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Chapter 1  これから

 ハイド村を出発してから数時間。日も暮れ、野宿することとなった一行は、各々分担して夕飯の用意をしていた。火をおこし、燃料の枝を集め、食材を集め……。その時、事件は起きた――


「ち、ちべたい……です……の……」


 首から下が氷漬けになっているガーネットがそこにいた。その氷のオブジェクトの前には、一つの鍋が置かれていた。そう、粘性に富み、悪臭を放つ紫色の液体……、いや物扱いするのも烏滸がましい何かが入った鍋が。


「な、ん、で、お前が料理してんの?」

「今日こそうまくいくと思いまして……」


 片手に釣り竿を持ちながら、ガーネットを睨みつけるスピナー。

 その横で正座をして謝り続ける者がいた。そう、アルマである。


「ホントにすいません……」


 集めた食材全てをガーネットに手渡したのは紛れもなくアルマなのだ。まさかこんなことになるとは……


「いや、アルマはいい。知らなかったから仕方ない。これを機に覚えてくれ。こいつに飯を作らせると毒物を作りだす、と」

「毒物!? それあまりに酷すぎませんこと!?」


「前、ガーネットの手料理をジャイアントタイガーに食わせたら即死したな」

「ボクは食べ物を食べるのが好きなんだ。でもそれを食べるのは死んでも嫌だ」


 言いたい放題のディーアとライム。


「諦めろ。お前の味方はいない」


 トドメの一撃。意気消沈したガーネットをよそに、スピナーは6匹の魚を取り出した。


「今夜の飯はさっき釣ってきたこの魚だけだ。俺が遅れて来たおかげで、この尊い魚が廃棄処分にならずに済んだ」

「僕がその魚料理するよ。いや料理させてくださいお願いします」


 知らなかったとはいえ、ガーネットの悪行?に加担したのは事実。これくらいはしなければ。日本にいた時、家での料理担当は昔から自分だったため料理には慣れている。片手が使えなくても何とかなるだろう。

 アルマは魚を受け取ると、慣れた手つきで次々捌き、内臓を取り出し、串に刺し、焚火の炎で炙った。異世界とはいえ、魚のおおよその構造が一緒だったのは助かった。


「熟れているな」

「よく料理してたからね」


 



「みんなお魚持って集合。今後の予定話すよ」


 魚が焼けた頃、プラム先生が全員に呼びかけた。囲むように座る5人。


「このまま歩けば、明後日の朝にはオックスの町に着く。まずそこで旅の準備をするよ」

「オックスの町?」

「ここから北に行った所。この辺だと一番大きい町だ。俺達は何回か行ったことある」


 話を続けるプラム。


「で、そこから西にずっと行くとアリウィン城下町に着く。とりあえずそこが最初の目的地」

「アリウィン?」

「魔法の国だっけ? 確かそー呼ばれてる国だ」

「一応ここもアリウィン王国の領土ですわよ。本当に一応ですけど」


 含みのある言い方に引っかかるアルマ。プラムはそれに気づいていた。


「重要なのはここから。アリウィン王国に着くまでに、アルマに色々教えてあげて。これがみんなの課題」

「色々?」

「うん、色々。地理、歴史、宗教、生物、魔法、戦術、剣技……。アルマ、指輪の勇者はこことは別の世界の人間。だから、ここの常識を何一つ知らないんだ。何も知らないと王国で恥かくかもしれないし、何より、知識は優秀な武器だよ」


 確かにアルマは何も知らない。多分その辺の子供の方が物を知っている。先ほどのやり取りを見ても明らかだ。


「プラム先生が教えればいいんじゃねーの?」

「私も教える。けど、みんなに頑張ってほしい。『人に教える』ってものすごく自分のためになるから」


 アルマの方を真っすぐ見るプラム。


「それでいいかな、アルマ?」


 断る理由はなかった。アルマは首を縦に強く振った。


「不束者ですが、よろしくお願いします」


 その言葉が響くと同時に、スピナーがアルマの目の前に四角い何かを叩きつけた。それは本。そう、本ではある。ただし、縦横よりも厚さの方が長く、見るだけで読む気の失せるような本であった。


「ナニコレ」

「アリウィン魔法学校出版魔法大全改訂第11版」

「???」

「俺が教えられるのは魔法だけだ。まずそれ全部憶えてきてくれ」


 いとも容易く出される極悪非道な指示。広辞苑5冊くらいを束ねたような鈍器本を全て憶えてこい。スピナーは何を言っているのだろうか。

 アルマは助けを求めようと、ディーアやガーネットに目線を移す。その二人はため息をついていた。


「うわ出た。スピナーの読め読めハラスメント。通称読めハラ」

「それ、修道院で魔法を教えてと迫られたときに、断るためのセリフですわよね?」


 真面目な顔で記憶を辿るスピナー。


「……いや、断ったことはないと思うが……」

「本気で言ってますの!? こんなの全部憶えている人なんて――」

「俺」


 言い切る前に言いやがった自分宣言。スピナーの恐ろしさが見えた気がした。


「安心しろ。見た目より中身はスカスカだ。それよりアルマ。お前、字読めるか?」


 アルマは本の表紙に目を落とした。『魔法大全改訂第11版』。確かにそう読めた。シトリーがかけた翻訳魔法は識字もしてくれるようだ。適当にページを開くアルマ。言っていた通り、字がびっしりという訳でなく、適度な空白があったり、図解が載せられていたりと、開く前に感じていた凶悪さはなかった。それでも異常な厚さだが。


「うん、読めるっぽい」


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