剣を抜く鎧の戦士。緊迫した空気に場が包まれる。
その瞬間――
ガキンッ!
金属がぶつかり合う音。ディーアが颯爽と飛び出し、斬りかかったのだ。その剣は左手の盾で受けられ、押し合ってせめぎ合う。
「今日こそ勝たせてもらうぜ、エルさん!」
「お前がオレに勝つなんて、あと100年早ぇよ、ディー坊!」
巨大な剣で振り払う。後ろに飛んで避けるディーア。絶妙な間合いを保つ二人。どこか楽しげな雰囲気だった。アルマは足を止めて見入っていた。しかし――
「エルさん。私達先に市場に行ってますので、ディーアの後処理お願いしますわ」
「任せな、レディのお願いは断れないのがこのエルさんだ」
行先だけ伝えて、何事もなかったかのようにすたすたと立ち去るガーネット、スピナー、ライム。アルマは彼らの無関心さに目を丸くしていた。
「ゑ? 置いて行っていいの!?」
「いつものことだ。ほっとけ」
再度始まる剣戟のぶつかり合い。アルマはそれに目を奪われつつ、スピナーたちに付いていった。
ハイド村とは比較にならない人通りの多さ。右を見ても左を見ても無数の露店が並ぶ。活気にあふれた市場がそこにあった。そのオックスの町の市場の端部、少々開けた場所にある露店を訪れた。そこで並べられていたのは二種類。革で作られた屋根の付いている箱型の乗り物と、馬だった。
「……やっぱ高いな。最低6人と荷物が載る馬車とそいつを牽ける馬だし、こんなもんか。……歩くか」
「はぁ!? アリウィン王国まで徒歩なんて私は絶対嫌ですわよ!?」
店主に顔を近づけるガーネット。
「どうした、シスターの嬢ちゃん?」
「ねぇ、これ安くしてくれませんこと?」
「嬢ちゃん可愛いからな。いくらまけて欲しいんだ? 言うだけ言ってみろい!」
「は・ん・が・く♡」
「はっはっは。ムリだ帰れ」
頬を膨らませるガーネット。彼女の手首をスピナーが引っ張る。
「出直すぞ」
「ケチ! 意地悪! 人でなし! ハゲ!」
店主に一方的な不満をぶちまけながらズルズルと連れていかれる。そうして、馬車屋を後にした4人。多分あれはハゲではなくスキンヘッドだと思ったアルマなのだった。
その後、市場をあちこち回り、食料や服、雑貨など旅に必要な物を買い集めた一同。市場の外れで石畳の段差に座って休憩していた。
「必要な物は買った。……馬車は除いてな」
「ムシャムシャ……、どうするの?」
「車と馬、どちらかだけなら買える。プラム先生に後で聞くが、……馬だけ買って荷物持ちさせるか」
「車の方を買って、あなたが牽くというのはどうですの?」
「殺すぞ」
「レディにそんな事言っちゃダメだぜ、スピ坊」
どこかこもった声。その声の主はあの鎧の戦士だった。その脇にはディーアを抱えていた。戦った後にしては案外元気そうだった。
「よ! プラムちゃんのトコのガキ共! 1年ぶりくらいか?」
「ええ。ご無沙汰ですの、エルさん」
「いつも思うが、『スピ坊』って言いづらいだろ……」
エルと呼ばれるその男は脇に抱えたディーアを解放する。アルマはすぐにディーアの元に駆け寄った。
「大丈夫?」
「問題ナシ! だけど、負けた負けた。やっぱ勝てねーわ」
残念そうに笑う。
「いや、前会った時と比べて、信じられないくらい強くなっている。オマエがそんな身体じゃなきゃ結果は分からなかっただろうよ」
そう言って、ディーアのお腹を籠手で包まれた指で軽く弾く。痛がるディーア。アルマの左腕がまだ治っていないように、ディーアの切り傷もまだ治っていなかった。
「この実力で、この怪我。魔王軍幹部グリムフォードを倒して、四護”鉄人”クロニスと一戦交えたって話はマジっぽいな。……で、アンタがプラムちゃんが言ってた例の勇者か。なんだ、野郎かよ」
――悪かったな、野郎で。
この失礼な男はプラム先生やディーア達と面識がある。そして、ディーアと同等かそれ以上の実力を持っている。兜に隠され、素顔の見えない気さくな男。その男にアルマはほのかな不信感を感じていた。
「ああ、オレの事知らないよな。オレはオックスの町の用心棒、エルさんだ!」
ハンドシェイクの手を差し出すエルさん。その手を握る――
「アルマです。よろしくお願いします、エルさん」
握手した手をゆっくり離す。素顔の見えない恐ろしさはあるが、ディーアやスピナー達の反応や、用心棒という肩書きから、そんなに悪い人だと思えなかった。自分で自分に『さん』をつける変人ではあるが。
「さてと、話はプラムちゃんから全部聞いてる」
町の外の方へと歩き出すエルさん。首だけ振り向いて、言い放った――
「アンタら。プラムちゃん帰ってくるまで暇だろ? ちょーっと付き合え」




