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Chapter 7  ガーネット

 協力して獲物を担いで帰ってきたアルマとディーア。戻ってくるなり、アルマは料理の準備をしていたスピナーにキレられた。「汚ぇ」と。マウントバイソンの返り血をもろに浴び、全身血まみれなのだから当然である。

 すぐ近くに湧いている温泉に入って洗ってこい、汚ぇ服も替えてこい。とアルマは新品の着替えを渡された。ディーアも風呂について来ようとしたが、バイソンの解体をさせるために捕獲されていたため、アルマ1人で温泉に向かう事となった。


 指示された方向に向かうと、徐々に白いもやが辺りに立ち込める。目当ての温泉はその煙の中ですぐに見つかった。今朝入った温泉より遥かに広く、湯煙をふんだんに立て、白く濁っていた。アルマは血まみれの服を脱ぎ、ほとりで軽く身体に付いた血を流してから、静かに浸かった。

 温泉の縁にもたれ掛かり、一息つくアルマ。もうもうとした湯気越しに、温泉のほとりに立つ人影を見つけた。目を凝らしてみるアルマ。

 その人は背を向けていた。後頭部から背中の大部分にかけて、刻みつけられた火傷の痕が目立つ。その人は何かの気配に気づき、振り向く。その人は紅い髪、紅い瞳をした、白い下着の女性だった。


「ガーネット!?」

「アルマ!?」


 すぐに目をそらすアルマと、背中を見せないように正面を向いてしゃがんで両腕で胸を隠すガーネット。ガーネットは温泉から上がって、着替えている最中だった。


「背中、見ましたの……!?」


 凄い形相でアルマを睨む。


「み、見ましたッ! ごめんなさいゴメンなさい御免なさいゴメンナサイ――」


 必死の謝罪を受け、彼女はため息をついた


「……だからお外のお風呂って嫌いなんですわ。とりあえず、すぐ着替えますから向こう向いててくださる?」


 アルマはすぐガーネットに背を向け、反対方向を向いて目を閉じた。


 数分後、アルマのおでこに何かが当たった感触がした。恐る恐る目を開けると、着替え終わったガーネットがそこにいた。服を着た後、ここまで移動してきたようだ。ガーネットは靴を脱ぎ、温泉の縁に座って、足をお湯につけた。


「取り乱して悪かったですわ」

「こ、こっちもゴメン。いるのに気づかなくて」


 居心地の悪い沈黙が続く。勇気を振り絞って、沈黙を破った。


「あの、その背中って……」


 大きなため息をつくガーネット。


「もう見られましたし、全部話しますわ」

「いや、話したくないならムリに話さなくても……」

「元より見られるのが嫌なだけですわ。話すのは構いませんの」


 重厚な扉が開かれようとされている感覚に、固唾を飲むアルマ。


「私、昔はリチームという村に住んでいましたの。オックスの町の北東にありましたわ」


 『ありました』、過去形だ。


「ある日、その村は魔王軍に襲われましたわ。もちろんただの村に対抗できる力はありませんの。みんな殺され、家は燃やされ……。私は燃える柱の下敷きになりましたの。これはその時の痕ですわ」


 頭のベールを指差す。先ほど見てしまった痛々しい痕。火傷によって毛が抜けた後頭部がその悲惨さの証だろう。


「その時、助けてくださったのが、たまたま通りかかったプラム先生ですわ」

「そうやってハイド村に……」

「ええ。そして私はワーテルストフ修道院の修道女になりましたわ。……私個人として、魔王軍は憎いですわ。心の底から。でもそれ以上に、今この瞬間、他の人も私と同じ目に合っているのかと思うと、とても許せませんの……!」


 震えてゆく声。心配してガーネットの顔を見ると、ちょうど目が合った。


「だから、あなたの旅に同行しましたわ。もう犠牲者を出させないために――」


 足を温泉から抜いて、すっと立ち上がるガーネット。


「さて、背中の話はしましたわ。では……」


 ゴチンッ!


 鈍い音が安楽の地『温泉』に響く。巨大なたんこぶを生やしたアルマがどざえもんのようにぷかぷかと浮かぶ。


「私の着替えは安くありませんのよ?」

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