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Chapter 8  プラム

 仕留めたバイソンの肉で、スピナーが作ったステーキ。夕食としてみんなで食べた。その後、就寝までの間、アルマは魔法の勉強をすることにした。

 木を背もたれにして座り、魔法大全を開く。最初のページから勉強すべきだが、アルマにはすぐに確認したい魔法があった。


 『光属性と闇属性』


 この章のページを開く。シトリーが口にしていた事はどういうことなのか。その答えを知るために。


 『光属性の魔法”シャイン”、闇属性の魔法”レイヴン”の2属性の魔法は、術者に全く逆の魔力の性質を要求する。故にどちらか一方しか習得することができない。”シャイン”の応用に回復魔法”ヒール”があるため、光属性を習得することをシトラス教では強く奨励する。また、魔族において光魔法の運用は未だ確認されていない。そのため、魔族は闇魔法の素質しか持ち合わせていないと考えられる。』


 光魔法と闇魔法の関係。これが原因であることは明白だ。

 つまり、”ヒール”が使えるガーネットは光魔法を習得しており、闇魔法は使えないということになる。一方で、”レイヴン”を唱えていたシトリーは闇魔法を習得しており、光魔法は使えないということだ。

 アルマはまだどちらの魔法も使ったことがない。にも関わらず、シトリーは『お主は光属性の魔法を使えぬ』と断言した。おそらく、指輪の魔力がシトリーの魔力の性質を反映しているからだろう。そんな予想をアルマは立てた。

 しかし、『物は試し』と言わんばかりに、光魔法を試そうとするアルマ。膨大な魔力を回復に回せたらどれだけ便利か考えるまでもない。使えたらラッキー、そんな心構えで本を地面に置き、明るい光をイメージした。


ビリッ

 

 指先と指先の間に小さな稲妻が走る。日も落ちて、焚火やランプしか明かりのないその場において、その簡易的な豆電球は確かに明るかった。


「あれ、おかしいな……? 光をイメージしたら”サンダー”になった……?」


 包帯に包まれた手で頭を掻くアルマ。右手から放たれている淡い電光に、まるで虫のように寄ってきて、側に座った人がいた。

 

「なにしてるの?」

「あ、プラム先生。ちょっと魔法を試していました。”シャイン”を使ってみたいんですけど……」

「……使えないよ? 指輪の勇者は」


 当たり前だと言わんばかりのキョトンとした表情で答えるプラム。長い間、対峙してきた経験のある魔王軍と違って、この人は指輪の勇者について詳しすぎる。悪い人ではないけど、アルマはプラム先生に少し疑念を抱いていた。


「どうして使ってみたいの? 闇魔法の方が殺傷力は高いよ」

「この膨大な魔力で傷が癒せるなら、もっと多くの人を助けられますからね」

「……優しいね」

「そうですか?」


 救える人を増やせるなら増やしたい。ただ漠然とアルマはそう思っていた。それをプラムは意外そうな表情で『優しい』と形容していた。子供達を預かる『先生』をしているはずの彼女には似つかわしくない反応だった。

 本を読むための照明として使っていたランプの炎で煙草に着火するプラム。宙を見つめながら一服し、煙を細く吐いた。


「命は大切?」

「そりゃそうですよ」

「じゃあ……敵の命はどう? 君はハイド村でどんな想いで魔族を殺そうとしたの?」


 突然の強烈な質問に固まるアルマ。いきなり向けられた殺意に必死で抗っていた最中の話だ。正直に言えば、そこまで気が回っていなかったのが事実だ。しかし、この先、多くの魔王軍と戦うことになる。多くの命を手にかけることになる。だから、今ここで、勇者として、命に対する答えを出しておく必要がある。そう強く感じ取った。


「……敵の命も大切です。簡単に失っていい命なんかありません。しかし、勇者となったからには取る必要のある命は取るつもりです」

「……へぇ」

「手にかけた相手のことは一生忘れない。忘れられないと思います」

「大変じゃない?」

「……覚悟はできているつもりです。直接、命を奪ったことがない若輩者の覚悟ですが」


 アルマの自分の言葉で練った強い意志を聞いて、プラムはどこか笑ったような顔を見せた。


「ううん、それで充分。その考えが君の中にあることが重要だから」


 プラムは手にした煙草を地面にこすりつけて、ほのかに紅く輝く火を消した。


「……私には命の大切さを理解できなかった時があったの。あまりこういうこと言いたくないけど、原因は生まれの問題。命に触れる機会も、学ぶ機会もなかった。初めて理解した時には、何もかもが手遅れだった」


 虚ろな目で語るプラムの横顔を心配そうにアルマは見つめる。プラムは深く瞬きをすると、普段の瞳でアルマを見つめ返した。


「私は自分の失敗を教えたいから先生になったの。でも、私の教えたいことの1つはもう君の中にあったね。それも自分の言葉で話せた。えらいえらい」


 アルマの頭を優しく撫でる。頭を撫でられるのなんて何年ぶりだろう。慣れない感覚にアルマはむず痒さを覚えた。

 ひとしきり撫でると、プラムはすっと立ち上がった。


「あまり遅くまで起きていると明日に響くよ。早めに寝なね。おやすみ」


 そう言い残すと、自分の寝床へと歩いていった。



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