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レファタリス  作者: めた'36
旅立ち
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2-1,旅立ち(前)

2-1,旅立ち(前)

 顔に射す陽光にアリシアは目を覚ます。

 昨日の疲れは癒えていたが、いつもなら目を開けると見えるはずの天井が、今日はだだっ広い青空だけだったので、昨日の事を思い出し、再び疲労感に襲われた。

 少し身体を起こして辺りを見ると、ファノンが何かごそごそと作業をしていた。

 どうやら雑嚢に必要なものを詰め込んでいる様だ。

「まぁ……少なくともこれで飢え死にする事は無いだろう……」

 食糧は十分らしい。作業を続けるファノンの向こうの空に、天高く聳え立つ塔が見える。

 どれだけの高さがあるのか、上の方は霞んで見えない。

 あれがこれから目指す場所、大霊廟エズル・バシュタである。

 人が誕生する前から存在しているとされ、『霊廟』と呼ばれてはいるが、誰が葬られているかは不明である。

「お母さんが、あそこに……」

 未だ信じられない様子でアリシアが呟く。

「昨日の今日で既に着いてるかどうかは微妙なところだがな。まずは『アレ』の下にある町を目指す。」

 かなりの距離があるのだ。更にファノンの話では、途中からは砂漠が続いているという。

 周辺には中継地点となる町や村も無いので、砂漠は一気に突っ切らねばならない。

「町……」

「ああ、中央都市イシュト=ナーフだ。」

 謎な部分の多い大霊廟だが、人々からは崇められており、その周りに自然と町が築かれたのだという。

 アリシアは知識としては知っていたが、生まれてこの方、森を出た事が無いので、その外は未知の世界そのものであった。

 今までしていた森の散策とはまるで規模が違う。

 アリシアの胸中は不安に満ちていたが、母サリアと離れ離れでいる事の方がよっぽど不安だった。

「ああ、そうだ、資金はどうする? 『この世界』の通貨なんて持ってないぞ」

 また『この世界』である。ファノンの話す事は何処か根本的にズレている気がしている。

「お金……ですか」

「宿代とかその他諸々な。これから何かと金は必要になるぞ」

 家の焼け跡に金庫の様なものも見当たらなかったらしい。

「私のお小遣い……じゃ大した足しにはなりませんよね。そもそも見付かるか怪しいですが」

 寂しげに呟くアリシア。

 と、ファノンが何か思案して、

「『アレ』でも売るか?」

 昨日の『兵器』の大剣を指して言う。

「大量生産品で大したものじゃないが、素材自体は悪くない筈だ。」

 何をどこまで知っているのか。

「だが『この世界』の文化レベルがな…アレを扱える水準に達していれば良いんだが」

「そういう事なら駄目元で私がお持ち致しましょうか」

 アリシアの枕元のマフラーがお辞儀をする様に動きながら言う。

「え、ヴェリオン大丈夫? 重くない?」

「この身体も結構馬力出るんですよ、ほらこの通り」

 マフラーの端が大剣の柄に巻き付き、軽々と振るって見せた。

「じゃあ頼めるか? 私は使えそうなものが無いかもう少し探してみる」 

「了解致しました」

「(この中じゃ私が一番力も弱くて……足手まといにしかならないんじゃ……)」

 アリシアがそう思っていると、ファノンが察したのか

「お前にはサリア譲りの透視能力があるだろう?」

 と言った。

「使い方にもよるが、結構便利だぞ、それ」

「そ、そうでしょうか……」

「ああ、私も随分助けられたものだ」

 この幼女は母と本当にどういう関係だったのだろう…答の出ない疑問がアリシアの中を漂う。

「あとはーーーー……コネを頼ったりもしてみるか。」

「コネ……ですか」

「ああ、頼りになりそうなのがある」

 どういう方面で頼りになるのだろうか、という疑問が湧いたがアリシアは聞かないでおいた。

 また意味不明なパターンのやつだろう、と判断したからだ。

 ……既にコミュニケーションに問題がある気がする。

 その時、ふっ、とアリシアの頭上に影が落ちた。

 何かと見上げたアリシアは固まった。

 巨大な生物の頭部が頭上にあった。

 ファノンは特に反応を見せない。

「ウワサをすれば何とやら、だな。」

 その生物は全身が木の幹の様な茶色をしていた。

 エイの様な身体から脚が四本生えており、尾と思われる部分は葉の様な色をしていた。

 その生物はチッチッと奇妙な音を立てた。

 頭部のやや前方に火花の様な光が微かに見える。

 ……アリシアの思考は完全に停止していた。

 エズル・バシュタの『兵器』ともまた違う、得体の知れないものがすぐ傍に居たのだ。無理もないだろう。

 ただ、敵意の様なものは不思議と感じられなかった。

 生物は音を立てながらファノンの方へ顔を向け、近づいていく。

 ファノンの方は平然としている。

「あれ…でも森の中で何度か見た事ある様な……?」

 アリシアは記憶を辿る。

 そう、ファースト・コンタクトでは無かった。

 幼い日に初めて見た時は大騒ぎでサリアの元へ知らせに行ったものだ。

 当時サリア曰く、

「大丈夫、悪い子じゃないから」

 良い子とか悪い子とかいう話なのか。

 敵対する様な相手ではないと知ってとりあえず安心はしたが、その巨体の威圧感たるや、口にし難いものがあった。

 その為、アリシアはそれからその生物を見掛ける度、近寄らずに遠巻きに見ている事にした。

 その生物が今、向こうから近づいて来ていた。

「ファノンさん……!」

 ファノンの動きは止まっていた。

 茶色の生物の頭部が目と鼻の先まで来ていた。

 本当に大丈夫なのか。

 アリシアは慌てて駆け寄ろうとしたが、ファノンが手のひらをこちらに向けてそれを制した。

「いや、私は別にいい。問題はあっちだ。」

 ファノンは生物に話しかけている様だ。言葉が通じる……様には見えないが、その生物はファノンが『あっち』と指した方……アリシアの方へ向き直った。

 再びチッチッと音を立てながら生物の頭部が、今度はアリシアに近付く。

「……っひ!?」

 思わず悲鳴が漏れる。

「大丈夫だ、じっとしていろ」

 ファノンは淡々とした口調で言った。

 だから本当に大丈夫なのか。

「隣人なのに挨拶がまだだったとはな」

 ファノンが言った時、生物の頭部は既にアリシアの鼻先まで来ていた。

 そして次の瞬間、アリシアの視界は真っ白になった。

「え……? あれ……? 何……? ファノンさん、何処……?」

 辺り一面真っ白だった。

 しかし消えてしまったわけでは無いらしい。

 地面を踏む感触も、風が頬を撫でる感触もあった。

 ただ、景色だけが真っ白だった。

「驚かせてしまった様ですまない。君は生まれた時からこの森に住んでいたな。もっと早く挨拶を済ませておくべきだった」

 馴染みのない声。しかし不穏なものは一切感じられなかった。

 声の主は、アリシアの前に立っていた。

 視界が真っ白になる直前にあの生物が居た場所……に木の色をした人が居た。

「あなたは……?」

「私……我々……は『森の一族』……と呼ばれている。君が生まれるずっと前からこの森に居た。」

「森の……一族……」

「個としての名は無い。そもそも我々は『個』の概念が希薄なのだ」

 周囲と同じく、アリシアの頭も真っ白だった。

 生まれる前からという事はこちらが他所者という事か。

「君の母上が連れ去られたと聞いてね、この森を発つという声が聞こえたから少しお邪魔させて頂いた。」

「お母さん……お母さんを知っているんですか……?」

「ああ、君の母上は『協定』をとても大事にしていたよ。それ故に今まで君との接触が叶わなかったとも言える。君自身も我々を怖がっていた様だしね」

「あっ……す、すみません……!」

 悪いのはむしろこちらではないかと感じたアリシアは咄嗟に謝った。

 まだ混乱しており、『協定』という聞き慣れない言葉には注意が向いていなかった。

「いいや、どちらが悪いとかそういう事じゃないんだ。色々とタイミングが悪かっただけさ、色々と、ね」

「あれ……?」

 心を読まれたかの様な言葉にアリシアは一瞬疑問を覚えた。

「我々は発声器官を持たない。故にコミュニケーションは互いの精神を接続して行うんだ。つまり『ここ』は君と私の頭脳が繋がった場所だ」

「は……はぁ……?」

 アリシアは理解が出来なかった。

「『ここ』では言葉は要らない。思考が互いの認識を通して共有されるんだ。その代わり嘘もつけない」

「……???」

「ああ、君にはまだ難し過ぎたかな。連れの『彼女』とは話が早かったんだけど……」

「あ……ファノンさん! ファノンさんは!?」

「心配は要らない。『彼女』とも少し『会話』しただけさ。」

「私……行かなくちゃ……!」

「大変な時に余計混乱させてしまった様だ。すまない」

「あ、いえ、いいんです! ただ急がないと……!」

「気をつけてね、『彼ら』の目的は君の母上だけでは無い。いや正確には別のところにある」

 忠告の様な言葉と共に真っ白だった空間がさぁっと晴れていく。

 次の瞬間にはアリシアの目の前に立っているのはあの生物になっていた。

 ファノンは既に少し先に進んでいた。

 アリシアは茶色い生物にペコリとお辞儀をし、ファノンの後を追い掛けた。

(前)って入れたけど全然旅立ててないって云う……アッハイ自覚はあります!

自覚あれば良いってもんじゃない。

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