表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
唐沢あずはの人間論  作者: あーの
7/10

ワビシキヒト

「ねえあたし唐沢さんと仲良くなりたいんだ、よかったら友達になってよ」


その言葉にクラスメイトの彼女――唐沢あずははこちらを一瞥することもなく本を読み続けていた。

まさかとは思うけど理由があって近づいていることに彼女は気づいているのだろうか。

とそんなことも考えたけれど何日か彼女を見ているとそれが間違っていることにすぐ気が付いた。


そう――ただ単純に興味がないのだ。


その対象はあたしだけじゃあない、クラスメイトも彼女を見に来た誰に対してもそうだった。

唯一クラスメイトの麻奈とだけは仲良くしているようだから何かしらの基準で人を選んでいるのだろう。


まあいくら本人がこの調子とはいえど一樹に頼まれたことはちゃんと遂行しなければならない。

それが一樹との約束なのだから。





あたしと一樹は同じ施設で育った、いわゆる幼馴染というやつだ。


当時から比較的社交的で友達の多かったあたしはその頃の一樹にとって唯一の友達だったと思う。

いや彼は多分あたしを友達だなんて思っていなかった――あくまでも一方的に話しかけてくる変な奴だったかもしれない。

それでも一樹はある程度あたしのことは認めてくれていたようで先生達には話さないことも時々話してくれていた。


そんな何でもないある日。

棚瀬のことが好きになったとあの人嫌いの幼馴染から告白されたときには流石のあたしも驚いた。

だってそうじゃないか、今まで人のことを嫌いになることはあれど受け入れることのなかった彼が。


これはいわゆる同性愛、俗に言うボーイズラブというやつなのだろうか。

一般的なことではないのかもしれないが初めて彼が心を開いたのだ。


あたしはどんなことがあろうとも最後まで絶対応援してやる。

成長する息子を見守る気分になりながら――そう心に誓った。





一樹が棚瀬のことを好きになってからこの約3年間、棚瀬に好意を持ったり棚瀬が好意を持ったりした相手を排除していくことがあたしのやるべきことだった。

そのためにはその好意を持つ相手が他の人を好きになればよいのでは――なかでも邪魔したい張本人の一樹を好きになるのが一番動きやすいのではと結論付けたあたし達は今までそうして動いてきたのである。


傍からこれを見れば短絡的な行動に思えるだろうが、今まで恋愛をしたことのないあたし達にとってこれぐらいしか思いつかなかったのだから仕方がない。

そして今回も勿論同様にしていくつもりだったのだ。


しかし棚瀬はもとより一樹やあたしまでも興味を示すことのないこれは――何より明白な拒絶だった。


当初の目的こそ棚瀬から彼女を話そうという目的で近づいたがどうやらあたしも気付けば彼女に魅入られていたらしい。

ほぼ誰にも心を開かないそんな彼女に強さと、美しさと――そして侘しさを感じたのである。

本人が気付いていようといまいとに関わらずこんな寂しい生き方はないだろう。


あたしならとてもじゃないけど生きていけない、あたしが友達になってあげないと。


こんな感情一樹に出会ったとき以来だ。

きっと彼が彼女のことを不快なのはきっと自身に似ている所為もあるのだろう。


そんな一樹には申し訳ないけれど彼女は棚瀬に興味もないようだし、今回はあたしが友達になりたいという方向でアプローチしていくことを許してもらおうかな。

心のなかで親愛なる幼馴染みに謝りつつ、あたしは今日も懲りることなく彼女に拒絶されに行くのだ。


矢川たづきから見た唐沢あずはとは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ