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C代償1

C代償


 回る回る貴女は回る

 僕の周りを笑顔が回る

 あまりに踊って回り疲れて

 僕は貴方を立たせて消えた


 隔離病室。社会のしがらみから極力隔離して治療に当たるための部屋。医療関係者ですらめったに訪れないその部屋で、私は今日最後の仕事をしている。記録付けだ。正直、細かい記録などは看護師に任せればよいのだが、この患者は特別なのだ。今は面会する人もいない寝たきりの少女。少女と言っても年齢はもう二一歳だ。四か月前に犯罪集団に拉致されて監禁。拷問を受け発狂。この病院に運ばれる。目が覚めている間はずっと発狂しており手に負えない。結果、投薬により昏睡状態を保つことにした。今日も昏睡状態を維持している、と。


 患者の名前は月風花。


 私の患者だ。今のところの回復の見込みはない。それが私の見立てである。とても美人で可愛らしいうら若き乙女だというのに、可哀そうである。しかし、現代医術の、いや医術の限界というべきなのだ。心の病は。私たち普通の医者がどうこう出来る代物ではない。


 時間だ。病室を後にし、病院を出る。外は雪が降っていた。予報があったので厚手のコートがある。私は構わず帰路を進んだ。


 と、バタバタ。


 雪の中、鳥が羽ばたく音がしたようで不思議に思って振り返った。すると、見たことある青年がそこに立っていた。雪の中にいるには少々薄手に感じた。傘も差していない。


「お久しぶりです。先生」


 月風花の彼氏だ。回復の見込みがないことは伝えてある。ようやくそれを受け入れたのだろうと思っていたのだが、どういう風の吹き回しだろう。


「純君と言ったかな。久しぶりだね。どうしたのかな。申し訳ないが面会の時間は終わっているよ」


 社会人になる青年だったが、恋人のお見舞いに毎日のように来ていた。本来なら家族以外の面会は遮断なのだが、彼は特別だ。



「すみません。どうしても花に会いたいんです。会わせてくれませんか」


「申し訳ありません。花さんは症状が思わしくなく、面会はご家族のみの対応となります」


「どうしても、どうしてもダメですか。どうしても会いたいんです」


「……申し訳ありません」


「どうしたんだ、純」


「武志……。花に、花に面会したくて」


「あれ、なんで入れないの」


「すみません。面会はご家族のみなんです」


「あっ、そうだったんだ」


「なあ武志、どうにかならないか」


「ああ。あの、家族の許可があってもダメなの」


「はい。主治医が許可しない人は入れない決まりになっているので。申し訳ありません」


「そっか。じゃあ田原先生呼んでくれない」


「先生は勤務中ですので。他の患者さんもいますし、難しいです」


「それなら大丈夫。もうすぐ俺と話すことになっているから。ここで話したいって言ってくれればいいだけ」


「……」


「なっ、お願い」


「わかりました。お伝えします」


「ありがとう、武志」


「まだわからないぞ。田原先生次第だからな」


「ああ」


「どうしました、月風さん。デリケートな話ですので中でしたいのですが」


「まあ、それはそうなんだけど。その前にちょっとお願いがありまして」


「お願いーー」


「はいこいつ。こいつ、花の彼氏なんですが、こいつを花に会わせて頂けるようにしてくれませんか」


「いや、それはーー」


「事情は両親から聞いて知っています。でも今は昏睡状態なんでしょう」


「昏睡状態なのか」


「事情は後で説明するから。えっと、ガラス越しなら大丈夫だと思います。それにこいつほっとくと、こいつも頭おかしくなって入院するかもですよ」


「お願いします。会わせて下さい」


「……わかりました。少し書類を書いてもらうことになりますが」


「はい、構いません」


「ご両親のサインも必要なので、面会は一週間後になりますよ」


「でもすぐそこにーー。いえ、大丈夫です。わかりました」


「ではまた一週間後に。月風さんはこちらへ」


「これが俺の限界だ。また後で事情も様子も連絡すっから、今日は仕事に戻れ」


「ああ……。ありがとう、武志」



 ご家族総意の許諾と嘆願が出ている。特例中の特例だ。しかしそんな彼も一週間前から姿を見せなくなった。それが正解だ。まだ若いのだから、他を探すべきなのだ。と、思っていた。

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