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Chapter 4  スピナー

 空がまだ明るくなっていない頃、鶏すら鳴かない時間に目覚めたアルマ。その額に避ける間もなく何かが落ちた。


「痛っ」


 赤くなったおでこを押さえながら体を起こす。クリーンヒットしたのはディーアの足だった。あまりの寝相の悪さに、寝る前と比べ、ディーアの頭と足の向きは逆になっていた。

 他のメンバーはぐっすりと寝ていた。1人を除いて。


「その阿保の寝相で起こされたか」


 朝早くから目覚めていたスピナー。腕や脚を充分伸ばし、準備運動をしていた。


「ちょうどいい。付き合え」

「……?」




 舗装とは縁のないような、青々とした木々に挟まれた自然の道。付き合えと言うのは、ランニングだった。

 でこぼこな道を駆ける二人。アルマは決して運動ができないわけではない。高校の体育では中の上、又は上の下といった運動能力だった。しかし、徐々にスピードを上げていくスピナーに辛うじて付いて行くのがやっとだった。

 数十分後、どんどんスピードが落ちていくアルマ。疲れもあるが、道が登り坂に差し掛かったからだ。舗装されていない自然むき出しの山道の恐ろしさを味わっていた。一方、スピナーの速度は落ちる様子がない。むしろギアがかかってきたのか坂道なのに加速しているようにすら見えた。

 ついに足を止めてしまったアルマ。膝に手を載せ、全身で呼吸をする。こんなに疲れたのはいつぶりだろう。止めどなく溢れる汗を拭いながら、息を整えていた。

 アルマの様子に気付いたスピナーが足を止める。

 

「あと少しだ。俺は先に行っている」


 それだけ言い残すと、颯爽と走り去ってしまった。

 あと少し。その言葉を信じて、一歩、また一歩と足を前に出す。何が自分を突き動かしているかは分からない。この程度を乗り越えられないと魔王とは戦えない。そんなことを考えていたわけじゃない。一つ確信をもって言えるのは、『仲間としてスピナーのことをもっと知りたい』。ということだ。

 何分かかっただろうか。ようやくアルマは終点に辿り着いた。あまりの疲れに膝をついて四つん這いになり、荒々しく呼吸をする。


「思ったより遅かったな」


 声のする方を横目で見る。声の主はなんと温泉に浸かっていた。


「この辺、色んなとこに温泉湧いてんだよ。特にこの時期、ここから見える日の出が中々絶景だ」


 指差した方を向くアルマ。遥か遠くに広がる海から鮮やかな輝きが徐々に顔を出していた。この疲労の代償に得られたのが、この景色なのは悪くない。そう思えた。


「お前も入れよ」


 招かれるがままに湯の中に入る。もちろん、左手の包帯は濡らさないように。「はぁ〜」と気持ちよさに声が漏れ出る。その天然の露天風呂は2人までしか入れないくらいの狭さだが、湯加減はかなりよかった。疲れはあっという間に取れていった。

 

「お前、服どこ置いた?」

「ゑ、あそこだけど……」


 岩場の上にある綺麗に畳んだ服を指さす。スピナーはその服へと腕を真っすぐ伸ばし、魔力を込めた。ゆっくりと宙に浮かぶ服。続いて、指を鳴らす。すると服を包むように水の球体が現れ、高速で回転を始めた。アルマにはこれに覚えがあった。洗濯機だ。

 ひとしきり服を水流に晒した水球。それはスピナーの合図で弾けて消え去った。宙に水浸しになった服だけが浮かぶ。三度目の指パッチンが響き、服をオレンジ色の魔力が覆った。みるみるうちに乾いた服。スピナーが手を下ろすと、服も元の岩場の上に落ちた。


「洗濯の魔法なんてのもあるんだ」

「水、炎、風の魔法をいい感じに混ぜて作った。名前はまだない」

「……作った?」


 魔法は昨日貰った魔法大全に載っている物が全てではないということだろうか。魔法はイメージが大切。逆に考えればイメージ次第で新たな魔法に繋がる、ということでいいのだろうか。


「実生活で使う魔法を考えるのが趣味なんだわ。……まぁ、魔法院はこれをクソ魔法としたいらしいが」

「魔法院?」

「この世界の魔法のあり方を決めている組織。魔法大全を発行しているアリウィン魔法学校は魔法院の運営だ」


 突如、真面目な声色で問いかける。


「アルマ、魔法をどう思う?」

「ど、どう思うって……。色々出来て便利だなーって」

「ふっ、悪くない回答だ」


 呆れた表情で明るくなり始めた空を見上げる。


「どうやら魔法院は魔法を武器にのみ使いたいらしい。魔法大全、あれは戦術書だ」

「戦術書……」

「言葉の通り、戦う術が書かれた本だ。今のは第11版だが、昔の魔法大全には部屋を掃除する魔法とか色んな魔法が載っていた。だが、改訂の度にそういう便利な魔法がどんどん消えて、代わりに下らない戦法とかシトラス教の教義とか要らないモンがバンバンぶち込まれている」


 その声は呆れと怒りに満ちていた。その瞬間、声が晴れやかになっていく。


「だが、魔法大全に載っている魔法やその理論は尊敬している。そこで俺は思った。誰にも介入されていない原本なら、俺を満足させられるんじゃないかと」

「原本……」

「1000年前、大魔法使いマイクが書いたと言われている魔法大全原本。俺が探し求めている魔法理論の真理はそこにあるはずだ」


 1000年前。大魔法使いマイク。魔法理論の真理。スピナーの夢の大きさにアルマは圧倒されていた。


ガサッ!


 草むらからの物音に反応する二人。緊張が走る。そこにいたのは、首から上が猪のような人型の生き物だった。


「何だオークか」


 一息つくスピナー。しかし、アルマは見たこともない生き物に警戒を解くことが出来なかった。


「こっちが何もしなきゃ、何もしてこねぇよ。ファーローズにはオークがそこそこいるんだ。昔はもっといたらしいが」


 それを聞いて落ち着くアルマ。スピナーはそのオークに向かって話しかけた。


「風呂に用か? すぐ出るから待っててくれ」

「分カッタ。待ッテイル」


 そう言葉を残すと、オークは茂みへと消えていった。


「しゃ、しゃべった……」


 呆然とするアルマ。


「何ふざけた顔してんだ。早く出るぞ」


 洗ったばかりの服を纏う二人。着替えている最中、アルマはちょっとした疑問を投げかけた。


「あの、スピナーって好きな魔法とかあったりする?」

「……釣りの時使う、魚の疑似餌を作る魔法」


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