巨大ドラゴンとの遭遇
島を飛び立ち、しばらく湖を上から眺め、その先には鬱蒼とした森が広がっている。
2人を阻むような強大な気配を体中で感じる。
マヤは右腕を空に差し込む。肘より下が空間に吸い込まれ、そこから大槍が引き出された。異空間ストレージである。
「ルナ、飛ぶことに集中してね。」
「OK」
マヤの全身に、ツタのような炎のような形をした印が現れた。集中力が高まり、魔力も身体能力も数倍あがる。
気を纏った彼女は森に潜む魔物と闘う備えをする。
トルード族の中で気を纏うことができたのはほんの一部の女性のみである。
その中で200年と短い間に進化をとげ、瘴気を克服する遺伝子を受け継いだのもマヤだけなのだ。
一瞬、空気が揺らいだ。息をのむ。
そして森の茂みから一筋の光が、マヤ達めがけて放たれた。
間一髪、ルナが旋回し回避する。
そしてその光の源の茂みが、大きく崩れそれは現れた。
巨大な希少種ドラゴン、この世界最強種・・・ルナの3倍ほどになるだろうか。
真っ黒いその躰は鈍く輝いて、鱗の隙間が赤く上気している。金色に開かれた鋭い瞳は、こちらをギロリと睨んでいる。
「ヤバイ・・・」
ルナが小さくつぶやいた。
「無理・・・これは、絶対無理」
いきなり現れた巨大ドラゴンに、マヤはすっかり戦意喪失だ。
「「一旦、退避!」」
2人はぐるりと回れ右をして、来た方向へ戻っていく。
ドラゴンはマヤ達を追いかけない。
森と湖とでは瘴気の濃度が違う。危険を冒してまでドラゴンは追ってこない。
「どうする?南、あれは無理。東行く?」
ルナは背中に乗ったマヤに話しかけた。
「・・・うん。4日で森を抜けれたらいいと思ってたけど、東は範囲が広いから・・・ルナは大丈夫なの?」
「大丈夫」
はっきり言って、実際の森の大きさなんて分からない。
マヤは生まれてから島から出たことがない。ルナも産まれたのがこの島だった。大きな卵が砂浜に打ち上げられていたのを島民が見つけたのだ。その後、保護されてからずっと一緒に育ってきた。
200年前、島に辿り着いたご先祖様が持っていた文献に書かれた地図には、島を中心に森が広がっており、南は比較的森の範囲が狭くなっていた。
ご先祖様は森を抜けるだけで1か月ほど掛かったらしい。その当時は徒歩だったらしく、大変な苦労だっただろう。さらには危険な湖も立ちはだかって、その上に2か月を要したと記されていた。
「ドラゴン、いないといいな」
ルナは自分もドラゴンなのを忘れているように言った。