表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

プロローグ


 ある国の真夜中の出来事。

 人族(ヒューマン)が支配層となっているこの国で奴隷達による大きな反乱が起きた。

 亜人(デミヒューマン)を中心とした奴隷達はヒューマンからの解放を望み国へ戦いを挑み、そして敗れた。


「ガハッ、ゴホッ、ゴホッ!」


「おいッ!しっかりしろ!」


 奴隷達最後の生き残りである大柄な獣人の男が大量の血を吐きながら苦しむ中、一人の少年が懸命に声をかける。

 少年は人族にも関わらず、奴隷であった獣人の男をどうにかして助けようとしていた。

 切り裂かれた腹の傷に包帯を巻き止血を試みても、その努力を嘲笑うかの様に血は流れ続ける。

 

「止まれ!止まれ!止まれってんだよッ!!」


 後ろ髪を背中まで伸ばした黒髪の少年は必死に傷口を押さえつけるが、獣人の男が流した血はすでに致命的な量を超えていた。


「――もういい、リオ」


 黒髪の少年リオが諦められいない中、報われない行為を終わらせる為に獣人の男は告げた。


「けど!」


「私はもう手遅れだ・・・・・・だが、お前はこれからも生きていく。お前の望みを叶えるには、これ以上死にゆく者に時間を使っている場合じゃないだろう?」

 

 己の血で染まったリオの手を男は震える右手で弱々しく握る。その握る力のあまりの弱さに少年は愕然とした。

 獣人の男が持つ桁外れな強さを普段から知っているリオだからこそ、目の前にある命が潰えるのをなにより感じ取ってしまう。


 獣人の男は赤子の頃から知っている少年へ静かに語りかける。


「リオよ。今日起きた事件を目の当たりにしても尚、お前が昔から言っていた大層な夢を叶えられると思うか?」


 死にかけの男が発した問い。それが少年の知人としてではなく、一人の亜人としての問いだと気づいた少年は、涙が流れそうになるのを堪えながら顔を引き締め獣人の目を見て答える。


「ああ、叶える。叶えるさ!だからそれを見届けるまでアンタも死ぬな!」


 男が助かることは無いと悟っていても、そう言わずにはいられないリオ。

 少年の決意を聞き届けた獣人は「フッ」と笑い、話を続けた。この先のリオの人生は過酷な物になるだろうなと思いつつも、それを告げる


「ならばドライクへ行け」


「ドライク?ギルドが管轄しているあの迷宮都市か?」


「そうだ。地下に世界最大の迷宮が広がっている。昔から数えきれないほどのハンターが挑むも誰一人としてあの迷宮を攻略できた者はいない」


「なんでオレがそこへ行く?」


「いつの時代も世界が動く時には必ずあの都市が関わっているからだ。ドライクに関われば最後、誰であろうと時代の変化へ少なからず巻き込まれる。そういう場所だ」


「時代が動く都市・・・・・・」


「そうだ。お前もこの国にはもういられないだろう。我々を手助けしてしまった立場だからな。どのみちこの国から脱出しなければならない。迷宮都市ドライクに入れば、他国からの干渉も妨げることができる筈だ」


 リオは奴隷達へ協力してしまった。このままでは、この国生まれた者でありながら奴隷の反乱に手を貸した罪に問われるだろう。

 反乱が失敗した今、追ってから逃れるためには国から出なければならない。

 そうした事情を考慮した上で、少年は迷宮都市ドライクへ向かう決断を下した。


「ーーわかった。オレ行くよ、迷宮都市」


「そうか・・・・・・」


 リオの決断を見届けた獣人は徐々に意識が遠のいていくのを堪え、最後の言葉を少年に伝える。


「ドライクはこの先の時代を背負う、数々の強者が集う場所だ。お前もその強者達に加わってこい。期待・・・して・・・いる」


 獣人は少年へ最後にそう伝えると瞳から光が失われ、息を引き取った。


「・・・・・・」


 獣人の死を見届けたリオは、獣人の瞳をそっと閉じてしばらく冥福を祈った。

 短い時間が経過した後、反乱奴隷を討伐するための軍隊が近づいてくる音が聞こえてきた。騒ぎを聞きつけたリオはその場を立ち去りこの国の西側に存在する世界最大の都市ドライクへひとり向かった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ